中国「61年ぶり人口減」で世界はどう変わる?ゴールドマンS最新報告書が示唆する未来

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北京市内の高齢者施設にて。以前から少子高齢化の深刻化が指摘されてきた中国で、61年ぶりの人口減を記録。世界の人口バランス、パワーバランスに変化の兆しが見える。

REUTERS/Carlos Garcia Rawlins

14億人超と世界最大規模の人口を抱える中国の人口が減少に転じたことで、「中国台頭」時代はピークを超えたようにみえる。

少子高齢化が経済低迷につながるのは日本をみても明らかだが、それでもある大手金融機関は、中国が2035年に国内総生産(GDP)でアメリカを抜いて世界1位の経済大国に躍進、半世紀後も「中国の時代」は続くと予測する。

米中対立を軸に世界秩序の潮流変化を見ることに慣れた現在の風景も、半世紀後には中国、インド、アフリカの新興国などを中心に多極化する全く別の風景に置き換わっているはずだ。

61年ぶりの人口減、GDPも政府目標に届かず

中国国家統計局は1月17日、2022年末時点の中国(台湾、香港、マカオを除く)の総人口が前年比85万人減り、14億1175万人になったと発表した。減少は61年ぶり。

中国の人口減少は以前から指摘されてきた。国連が2022年7月に発表した「世界人口推計2022年版」は、インドが2023年に中国を抜いて、世界で最も人口の多い国になると予測している。

2022年末時点でのインドの推計人口は14億1200万人(国連調べ)で、中国の発表と合わせて見れば、世界1位は2023年を待たずしてインドに置き換わった模様だ。

人口と同じ日に発表された中国の2022年のGDP伸び率(速報値)は前年比3.0%増と、政府目標の5.5%前後に届かなかった。そのため、人口減少が経済成長の足かせになるイメージを増幅させた。

建国100年を迎える2049年に「世界一流の社会主義強国」を実現するという中国の戦略目標の達成を危ぶむ声も出始めた。

中国政府による対策も空しく……

中国の人口問題と政府による対策の経緯をざっと振り返っておこう。

1949年の建国以降、中国で人口が減ったのは1960年と61年の2回だけ。「建国の父」毛沢東が発動した鉄鋼や穀物の増産計画「大躍進」運動の導入後、中国を襲った飢饉(ききん)によって2000万人とも言われる大量の餓死者を出したのが原因だった。

その後、共産党内の権力闘争に端を発し大衆運動に発展した「文化大革命」(1966〜1976年)を経て、中国政府は1979年に人口爆発を抑制するため、都市部で夫婦が産める子どもを1人に制限する「一人っ子政策」を導入。

それに加え、都市部での非婚化・晩婚化も手伝い、生産年齢人口(16~59歳)は2007年をピークに減少に転じた。

中国共産党は少子高齢化と人口減少が経済衰退を招くとして、2016年に一人っ子政策を廃止し、2021年には産児制限を撤廃して3人目の出産を解禁した。

さらに、小中学生向けの学習塾を規制して家計の教育負担を和らげ、出生率向上につなげようとしたものの、少子化に歯止めはかかっていない。

地方も次々と出産奨励策を打ち出し、例えば、広東省深セン市は3人目を産むと最大3万7500元(約75万円)を補助する制度を導入。また、浙江省杭州市は2023年から体外受精による不妊治療にかかる費用を公的医療保険の対象にする方針を打ち出した。

定年延長も検討されている。

中国の定年は原則として男性60歳、女性50歳(幹部職は55歳)。2035年には60歳以上の人口が4億人を超えて全人口の3割超を占める見込みとなり、政府は定年延長の検討に着手した。

同じく少子高齢化の問題を抱える日本でも、児童手当や子ども手当の支給、定年延長などの少子化対策がとられてきたが、やはり歯止めはかかっていない。人口減少を止める「特効薬」はないのが世界の実情だ。

「1990年前後の日本に近い」と専門家

中国経済を専門とする、経済産業研究所(RIETI)コンサルティングフェローの関志雄氏は、「2020年の中国の人口の年齢構成は1990年前後の日本に近い。1990年以降、日本経済は長期低迷に陥っており、少子高齢化がその一因」と指摘する。

「少子高齢化が加速する中国 —日本との比較を中心に—」と題する関氏の連載記事(2022年10月27日付)を読むと、「失われた30年」を経験した日本と同様に、中国もこれから衰退の道をたどり、豊かな先進国になる前に高齢化が進行する「未富先老」時代を迎えるのではとの疑念が沸いてくる。

