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商品を購入する際、お店やサービスを利用する際、ネットで「口コミ」を検索して情報を得ることが当たり前になっている時代。転職活動においても、応募先候補企業の口コミを参考にしたいと考える人は多いようです。
こうしたニーズを受け、働いている社員・過去に働いていた社員の口コミを掲載しているサイトも複数生まれています。
企業研究をする際、公式サイトなどの情報を見るだけでは「実態」は分かりません。漠然としたイメージだけで企業を選び、入社後にギャップを感じて早期退職に至るケースは多々あります。
実際にその企業で働いた経験者のリアルな声は、志望企業を選択する際の判断材料の一つとして有効といえるでしょう。
ただし、こんな声を聞くこともあります。
「ある企業のカジュアル面談を受けたらとてもいい雰囲気だったので魅力を感じていたが、口コミサイトを見てみたら印象と全然違ってかなりひどく書かれていた。こういう口コミはどの程度信用に足るのか分からないが、怖くなって結局そこは辞退してしまった」
この方の判断が正しかったのか誤りだったのかは分かりません。
「入社する前に内情を知り、失敗を防げてよかった」のかもしれませんが、もしかすると「いいかげんな情報に惑わされ、大きなチャンスを逃してしまった」可能性もあります。
そこで今回は、企業の口コミサイトを利用する際に心がけるべきこと、効果的に活用する方法をお伝えします。
「どんな人が書いているか」を意識する
前提として、企業口コミサイトにコメントを投稿するのはどんな人なのかを想像してみましょう。
私が認識するかぎりでは、対象企業に在籍中かつ現状に満足している人が、こうした口コミサイトに自主的に投稿することで何らかのインセンティブを得られる仕組みはないようです。つまり、投稿するメリットがあまりありません。
また、ある口コミサイトの利用ルールとして、自身が企業の口コミを投稿することによって、他の企業の口コミの閲覧も可能になります。
他の企業の口コミを見たい人とは、おそらく「転職活動中」の人。つまり、在籍中の企業に何らかの不満を抱いて転職しようとしている人、すでに退職して転職活動を行っている人が投稿している可能性が高いといえるでしょう。
もしかすると、「憂さ晴らし」的な感覚で、ネガティブな情報を書き込んでいる人もいるかもしれません。
逆にいえば、今の会社に満足し、転職を考えていない人は、あえて口コミサイトに投稿する理由も機会もほとんどないわけですね。
こうした背景を踏まえ、ネガティブな内容が目立ちがちになることを認識しておいてください。
昨今は、さまざまな商品・サービスで口コミ情報をチェックする習慣が根付いていますので、多くの人は客観的な視点を持って判断する力がついていると思います。
それでも、ネガティブな情報を目にするとどうしても気になり、引きずってしまうことがあります。くれぐれも鵜呑みにしないことが大切です。
口コミ情報を見る時に注目するポイント
口コミ情報を見る時は、次の観点を持つことをお勧めします。
ネガティブな情報をそのまま受け取り、早まって「応募しない」という判断をするよりも、少しでも興味があるなら応募してみて、疑問や不安を抱いたポイントについて面接時に確認してみましょう。
「一部」のことなのか「全社」のことなのか
いいことも悪いことも、「一部の部署・職種」に限った話であるケースもあれば、「会社全体」に共通しているケースもあります。
「自分が応募したい部署・職種ポジションではどうなのか」を見極めましょう。
また、投稿者の個人的な状況がコメントに反映されていることも。それを会社のカルチャーそのものと受け取り、誤解することもあります。
例えば、投稿者が「たまたま自身の直属上司と折り合いが悪かった」などの事情で「居心地の悪さ」を感じていたことに対し、「人間関係がぎくしゃくしている職場なのか」と思い込まないようにしたいものです。
「現在」はどうなのか
例えば、労働環境や評価制度などに関するネガティブな口コミについては、「その投稿者はいつの時期にそれを体験したのか」が重要なポイントです。
今は多くの会社が急速に「働き方改革」を進めていますし、「人的資本経営」が注目を集める中で人事制度・評価制度の見直しも行われています。
以前は社員に不満を抱かれるような労働環境・制度だったのが事実だとしても、今は刷新され、働きやすくなっているかもしれません。
また、急速に拡大したベンチャー企業などであれば、ハードワークにより「労働環境がブラック」などと言われることもよくありますね。
しかし、「上場」を機にコンプライアンス体制が整備されるため、上場後には労働環境が改善されている可能性があります。
また、近年のベンチャー企業は、ビジネスモデルを軌道に乗せたり一定数の顧客を獲得したりした段階などで、M&Aにより売却するケースも多数。大手企業に買収され、親会社と同等の待遇・制度が導入されて働きやすくなっているケースもあります。
会社の沿革や最近のリリースなどもチェックし、「現在」の状況を確認してください。
「自分にとって」どうなのか
投稿者にとっては不満を抱くことであっても、自分にとってはそれがメリットであるケースもあります。
例えば、こんな口コミコメントがあったとしましょう。
「上司や先輩がちゃんと指導してくれない。指示もあいまいで放置されている」
こんな不満な状況が、人によっては「願ったり叶ったり」であることもあります。「上司から細かな指図を受けず、自分のやり方で自由にやれるんだ!」と。
逆に、口コミで「仕事が楽」とプラス評価されている企業で、「仕事が退屈。チャレンジができず、成長を実感できない」と不満を抱く人もいるわけです。
「この人にとっては不満のようだけど、自分にとってはどうなのか」という観点を忘れないでください。
自分の目で確かめる、信頼できる人から情報を得る
上記の観点で口コミ情報を読み、気になったポイントは面接で確認してみましょう。
人事担当者に「こんな口コミを見たのですが、実際はいかがでしょう?」とストレートに質問を投げかけてもかまいません。
「離職率」を確認するのも一つの目安となります。
職場の雰囲気や仕事の進め方に不安を感じるなら「配属先部署のメンバーの皆さんとお話しする機会をいただけませんか」と交渉してみるのも手です。
また、オフィスに足を運べば、会社の空気を感じとり、自分にフィットするかどうかを判断できるのではないでしょうか。
とはいえ、企業側が正直に話してくれないこともありえます。
面接で聞く以外にも、SNSなどのネットワークからその会社で働いている人・働いていた人を探し出し、アプローチして話を聞いてみてもいいでしょう。
また、私たちのような転職エージェントを情報源として活用していただくのも有効です。
私も30年近く転職エージェントを務める中で、「今の会社を辞めたい」と相談にくる方々から、さまざまな企業の裏情報をお聞きしています。
「この会社はこうだと聞いたのですが……」「そんなことはないよ」ということもありますし、逆に「その会社はお勧めできない」ということもあります。
正直なところ、いわゆる「ブラック企業」は確かに存在します。
そして、「実はブラック」な企業に対し、良いイメージと憧れを抱いている人(特に新卒・第二新卒層)に出会うこともあります。
これは「経営者が二面性を持っている」企業に見られる傾向です。
外向きの発信では良いイメージを抱かれていても、内部では「何でも独断で決めて、社員の意見を聞かない」「戦略や方針がコロコロ変わる」「社長の好き嫌いで人事評価が決まる」など、社員が不満を抱いたり疲弊したりして辞めていくケースもあるのです。
転職エージェントを活用する場合は、担当コンサルタントに企業の評判に尋ねてみてはいかがでしょうか。
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※本連載の第96回は、2月13日(月)を予定しています。
森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル〜仕事の流儀〜」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。