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「今年のもう一つの大きな挑戦は少子化対策です。昨年の出生数は80万人を割り込みました。少子化の問題はこれ以上放置できない、待ったなしの課題です。(中略)小倉大臣の下、異次元の少子化対策に挑戦し、若い世代からようやく政府が本気になったと思っていただける構造を実現するべく、大胆に検討を進めてもらいます」
今年1月4日の年頭記者会見で、岸田首相はそう発言した。これを受けて政府は「異次元の少子化対策」の実現に向け、3月末をめどに少子化対策をとりまとめるとしている。
しかし1月19日に開かれた初会合で、
- 児童手当を中心とした経済支援策の充実
- 学童保育や一時預かり、産後ケアなどのサービス拡充
- 子育てしやすい働き方改革
が主要議題に据えられたと報じられ、「異次元」対策の目玉が児童手当の拡充であるらしいということが分かると、ネット上やメディアで、これが本当に「異次元」と呼ぶにふさわしいものか?という疑問の声を数多く目にするようになった。
「この10年が最後のチャンス」なのか?
ここへきてさまざまな政治家が少子化問題について発言するようになっているが、例えば、自民党の茂木幹事長の「この10年が少子化反転できる最後のチャンス」という言葉に対しては、「最初のチャンスから最後のチャンスまでの間に何をやってきたのか」「何度目の『最後のチャンス』なの?」といったツッコミをあちこちで目にした。私自身、「何を根拠に、あと10年も猶予があるというのだろう?」という疑問を感じた。
茂木氏の発言に関連して大拡散されていたツイートの一つは、「やす」さんという方のものだ。彼は人口動態のグラフを示しつつ、「残念ながら最後の10年のチャンスはとっくに終わりました」「第2次ベビーブーマーの45歳-55歳の女性たちが出産可能であった2003-2013年がラストチャンスだった」という指摘をしている。
少子化については、30年も前から予測されており、対策が叫ばれてきたにもかかわらず歯止めがかかっていない。それどころか、政府の出生率予測は下方修正され続けている。
国立社会保障・人口問題研究所による2017年の推計(公式予測)では、「出生数が80万人割れとなるのは2030年、70万人割れとなるのは2043年、60万人割れとなるのは2054年」となっている。しかし、2030年に達するとされていた「出生数80万割れ」は、2022年に達成されてしまった。出生数50万人割れが政府予想より20年前倒しとなる可能性を指摘する研究者もいる。
政府のこれまでの予測は楽観的すぎ、よって問題への取り組みが先送りされてきたことは否めないだろう。まずは予測の妥当性を見直すべきであろうし、80万人割れが8年も早く起きてしまった以上、これまで政府がとってきた少子化政策が機能しておらず、狙った効果を生んでいない、あるいは何らかの理由でむしろ逆効果になっている(少子化を加速させている)可能性を疑うべき時なのではないかと思う。
「最大の原因は晩婚化」なのか?
もう一つ、注目されたのが、麻生副総裁の「(少子化は)出産するときの女性の年齢が高齢化していることが一番大きな理由」という発言だ。
この発言を聞いて私が思ったのは、「最大の原因は、晩婚化以前に、経済的不安ではないのか」ということだ。
今の20~30代は、親世代がその年齢だったときよりも稼げていない。非正規雇用の率も高く、経済的に安定していない。女性の就業率はそこそこ高いかもしれないが、これまた非正規で不安定な雇用の率が高い。日本の実質賃金は過去30年間事実上まったく上がっておらず、今では欧米のみならず、東南アジアの国にも追い抜かされつつある。円安も手伝って、最近では、日本の最低賃金はオーストラリアのそれの半分であるという話も流れた。
自分の生活の見通しも立たないのに、月当たり1万円だか1万5000円だかの児童手当をもらえるからといって子どもをもとうと思うだろうか。子育て支援策が大事であることは言うまでもないが、残念ながらそれだけで少子化は改善されない。大元の経済力がおぼつかない限り、人々の考えは変わらない。
麻生氏は2020年にも、少子化問題について「結婚して子どもを産んだら大変だとばかり言ってるからそうなるんですよ」という発言をしているが、実際に「大変だ」「苦しい」と感じている人が今の日本に少なくないという現実は、庶民にヒアリングをすればすぐに明らかになるはずだ。
また、政府の中には「晩婚化が問題。よって結婚支援が重要」という発想も根強くある。自民党の衛藤・少子化対策調査会長も「結婚支援が重要だ」という見解を明らかにしている。