また、民間研究機関の日本経済研究センターは2020年、中国が2029年にアメリカのGDPを抜いて世界1位の経済大国になると予測していたが、2022年11月になって、「2035年までに中国の名目GDPが米国を超えることは標準シナリオ(保守的な予測)でもない。2036年以降も中国の成長鈍化は確実視されるので、中国が米国を超えることはない」との新予測を発表している。

「中国が世界首位の経済大国に」とゴールドマンS

一方、米金融大手ゴールドマン・サックスは2022年12月、2075年までの世界経済に関する報告書を発表。中国のGDPは2035年にアメリカを抜いて世界1位の経済大国に躍進し、2075年までの約50年間にわたって「中国の時代」が続くと予測した。

同報告書は、世界経済が今後10年、3%をやや下回る成長を続けた後で下降に向かうとみる。その理由として、世界人口の伸びが1%に鈍化し、2075年には増加が止まって減少に転じることを挙げている。経済成長の制約要因はここでもやはり人口減だ。

また、中国の実質GDP成長率について、2020年代は4%強、その後2030年代が2.5%、2040年代は1.6%、2050年代に1.1%と次第に減速していく展開を報告書は予測する。

その間、アメリカは1%台半ばで低迷。2075年には中国だけでなくインドにも追い抜かれ、世界3位に後退する。アメリカの時代は名実ともに幕が引かれる。

このゴールドマン・サックスの報告書は、半世紀後の世界像として、現在の主要7カ国(G7)を中心とする先進国が後景に引き、代わって中国をはじめ人口増加を続けるインド、インドネシア、ナイジェリアなど開発途上国が躍進する姿を示している。

その予測が正しければ、大国の興亡が半世紀にわたって目の前で繰り広げられることになる。

その中でも特に凋落が目立つのが日本だ。

岸田首相は事あるごとに「日本はアジア唯一のG7メンバー」と誇らしげに語るが、ゴールドマン・サックスの報告書は、日本のGDPが2050年にインド、インドネシア、ドイツに抜かれて世界5位となり、2075年にはナイジェリア、パキスタン、エジプト、メキシコにも抜かれ12位まで転落すると予測する。

世界12位まで後退しても、1人当たりGDPは8万7000ドルと、中国の5万5000ドルを上回る予測なのは救いかもしれない。

ただし、アジア諸国では韓国(10万1000ドル)に抜かれ、岸田首相お気に入りの「アジア唯一」のブランドは通用しなくなる。

さて、アメリカと日本は……

もちろん、ゴールドマン・サックスの予測が的中するとは限らない。

前出の関氏は、中国の今後の経済政策上の問題点として、「国内では公有制への回帰、対外関係では米中経済のデカップリングが進む中で、政府の産業政策の重点がむしろ国有企業と自主開発能力の強化に置かれているため、成長回復への道は困難を極める」と指摘する。

中国自身も成長維持の難しさを自覚している。2013年には投資先と市場をユーラシア大陸からアフリカに拡大する「一帯一路」を提起し、国内では政府主導で人工知能(AI)を駆使した最先端技術による産業高度化を図るなど、着々と手を打ってきた。超大規模な市場を抱える優位性もある。

少なくともそれらの点で、構造改革に失敗した日本とは対照的だ。

一方、アメリカは日本を巻き込みつつ台湾有事を煽って、中国を軍事抑止する世界戦略を今後10年にわたって展開する計画だ。建国以来、分断要因を内部に抱えてきたアメリカは、そうやって常に外部に敵を求め、団結のエネルギーにしてきた。

グローバルリーダーとしての地位を確立するため、ベトナムやイラク、アフガニスタンなどで軍事侵攻・支配の経験を積み重ねてきたアメリカは、それを中国にそのまま投影して牽制する「軍事優先思考」が強い。

しかし、中国の力の源泉は重商主義的な経済にある。

フランスの人口歴史学者エマニュエル・トッドは、中国の人口減少について「将来の人口減少と国力衰退は火を見るより明らかで、単に待てばいい。待っていれば、老人の重みで自ずと脅威ではなくなる」と、中国脅威論を否定する(文春オンライン、2022年11月5日付)。

岸田政権はアメリカ主導の下、台湾有事を念頭に大軍拡路線と敵基地攻撃能力の保有という歴史的な政策転換に乗り出した。

今後半世紀に及ぶ可能性のある「中国の時代」を前に、ほとんど効果も意味もない軍事優先の思考で突き進んでいくばかりでは、日本の凋落に歯止めはかからない。

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