アイダホ州のオーチャード戦闘訓練センターで行われた第116回の「eXportable Combat Training Exercise」で、有刺鉄線を乗り越えて進むミネソタ州軍の主力戦車「M1A2エイブラムス」。
US Army photo
- 北大西洋条約機構(NATO)の同盟国やパートナーは、ウクライナに対して戦車の供与を決めた。
- 戦車を送るべきかどうか、盛んな議論が行われた後、いくつかの種類の戦車がウクライナに送られることになった。
- アメリカは、強力な主力戦車「エイブラムス」を供与する。
アメリカはウクライナへ次々と武器を送っている。歩兵戦闘車に続いて強力なロケット砲、卓越した防空システムを供与することを約束し、そして今、議論の末に主力戦車「M1エイブラムス」を送ることを決めた。
しかし、2023年1月18日には、アメリカ国防総省のコリン・カール(Colin Kahl)政策担当次官が、アメリカはエイブラムスを供与する準備ができていないと述べていた。「エイブラムスは非常に複雑な装備であり、高価で、訓練が難しく、ジェットエンジンを用いている」ことがその理由だ。それでも1月25日、これまでの方針を転換し、アメリカはヨーロッパの同盟国とともに、ウクライナに戦車を供与することを表明した。
イギリスの「チャレンジャー」、ドイツの「レオパルト」、アメリカの「エイブラムス」は、ウクライナがこれまで利用してきたソ連時代の戦車よりも優れた能力を持つ近代戦車で、戦線が動かなくなった状況で、敵陣を突破して新たな攻撃を仕掛けて打撃を与えるのに必要な機動力と火力を提供することができる。
アイダホ州のオーチャード戦闘訓練センターで、実地訓練を行うミネソタ州軍、第2-116騎兵旅団戦闘団(CBCT)A中隊の「M1A2エイブラムス」。
Thomas Alvarez/Idaho Army National Guard
ウクライナ国防省は、戦車供与に関してアメリカが払拭できずにいる懸念を軽減しようと、エイブラムスを「娯楽用多目的車(recreational utility vehicle)」と捉えてみてはどうかとユーモアを込めて提案した。だが、この重量級無限軌道車はあくまでも世界有数の高性能を誇る戦車だ。
西側諸国は、ウクライナに戦車を送ることを非常に心配しており、何が「戦車」で何がそうではないかについて議論している。そこで、ささやかな提案をさせていただきたい。
エイブラムスは、クライスラー・ディフェンス(Chrysler Defense。現ゼネラルダイナミクス・ランドシステムズ:General Dynamics Land Systems)の重装甲製品で、アメリカ陸軍の旧式戦車「M60」の後継として、1970年代に開発された。1980年に正式採用されたが、1990年代初頭の湾岸戦争まで戦闘には参加しなかった。
この戦争で戦闘部隊に配備されたエイブラムスは約2000両で、損傷または破壊されたのは23両だけだった。しかも、壊れた9両は敵の攻撃を受けたわけではなかった。
エイブラムスの乗員は、ソ連時代の戦車「T-72」による正面からの直撃を受けたが、軽度の損傷だけで済んだと報告していたことが、政府説明責任局(GAO)のレポートに記されている。
湾岸戦争後、アメリカ軍は改良型の「M1A2エイブラムス」を開発し、さらにこの20年間、着実に改良を加えてきた。エイブラムスは、イラク戦争の初期に大規模な戦闘に参加し、アフガニスタンでも使用された。
第1騎兵師団第3装甲旅団戦闘チームが、砲術テストの一環としてエイブラムスの最新バージョン「M1A2 SEPV3」で砲撃する様子。2022年9月22日、ポーランド、ドラフスコ・ポモルスキエ訓練場のミエルノ戦車演習場にて。
US Army Photo by Staff Sgt. Charles Porter
「M1A2」は、重量63トンで、AGT1500ガスタービンエンジンを搭載し、1500馬力で最高時速は67.6km/h、火力として主砲の120mmM256滑腔砲の他、M2.50口径機関銃、7.62mm機関銃M240を2丁装備している。
エイブラムスは、砲手、装填手、運転手、司令官の4人の乗員を乗せ、機動力と火力を発揮する。そして最も重要なのは、敵陣の弱点を突き、攻撃の突破口を開くための衝撃を与えられることだろう。
敵との交戦時には、劣化ウランを装甲材として取り入れた改良型のチョバムアーマーで保護される。その防御力は、装甲版に貼り付ける爆発反応装甲ブロック(敵弾の着弾と同時に爆発し、エネルギーを相殺して侵徹を妨ぐ)によってアップグレードできる。
ジェネラル・ダイナミクス・ランド・システムズは現在、次世代型の「エイブラムスX」主力戦車の開発を進めている。これは、AI(人工知能)を採用しており、現行より少ない乗員でも戦闘能力が向上し、燃料効率も高まるという。
第1騎兵師団第3装甲旅団戦闘チームが、砲術テストの一環としてエイブラムスの最新バージョン「M1A2 SEPV3」で砲撃する様子。2022年9月22日、ポーランド、ドラフスコ・ポモルスキエ訓練場のミエルノ戦車演習場にて。
US Army Photo by Staff Sgt. Charles Porter
アメリカはこれまで、エイブラムスの整備や運用の難しさを理由に、供与をためらってきた。
海軍分析センター(CNA)のロシア専門家で、元アメリカ軍将校のジェフリー・エドモンズ(Jeffrey Edmonds)がInsiderに語ったところによると、アメリカはエイブラムスをウクライナに届けるために必要なことをすべきだが、それを阻むハードルがあることを認めている。
「戦車の構成部品すべてに関わるメンテナンスの問題があり、これは本当に難題だ」とエドモンズは述べ、何千もの小さな部品があり、その中には戦車を正常に作動させるために不可欠なものもあるため、ウクライナ軍がそれを手に入れ、現場で使えるようにしなくてはならないと指摘した。
第1騎兵師団第3装甲旅団戦闘チーム第8騎兵連隊第3大隊が、アメリカ陸軍の新型主戦戦車「M1A2 SEPV3エイブラムス」のテスト発射の準備をする様子。2020年8月18日、テキサス州フォートフッドにて。
US Army photo by Sgt. Calab Franklin
「もうひとつ、あまり議論されていないことといえば、乗員がどれだけ訓練され、戦車をいかに使いこなせるかということだ」とエドモンズは述べ、「戦車で戦うことは一種の職人技のようなものだ」と指摘した。
しかし、ウクライナがこの戦車を適切に運用できれば「ウクライナ軍にとってすばらしい戦車となる」とし、「戦車が生まれた理由は、動かなくなった戦況を流れるようにするためだ」と説明した。
ウクライナ戦争の最前線は残酷で、戦闘は砲撃の応酬になり、双方とも得るものはほとんどない。
ウクライナ側が求めているエイブラムス、レオパルト、チャレンジャーなどの強力な最新戦車や、すでに供与されているさまざまな武器は、ウクライナ軍が攻勢をかけ、敵陣を突破するのにまさに必要なものになるかもしれないが、実際のところはまだ分からない。
アメリカはウクライナに31両のエイブラムスとその維持に必要な装備や部品を送るとしているが、これらが戦場に到着するのは数カ月後になりそうだ。