晩婚化は、女性の高学歴化や社会進出のせいにされることが多いが、それは問題の一部でしかない。晩婚・非婚になっているのは男性も同じで、その根底には上記のような経済的不安がある。
また、最近、都道府県や市町村など公的機関が「婚活サポート」なるものをやっている話を報道で目にすることが多くなったが、私はこれにも疑問がある。無駄だというのではない。地元での出会いの機会がない人たちに、新たな場を提供することには意味があるだろう。ただ、人生における重大な決断である結婚という問題について、国が「結婚して」、さらに「子どもをつくって」と言うのは、大きなお世話だとも思う。
何より、「結婚支援が必要」という発想に対する私のもっと根本的な疑問は、「子どもを増やすには、結婚する男女を増やせばいい」という発想が短絡的すぎ、古典的すぎるのではないかということだ。
子どもの出生を、あくまでも結婚を前提に考えているところ、つまり「婚姻」という形に固執しているところが古風というか、従来通りすぎる。価値観がアップデートされていない。これでは「異次元」どころか、まさに今の次元のままだ。
私は、(婚活サポートも結構だが)国が本当にやるべきなのは、どうしたら婚姻関係にこだわらず人々が自由に子どもをもてる社会を作れるかを真剣に考え、これまでの前提を一旦すべて疑ってみるということではないかと思う。
アーダーンのようなリーダーが日本で生まれるとは思えない
2月に辞任することを表明した記者会見を終え、パートナーと会場を後にするニュージーランドのアーダーン首相(右)。在任中は働く女性リーダーとして世界的にも注目されてきた。
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さまざまな生き方や家庭のあり方を肯定する社会になれば、子どもをつくる人は増えるはずだ。後述するが、これは他のいくつかの国が既にやって結果を出している話なので、それらのケーススタディを分析すれば、おのずとヒントが見えてくる。
最近ニュージーランドのアーダーン首相が退任することを発表して話題になったが、彼女は日本語で言うところの「未婚の母」だ。退任を発表した会見で、婚約者に対する感謝の言葉を述べた彼女は、「(首相を辞めたら)ついに結婚しましょうね!」とユーモラスに言い、場を和ませた。
彼女は、30代女性として一国の首相になっただけで十分に歴史を作ったが、首相在任中に出産し、乳児を連れて国連年次総会に出席したことでも世界から注目を集めた。それまでに首相在任中に出産したのはパキスタンの故・ブット首相だけで、アーダーンが2人目と、まだまだ世界でも例が少ない。
アーダーンが「燃え尽きた」と言って退任するのを見て残念に思った女性は多いのではないかと思う。ただ、彼女が「大きな社会的責任を担う職につく女性でも子どもを産んでいいし、子どもを持ってもちゃんと仕事は続けられる」ということを身をもって示したことは、それ自体大きなメッセージであり、世界中の女性たち、女の子たちを勇気づけたと思う。
ニュージーランドは政治の世界でも男女平等が進んでいる国の一つで、2022年には国会議員の過半数が女性になったほどだ。その国と日本を比べること自体に無理があるが、日本でアーダーンのような人が首相になることを想像できるだろうか? 若くて、結婚しておらず、首相在任中に未婚のまま子どもを産むような女性ということだ。
子どもを作ることについて、どこまでも結婚を前提とし、「未婚の母」を何か道徳的に欠けたものとして捉える社会である限り、まずは考えられないことだろう。
「異次元」と呼ぶにふさわしいハンガリーの少子化対策
ブダペストの公園で遊ぶ子どもたち。ハンガリーでは2000年代に出生率が低迷したが、現在のオルバーン政権が発足した2010年以降は回復しつつある。
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少子化を止めた国の例として注目を集めているのが、ハンガリーだ。オルバーン首相は「ハンガリーのトランプ」などと呼ばれ、批判を受けることも多い政治家だが、少子化問題については本気で取り組んでおり、賞賛されている。ハンガリーは、GDP比5%という思い切った額を少子化対策に充て、実際に少子化に歯止めをかけているのだ。
実際にどのようなことを行っているのか、「人口増加に執念、ハンガリーの『すごい』少子化対策」という記事で近藤大介氏が簡潔にまとめてくれているので引用させてもらう。
- 子どもの数に合わせた所得税減税制度:4人目の子どもを産むと、定年まで所得税ゼロ。1~3人までは、人数に応じて減税措置がある。3人以上の子どもがいる家庭は、7人乗り以上の新車を購入すると、7500ユーロの補助金がもらえる。
