「経営の本気度が違う」 新生パナソニックのCHROとGXリードが語る、未来を見据えたカルチャー変革
2022年4月に新体制となったパナソニックグループ。「パナソニック」の名を受け継ぎ、家電・空調・電気設備など、くらしに関わる幅広い領域でビジネスを手掛けるのが「パナソニック株式会社」だ。
同社は新体制発足にあたって、ミッションに「Life tech & Ideas 人・社会・地球を健やかにする」を掲げた。グループの礎であるものづくりを手がけ、国内外でグループ最多の約10万人が働く企業は今、人・社会・地球の未来のために、どんな方向に向かおうとしているのか。
「大企業病」とも揶揄されてきたパナソニックの変革への兆し、そして今後のありたい姿について、同社の人事戦略やカルチャー改革を担うCHROの加藤直浩氏と、全社をあげたGX(グリーン・トランスフォーメーション)に取り組むサステナビリティ戦略リードの真鍋馨氏に聞いた。
これまでの仕組み、カルチャーを「大胆に変える」
加藤直浩(かとう・なおひろ)氏/パナソニック株式会社 取締役 執行役員 チーフ・ヒューマン・リソース・オフィサー(CHRO)。パナソニック入社後、一貫して人事畑を歩む。多くの経営者とともに、組織変革、タレントマネジメント仕組み構築、報酬制度や拠点改革などを担当。1999年に欧州勤務を経験、2010年にオートモーティブ事業部門の人事部長。2013年に北米本社の人事担当役員として世界最大級の車載電池工場の立ち上げを担当。2022年4月より現職。新たな経営体制のもと、ゼロベースでミドルマネジメントの活性化、チャレンジを後押しするカルチャー構築、魅力ある報酬スキームづくりなどを推進中。
——2022年4月に新たに発足したパナソニック(株)について、グループ内の位置づけやお二人の役割を教えてください。
加藤:生活家電から始まったパナソニックの100年以上の長い歴史を受け継ぎ、みなさまにお馴染みの家電領域から照明、配線、空調設備、また店舗や倉庫などの冷蔵・冷凍機など、くらしを支える事業を担っています。
パナソニックグループ全体の売上高の中でも、パナソニック(株)の売上は約4割をしめていて、グループの柱的な存在と言えます。
これまで日本で一番、人のくらしに寄り添ってきた会社だという自負があるし、その蓄積も非常に大きい。一方で、規模が大きくなり事業が複雑化する中で生まれた、いわゆる“大企業病”とも言われる企業のカルチャーや仕組みを大胆に変えていく必要がある。私はそこにHR領域から、真鍋さんはGX領域から取り組んでいます。
真鍋:そうですね。私はこれまで新規事業を生み出す現場にいて、今はGXを推進する経営サイドにいますが、これまでになかった仕組みをつくり、動かしていくという点ではやっていることは同じだと考えています。
真鍋馨(まなべ・かおる)氏/パナソニック株式会社 戦略本部 CGXOチーム 兼 CFOチーム サステナビリティ戦略リード。2003年に入社、乾電池事業の調達業務を担当。2009年から本社経営企画部にてグローバル経営体制構築・M&Aを推進。2016年から新規事業アクセラレーター「Game Changer Catapult(ゲームチェンジャー・カタパルト)」を立ち上げ、事業総括として複数の新規事業責任者を務める。2021年より現職にてサスティナビリティ戦略を策定・推進。
加藤:新体制の発足に際して掲げた「Life tech & Ideas 人・社会・地球を健やかにする」というミッションは、決してきれいごとではなく、パナソニックの経営戦略そのもの。すべての人、社会、そして地球環境も含めて長期目線でウェルビーイングを実現していこうというものです。
真鍋:そうですね。エネルギーや資源を大量に使う製造業として、全ての事業活動においてサステナビリティを実現していく必要があります。パナソニックグループ全体のCO2排出量は年間約1.1億トンで、そのうちパナソック(株)は約0.95億トン。実に約90%を占めていることになります。CO2の削減は企業としても急務で、その責任もインパクトも大きい。でもそれは同時に、大きな事業機会、改革の機会でもあると思っています。
パナソニックグループは2022年1月に、グループ全体で徹底したエネルギー削減を行い、社会のエネルギー変革の実現に向けてさまざまな領域でCO2排出削減の働きかけを行う環境コンセプト「Panasonic GREEN IMPACT」を発表。パナソニック(株)でもGXを経営戦略に据えて取り組んでいる。
提供:パナソニックグループ
経営陣が「本気で向き合う」そして「ブレずにやり続ける」
——加藤さんが経営チームの一員として統括するHR領域では、パナソニック(株)のミッション実現に向けて、どんなことに注力していますか。
加藤: HR施策を通して「企業のカルチャーを変える」ことですね。長い間HR領域に携わってきて実感しているのは、カルチャーを変えるには、まず仕組みから変えることが不可欠だということ。
パナソニック(株)は、100年以上の歴史と国内外で約10万人規模の従業員を持つ会社で、会社という大きな船が向かう先を変えるには多大な力の結集が必要。そのためにはまず、一人ひとりが向かう先を変えなければなりません。
これまでは、何か新しいことをやろうとするとエネルギーの多くを社内に向けなければならない面も少なからずありました。そのエネルギーをもっと外に、つまりお客様や社会に向けることができるカルチャーやマインドをつくろうと取り組んでいます。
真鍋:その点で言うと、現場の変化も感じています。 2022年4月のパナソニック(株)発足後、経営トップから戦略について対外発信をする機会を積極的に増やしていて、長期でのGXをリードする事業の一例として、水素を活用したRE100(Renewable Energy 100%の略)ソリューションを挙げています。
