Alex Ford/Insider
TikTokを運営するバイトダンス(ByteDance)が2023年1月27日に提出した年度末の開示資料によると、同社が2022年に連邦政府のロビー活動に費やした額はおよそ540万ドル(約6億9000万円、1ドル=128円換算)になり、前年から約4%増加した。
バイトダンスとTikTokのロビー活動費は2021年から2022年にかけては横ばい傾向だったが、2020年の約260万ドル(約3億3000万円)と比較すれば大きく上回る結果となった。
ただこの数字は、Instagramの親会社メタ(Meta)やYouTubeの親会社であるグーグル(Google)といった競合他社の支出と比べるとかなり見劣りする。2021年のメタのロビー活動費は約2000万ドル(約25億6000万円)、グーグルのロビー活動費は1190万ドル(約15億2000万円)だった。
ワシントンDCに拠点を置くシンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)でリサーチフェローを務めるケイトリン・チン(Caitlin Chin)はInsiderの取材に対しこう語る。
「過去約10年、特に2016年の大統領選挙後は、アマゾン(Amazon)、メタ、グーグルなどの大手のテック企業はロビー活動費を劇的に増やしています。今、TikTokはそれと同じことをしようとしているのです。ピンチの企業がまた一社、といったところですね」
ここ数年、TikTokはDCの標的に
実際、ここ数年TikTokは厳しい立ち場に置かれてきた。中国の親会社であるバイトダンスが、アメリカのユーザーデータへのアクセスを中国共産党に与える可能性がある、とさまざまなアメリカ政府関係者が懸念を表明しているからだ。とはいえTikTokは、中国政府から要請があったとしても、アメリカのユーザーデータを中国政府に渡すことはないと繰り返し主張している。
同社のアプリは中国のユーザーには提供されておらず、TikTokの幹部らはシンガポールやロサンゼルスを拠点にしている。しかし、同社の現役社員と元社員はInsiderに対し、社内で「HQ(本社)」と呼ばれるバイトダンスの北京オフィスが、アプリについて最終決定権を持っていると以前語っていた。
2020年末、トランプ政権はTikTokのアプリをアメリカのアプリストアから排除しようとしたが、その後ホワイトハウスは、バイトダンスがTikTokのアメリカ事業をアメリカ企業に売却するという妥協案に合意した。
しかしその妥協案は、バイデン大統領が就任したことで立ち消えになってしまった。バイデン大統領は、外国のアプリによる国家安全保障上の脅威については「厳密で証拠に基づく分析」によって評価すべきとし、トランプ政権の取り組みを終了させる大統領令に署名したためだ。それ以来、バイデン政権は、中国のような敵対国と見なされる国に関係のあるアプリに対し、政府の監視を強化できるよう規制の改訂を検討してきた。
ホワイトハウスの外にも、TikTokが国家安全保障上のリスクとなり得るという懸念を抱く人は依然として多いのも事実だ。
2022年6月、アメリカ連邦通信委員会(FCC)の委員で、共和党幹部でもあるブレンダン・カー( Brendan Carr)は、アップルとグーグルのトップに対し、両社のアプリストアからTikTokを削除するよう求める書簡を出した。FCCはこの問題を管轄していなかったのだが、この書簡はメディアの大きな関心を集めた。
また同年11月にアメリカ連邦捜査局(FBI)長官のクリストファー・レイ(Christopher Wray)は、中国政府がTikTokを利用して「数百万人のユーザーのデータ収集をコントロールしたり、推奨アルゴリズムをコントロールしたり、その気になれば影響力を行使するために使用できる」という懸念を抱いていると連邦議員に述べた。
さらに同年12月には、マルコ・ルビオ(Marco Rubio)上院議員とマイク・ギャラガー(Mike Gallagher)下院議員が、TikTokのアメリカでの活動を全面的に阻止することを目的とした関連法案を提出した。
TikTokは現在、政府の省庁間委員会である対米外国投資委員会(通称「CFIUS」)との間で、国家安全保障に関する合意について交渉を進めている。
2022年にTikTokのロビイストが注目したこと
TikTokとバイトダンスが2022年にロビー活動の対象にした法案には、アメリカのデータプライバシー保護法、子どもオンライン安全法、児童オンラインプライバシー保護法、そして当然のことながら、政府のデバイス上でのTikTokの利用を禁止する国土安全保障省の法律が含まれている。
TikTokとバイトダンスにかかっている圧力を考えれば、彼らがこれらの法案を重点分野だと考えるのは理解できることだ。
バイトダンス社内には現在13人のロビイストが在籍しているが、そのうちの1人がTikTokの副社長兼公共政策担当のマイケル・ベッカーマン(Michael Beckerman)だ。彼は2021年に他のテック企業の代表者とともに上院の消費者保護・製品安全・データセキュリティ小委員会の公聴会に出席し、オンライン上の子どもの福祉に関する問題について答弁している。
「国土安全保障省端末でのTikTok禁止法」は、国土安全保障省の端末でTikTokの使用を禁止するために2022年2月に提出された。しかしその後、議員らが同年12月に署名した歳出法案によりアメリカ政府職員の端末すべてからTikTokが禁止されたことで、法案の当初の目的はより広範囲で実現することとなった。さらにTikTokのアプリは、州レベルにおいても、政府端末上での使用禁止と同様の状況に直面している。
TikTokは2022年、ロビー活動以外にも、社内にセキュリティチームを設置し、セキュリティ問題における同社の評価を高めるために、サイバーセキュリティ業界の人々を取り込むための宣伝活動も開始している。
TikTokの周受資(Shou Zi Chew)CEOは、2022年6月にアメリカの上院議員9人に宛てた書簡の中で「我々はセキュリティの観点から最も監視されているプラットフォームの一つ」と述べている。