- 3年間の有給育児休暇:2015年から、新婚カップルに対する税額控除を導入。2018年7月からは無利子ローン制度も。
- マイホーム補助金、住宅ローンの減額制度
- 大卒以上の高学歴女性の出産を促す政策:大学の学費に充てる学生ローンを借りていた女性が第一子を妊娠した場合、妊娠3カ月目から3年間、返済を停止できる。第三子出産後は残額全額が免除される。
- 体外受精への健康保険適用:第一子に対して5回まで、第二子以降は4回までの体外受精費用を全額補助
- 国営の不妊治療専門機関を全国に12カ所設置
といったことだ。この結果、子どもを望むハンガリー人カップルが増加、女性の就業率も、婚姻数も上がっている。実際にポジティブな結果が出ているのだから、この中の一つでもいいから、日本でも試してみてはどうだろうか。税額控除などは、日本でも非常にありがたがられるはずだ。
少子化は先進国の多くが経験している世界的トレンドではあるが、上記のハンガリーに加え、北欧諸国やフランスなどいくつかの国では、政策により少子化の流れを逆転させ、出生率を回復させることに成功している(ただしフランスでは、2010年をピークに緩やかに下り坂になっている。それでも、2020年の合計特殊出生率は欧州連合内で最も高い)。これらを分析すれば、今日本に何が欠けているか、何を変えるべきかが見えてくるはずだ。
フランスは19世紀から出生率低下に悩んでいたが、出生率を2.0までに回復させ注目を集めた。その決め手となったのは、「シラク三原則」とPACS(民事連帯契約)であったと言われている。
「シラク三原則」
- 子どもを持つことによって新たな経済的負担が生じないようにする
- 無料の保育所を完備する
- 3年後に女性が職場復帰するときは、その3年間、ずっと勤務していたものと見なし企業は受け入れなくてはいけない
もうひとつのPACS(民事連帯契約)は、婚姻していないカップルや同性カップルに対しても、結婚に準ずる権利を付与するもので、1999年に制定された。これによって、結婚や家族に対する考え方が大きく変わったとされている。フランスでは、婚外子比率が2006年に50%を超えた。
多様な生き方を認めて出生率が回復
婚外子の世界的増加は、フランスに限った話ではない。OECD諸国の多くでは、婚外子率が1970年から2020年までの50年で、少なくとも25%上昇している。
(注)チリ、アイスランド、エストニア、アイルランド、キプロス、イスラエルは2019年のデータ。ベルギーは2018年のデータ。「EU平均」はEU加盟の26カ国の平均値。「OECD平均」はOECD加盟37カ国の平均値。
(出所)OECD, "OECD Family Database," SF2.4 Share of births outside of marriageをもとに編集部作成。
このグラフが示すように、2020年の時点で、デンマーク、スウェーデン、ノルウェー、フランス、アイスランドなどでは半分以上が婚外子となっており、アメリカでも40%だ。2018年のEUでは42%が婚外子であり、その比率は2000年から17%上昇しているというデータもある。
欧米で婚外子率が高い要因としては、法律婚をしていなくとも法的保護や社会的信用が与えられているということが一つ。もう一つは、未婚の若者が後先考えずに生んでもそれをサポートしてくれる仕組みがある、ということがあるのではないだろうか(ただしアメリカの場合、婚外子の問題は、シングルマザーの問題、格差貧困の問題、人種の問題でもあり、さらに皆保険ではない社会という厳しい背景もあるので、欧州とは状況が違うと思うが)。
OECDのグラフの末端に日本と韓国がある。ご覧のとおり、日本の婚外子比率は他の諸国と比べると極端に低い。平成27年版厚生労働白書でも2.11%とされている。
日本では、文化的にもだが、婚外子への法律的差別は戸籍記載面や相続税法上で厳然と残っている。「出産・育児は婚姻関係内において」との意識が強いし、事実婚には、法律婚が受けられるさまざまな優遇措置は認められていない。
ただ、いろいろ読んでみると、かつては、フランスやスウェーデンでも非婚カップルや婚外子に対する差別や偏見が強く存在していたという。これらの国々では、世の中の動きや人々のライフスタイルの変化に合わせ、さまざまな改革を経て、現在のような多様な生き方を認める形に至ったのだ。それとともに女性の就業率も出生率も上がっている。「女性の社会進出のせいで少子化が起きている」というのは、必ずしも本当ではない。社会進出と出生率をともに上げることは可能だということはこれらの国が示している。