それと同期して、現場の各部門がそれぞれの持ち場で、社会のため、未来のためにと外に向けて取り組んでいるうちに、来日したドイツ大統領に実証サイトを視察いただく機会が実現するといった、次に大きくつながる反響も出始めました。
パナソニック(株)では、事業活動で消費するエネルギーを100%再生可能エネルギーで賄う実証施設「H2 KIBOU FIELD」(滋賀県草津市)を2022年4月15日より稼働。水素を本格活用する世界初のRE100工場として注目を集めている。
提供:パナソニック(株)
加藤:次につながる動き、素晴らしいですね。
真鍋:また社内で経営層が発する言葉を聞いていても、パナソニック(株)の経営陣が、これまでのやり方や会社のカルチャーを本気で変えようとしていることがよく分かり、「本気度」が違うなと感じています。
加藤:それは嬉しい。まずはトップが本気で向き合い、旗を振ること。そしてミッションの実現に向けて途中でブレずにやり続けることが大切だと思っています。
「人・社会・地球を健やかにする」ことは、決して一朝一夕で叶えられることではありません。また、自分たちの世代だけではなく、継続的に実践し続ける必要がある長期スパンの話です。実現のための道筋づくりを、短期的の数字や効果などに一喜一憂することなく、まっすぐ、迅速に進めていかなければならない。
しかしここしばらくは、グループ全体が経営も現場も短期志向になってしまうことがありました。
真鍋:そうですね。人や社会、地球を健やかにするミッションを掲げている以上、長期の視点は欠かせないし、GXはまさに長期視点なしでは成り立たない取り組みです。
今私たちがGXでやろうとしていることは、脱炭素に向けた国際的な目標水準はあれど、実現手段はまだ人類として十分に見出せていない未知の領域へのチャレンジ。さまざまなステークホルダーと協働して2030年、2050年を見据えて取り組んでいます。
加藤:人事としては、意欲とアイデアを持った人がチャレンジできることが当たり前であるカルチャーをつくって、パナソニック(株)が大きな変化をもっと迅速に進められるようにしたい。
今必要だと思っているのは、現場への権限移譲です。現場が主体的に動けるための新制度の導入にも積極的に取り組んでいて、「任せて任せず」という創業者・松下幸之助の言葉をさらに進めて「任せて任せきる」ところまでを目指しています。
権限を委譲することで部門ごと、現場ごとに最適な制度をとれるような体制をつくりたいと思っていて、人事制度では新たな制度が2023年4月からスタートします。
真鍋:パナソニック(株)の発足から数カ月のうちに、少しずつ変化の兆しが見えるようになってきましたよね。
加藤:そう。2022年9月には、挑戦を称える「Make New Award」という表彰制度を新設しました。これも失敗を恐れず、チャレンジした人が報われることを可視化するため。たくさんのアイデアやソリューションが集まり、「社内で同じ志を持って動いている他メンバーの活動を知ることができて勇気をもらえた」などの感想もありました。心理的安全性を高めて、やりがいを持って働ける環境を整えていきたいですね。
長期的なスパンで、人や社会に向き合っていく
新生パナソニック(株)では、ミッションの実現に向けて、自らの志を掲げ、未来のくらしの定番となるような製品やサービス、ソリューションを生みだしていく=「Make New」を行動指針として掲げている。
——仕組みを変え、カルチャーを変え、組織や人を変えていくことに取り組む加藤さん、GXを通じて地球規模の課題解決に取り組む真鍋さん。それぞれパナソニック(株)のミッション実現に向けてどんなことを目指し、どんな思いで挑んでいるのでしょうか。
加藤:自分が50代になってから改めて思うのは、この会社を「働きがいがあって、みんなが誇れて、社会に認められ続ける会社にしたい」ということ。そのために必要な変化を加速させるのが私のミッションで、グループの体制改革は大きなチャンスです。これをきっかけとして会社を変え、次の世代にバトンを渡したいと考えています。
真鍋:もうバトンを渡すところまで考えられているんですね。とはいえGXも時間軸の長い課題なので、私も次の世代のことを考える必要があります。
「こうすればいい」という正解がない分野なので、取り組む人が自分たちで考えて新しい道をつくっていかなくてはいけません。私としては、そのためのチャレンジに向けて現場の一人ひとりの挑戦を後押しする仕組みを構築して、最初は小さなことからでいいので成功事例を積み上げていきたいと思っています。
加藤:パナソニックを変えていくため、今いる人たちのマインド改革に加えて、新しい人たちをたくさん迎え入れています。さまざまな製品や技術があっても、結局のところ核となるのは人の知恵で、事業の発展にはさまざまな知恵を持つ人たちが揃う多様性が欠かせません。
ただ、知恵というのは業務上の専門知識があることだけを指しているのではありません。私たちが一緒に仕事をしたいのは、仕事を通じて社会の課題を解決していこうというWill(意志)のある人、人の幸せを想い、行動していきたい気概を持った人です。
真鍋:すごく共感できます。専門性は後からでも努力で身につけられますし、大きな企業で大きな課題に取り組むことは、個人プレーではなくチームプレー。私たちもGXチームを増強するにあたって重視しているのは、「未来を想い行動するWillがあるか」ということです。
加藤:私が長年勤める中で、さまざまな立場や役割の人と接して感じるのは、パナソニックグループの強みは「人」。一度グループを離れた人が戻ってきてくれるケースが多いのは、グループ全体に「人に対する愛」が根付いているからではないかと思っています。
パナソニック(株)は、「くらしをより良くしたい」という強い志を持つ人たちが集まっている会社。そんな人たちが団結した際のパワーは計り知れない。今、現場には変化の兆しがもあって、それをさらに広げ続けていけば会社全体が大きく変わる。大切なのは決して諦めずにブレずに続けること。一つひとつ着実に、かつ大胆に変革していきましょう。