グーグルの親会社アルファベットのサンダー・ピチャイCEOは、約1万2000人の雇用を削減すると社員にメールで伝えた。
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- 人員削減の波を乗り切るのは大変な経験だとレイオフを生き延びた人々は話している。
- レイオフされなかった社員は、自分の仕事の安定性に不安を感じると語っている。
- 調査によると、レイオフされた同僚に対する悲しみは、仕事のパフォーマンスに悪い影響が出るという。
アマゾン(Amazon)、グーグル(Google)、ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)など、世界有数の大企業が従業員の削減を行っており、レイオフの波は続いている。
職を失った人々は経済的にも職業的にも大きな不安を感じるものだが、一方でレイオフを生き延びた労働者たちも苦しんでいることを示す証拠がある。ハーバード・ビジネス・レビュー(Harvard Business Review)の調査によると、レイオフを逃れ、企業に残った従業員たちは、不安感、士気の低下、レイオフを生き延びたことへの罪悪感に悩む可能性があるという。この結果、離職や仕事のパフォーマンスの低下につながるという。
イギリスにあるマーケティング会社のシニア・アカウントマネージャーのハンナ(Hannah)は、その典型的な例を示している。2020年6月、ハンナは突然、他の7人の同僚とともに人員整理の候補者になると告げられた。
当時、ハンナの勤める会社は新型コロナウイルスのパンデミックの影響を大きく受けており、複数のクライアントが予算を引き下げ、会社は大混乱に陥っていた。
「すべてを処理している時間はあまりなかった」とハンナはInsiderに語った。
「人員整理の要員のうちの75%が仕事を失うと伝えられていた」
その後、ハンナは外部機関が行う4週間の人員整理のプロセスに引きずり込まれた。それは知識だけでなく、会社に対する価値観に基づいて社員を評価して採点するものだった。質問には次のようなものがあった。「あなたはこの会社にふさわしい?」「会社に合っている?」「正しい態度を取っている?」「成長機会について考えている?」
当初、お互いの再就職を支援し合うため、その人員整理候補に入れられた者たちでグループチャットを立ち上げた。「その時、私たちは皆、この状況にあると気づいた」とハンナは話す。
しかし、4週間後に出たスコアを見た途端、グループチャットは「静か」になり、皆の一体感が崩れてしまったという。ハンナともう一人の同僚は高得点を獲得してそのまま雇用が続いたが、「同僚から競争相手になってしまった」と感じたと彼女は言う。
ハンナのプライバシーを守るためにその会社の名前は出さない。彼女はこの経験が同僚との関係を傷つけ、会社の経営陣は共感性が欠けていると感じたという。結局、解雇を逃れた2人がどんな思いをしてきたのかなどは経営陣にはほぼ知られることはなかったという。
「このままではいけないと思い、その仕事を与えられたことに感謝し、それ以上のことをしようと思った。けれど、この4週間の経験は自分の価値を下げられてしまったと感じるものだった」と彼女は言う。さらに彼女や残された同僚は、経営陣と電話するたびに恐怖を感じるという。
レイオフの波は2022年の最後の数カ月、アメリカの企業を席巻し、2023年に入ってからもIBMからマイクロソフト(Microsoft)、ダウ(Dow)に至るまでの企業は起こりうる不況に備えてか、先を争って雇用を削減している。
リンクトイン(LinkedIn)が2022年12月に2000人以上のアメリカの従業員を対象に実施した調査によると、景気の不透明感が増す中、約40%が「解雇されることに神経質になっている」ことが明らかになった。
「自分は使い捨てにされる存在だと痛感した」とハンナはInsiderに話している。
「もし、もう一度そういう目に遭いそうになったら、どうしたらいいのだろうと考える。だから、雇用の安定という点では間違いなく見方が変わったし、自分のことは自分で守らなければならないと思うようになった」
レイオフされたスタッフの仕事を引き受けたマネージャーが減給を要求された
エミリー(仮名)は2020年4月、ロンドンの小さな出版社でコミュニケーション・マネージャーとして働いていた時、新型コロナウイルスのパンデミックのためにチーム全員が解雇されたことを知った。
当時全社員12人だった同社は、若手社員を大幅に削減し、5人をレイオフした。
「3人分の仕事をしなければいけなくなり、仕事の役割は大幅に増えた」とエミリーは話す。
「自分の仕事と部下のやっていた広報の仕事、同じく部下だったマーケティング担当者の仕事もこなしていた」
彼女の仕事量は倍増したのに、経営陣は昇給の代わりに減給を提案したという。彼女は当然それを断った。
「余剰人員がいなくなり、私がみんなの仕事をするようになれば、『私を排除することはできないし、そうでなければビジネスの一部が消えてしまう』と思った」
エミリーは、多くの友人が解雇され、リモートワークもままならず、「かなりやる気をなくしてしまった」と話す。さらに経営陣は「明らかに何も考えておらず、従業員への配慮もなく、組織、戦略、管理が不十分」であるため、彼らに対する彼女の敬意は薄れてしまったという。
チームがなくなり、会議も少なくなったことで、「間違いなく文化が変わった」と言う。なぜなら彼女は「より孤独になってしまった」からだ。
エミリーは2021年にこの会社を去ったが、この試練があったからこそ、その後の求職活動では企業文化を気を付けて見るようになったという。
一方、ハンナはこんなアドバイスをしている。
「あなたは会社にとって価値があると思うかもしれないが、自分は使い捨てにされる存在だということを思い出して。決して自分は安全だ、安心だと思わないで」