最近は二言目には「ダイバーシティ」「多様性」と言うのだから、婚外子(非嫡出子)にとって不利益が起きない社会をつくることは、日本がそろそろ取り組まなくてはならないことだろう。それができたら、結婚せずに子どもを産む女性は増えるのではないだろうか。
私のアメリカの友人にも、「結婚はしたくないし、夫も要らないけれど、子どもは欲しい」と言って、精子提供によって子どもをつくり、一人で育てている女性が複数いる。また、夫婦同然に共に生活し、子どもも一緒に育てているけれども、法律的に結婚していないカップルも奇異なものではない。妻が外で働き、夫がフルタイムで子どもを育てている友人も複数いる。いろいろな生き方、家族のあり方があって当然だし、それぞれが自分たちに合ったやり方で決めればいい。
同性婚についてもそうだ。同性婚は世界30カ国以上で認められているが、日本では認められていない。同性カップルにも異性カップルと同様の法的権利が認められ、養子縁組や代理出産契約がごく普通のこととしてできようになったら、日本にいる同性カップルでも子どもを育ててみたいという人たちは少なくないはずだ。
アメリカのブティジェッジ運輸長官(以下のInstagramの写真右)は同性愛者だが結婚し、子どももいる。CNNの人気アンカーであるアンダーソン・クーパーも同じだ。アメリカも、歴史的には同性愛者への差別が激しい国だが、そのくらい、今や社会からも受け入れられているということだ。
日本では「同性婚を認めると、少子化が進む」という政治家の発言がこれまでにもしばしば炎上してきたが、私は、こういった考え方は的外れなものであるばかりか、実際は逆だと思う。同性婚であれ婚外子であれ、さまざまな家族の形を肯定する社会になれば、子どもをもちたいという人はむしろ増えると思うからだ。
男女不平等な国ほど出生率が低い
自民党の衛藤・少子化対策調査会長は、「4年制大学を出た女性が地方に帰りたがらない」「女性が働ける職場を全国で作らなければ問題は解決しない」という発言もしている。「少子化問題あるある」だが、「少子化を止めるには女性たちをどうにかしなくてはならない」という捉え方は、一面的すぎると感じる。真の問題はもっと大きいと思うからだ。
少子化問題について語るとき、必ずと言っていいほど「女性の働き方改革が必要」という言葉が出る。しかし、根本的に変えなくてはならないのはむしろ日本男性の働き方ではないだろうか。そちらを変えない限り、女性の働き方も変わらないし、家庭における女性への重圧にも変わりはない。
「男女不平等な国ほど出生率が低い」ということは、既にさまざまなデータが示している。
(出所)James Feyrer, Bruce I Sacerdote and Ariel Dora Stern, "Will the Stork Return to Europe and Japan? Understanding Fertility Within Developed Nations," Journal of Economic Perspectives 22(3):3-22, July 2008; Figure 5 "Total Fertility Rate versus Share of Housework/Child Care Done by Men in 2000"をもとに編集部作成。
男女不平等な国ほど、性別役割分担意識が強く、男性が家事や育児に割く時間も少ないわけだが、日本はそこにバッチリ当てはまる国の一つと言っていいだろう。
「男は仕事、女は家庭」に同意する割合をOECD19カ国で比較すると、日本およびポルトガルが最も高く、30.5%(内閣府「男女共同参画社会に関する国際比較調査」2002年)となっている。そして、日本では、フルタイムで働いている女性は男性より4倍以上育児時間が長い。男性の家事関連時間を諸外国と比較してみると、日本は先進国の中で最低だ。
「女性の社会進出のせいで晩婚化が進み、少子化になった」「結婚しない女性が増えている」と、あたかもすべて女性のせいのように言われることが多い少子化問題だが、今の日本の状況からすると、「そんな重圧に耐えなくてはならず、ワンオペが目に見えているのなら、べつに結婚しなくてもいいし、子どももいらない」という女性が増えてもおかしくはないだろう。
男性側にしても、「もっと家事・育児・介護を分担しましょう!」と言われても長い労働時間や通勤時間が従来のままでは、分担のしようもない。時間がないし、そもそも疲れすぎている。
ここを変えること、それと同時に、家事や育児を金銭でアウトソースすることが、誰でもできる普通のことにならない限り、家庭において女性にかけられている重圧が軽くなることはないだろう。
「子どもを産み育てたい」と思えない社会
日本の子育てはまだまだ男女平等からは程遠い。少子化対策について議論するのであれば、まずは女性たちの話に耳を傾けるべきではないだろうか。
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女性が子どもを産みたいと思わない限り少子化問題は解決されない。女性がどうして子どもを持つことに消極的になるのか、という問題は、多くの男性政治家たちが考えるほど簡単ではない。
一つ分かっているのは、国のために子どもを産みたい女性なんて一人もいないということだ。出産する・しないは、女性にとって最もパーソナルな問題の一つだ。なのに、あたかも女性が国のための「子どもを産むマシーン」であり、産まないことは国に対する奉仕が足りないことであるかのように捉えている政治家はいまだに多い。数えきれないほどの炎上発言がありながら、しつこく繰り返されているのは、それが根底にある彼らの揺るぎない考え方に他ならないからだろう。
「子どもをたくさんつくった女性が将来、国がご苦労さまでしたといって面倒をみるっちゅうのが本来の福祉です。ところが、子どもも一人もつくらない女性が、好き勝手とはいっちゃいかんけど、まさに自由を謳歌して楽しんで、年とって税金で面倒みなさいちゅうのは、本当はおかしいんですよ」(2003年、森喜朗氏〔当時、自民党少子化問題調査会長〕)
(社会保障費の増加について)「高齢者が悪いというイメージをつくっている人が多いが、(女性が)子どもを産まないのが問題だ」(2014年、麻生太郎氏)
「新郎新婦には、必ず3人以上の子どもを産み育てていただきたい。結婚しなければ、ひとさまの子どもの税金で老人ホームに行くことになる」(2018年、自民党の加藤寛治衆院議員〔批判を受け発言を撤回〕)
これらの発言の裏には、「異性カップルが法律婚をし、子どもを育てることが標準であり、これが日本のザ・伝統だ」という彼らの「常識」が透けて見える。でも、この「常識」を維持することに無理があるからこそ、日本は現在の状態になっているのではないだろうか。
日本では、あくまでも婚姻からなる世帯を単位とし、性別役割分業が前提とされ、賃金も上がらず経済的に不安がある。婚外子をもつことは現実的な選択肢ではないし、そもそも女手ひとつで子どもを育てていけるほど経済的に自立できる女性も、他の先進国と比べて非常に少ない(女性の就業率はそこそこ高いかもしれないが、キャリアを持ち、男性と同等に報酬を得ている女性が少ない)。そういう社会の中で女性たちが「子どもを産まない」という選択をしたとして、それは女性だけのせいだろうか。
日本が、「子どもを産んで育てたい」と思える国であれば、子どもを産む人はおのずと増えるはずではないだろうか。目指すべきなのは、女性に「早く結婚して子どもを産め」とせっつく社会ではなく、女一人で子どもを産んでも食べていくのに困らないような社会、結婚せずに産んでも母子が一切差別されない社会、女性にばかり子育ての責任を押しつけない社会なのではないだろうか。
そして、少子化対策について議論するのであれば、まずは女性たちの話に真剣に耳を傾け、インプットを得るべきではないだろうか。先日の初会合の写真を見たら、会議室の中は見事に男性ばかりだった。
アフターピル問題の議論を見ていても感じることだが、男性たちだけが集まって「どうしたら女性がもっと子どもを産むようになるか」と議論する様子は、まるで建国直後のアメリカで白人男性(当時、参政権を持つのは基本的に彼らだけだった)が女性や黒人の問題について勝手に決めていた頃のように思える。
現実は、「日本は、結婚し、子どもを育てたいと思う男女が少なくなってしまった国だ」ということを示している。その根底には数えきれないほどの複雑な原因がある。それらを一つひとつ洗い出し、直視し、これまでの前提をすべて疑い、他国の成功例から謙虚に学ぼうとしない限り、解決には結びつかない。それこそが、今求められている「異次元の対策」だろう。
渡邊裕子:ニューヨーク在住。ハーバード大学ケネディ・スクール大学院修了。ニューヨークのジャパン・ソサエティーで各種シンポジウム、人物交流などを企画運営。地政学リスク分析の米コンサルティング会社ユーラシア・グループで日本担当ディレクターを務める。2017年7月退社、11月までアドバイザー。約1年間の自主休業(サバティカル)を経て、2019年、中東北アフリカ諸国の政治情勢がビジネスに与える影響の分析を専門とするコンサルティング会社、HSWジャパンを設立。複数の企業の日本戦略アドバイザー、執筆活動も行う。株式会社サイボウズ社外取締役。Twitterは YukoWatanabe @ywny