※本稿は、ホワラー(Whalar)のグローバルチーフクリエイターオフィサーであるアシュリー・ラダー(Ashley Rudder)への取材内容をもとに構成・編集している。
自分が経営幹部になるなんて想定外だった。
私は2021年9月、クリエイターコマース企業のホワラー(Whalar)に、クリエイターパートナーシップ北米責任者として入社した。
ホワラー(Whalar)のグローバルチーフクリエイターオフィサーに抜擢されたアシュリー・ラダー。
Whalar
ホワラーはインフルエンサーマーケティングの代理店としてスタートしたが、現在はブランド、クリエイター、ソーシャルプラットフォームと連携し、彼らがコンテンツやそれ以外の戦略を通じてカルチャーに即した内容を制作できるように支援している。
私はそのホワラーで専門家5人を束ね、クリエイターたちがビジネスを立ち上げてリーチを拡大させるお手伝いをしていた。それなりに成果は出せていたものの、こうすれば今以上の仕事ができる、という考えが私にはあった。
クリエイターエコノミーは1050億ドル(約13兆6000億円、1ドル=130円換算)規模の産業だ。私がコンテンツクリエイターを支援できるようなマネジメントポジションに就くことには理がある、と思った。
そして、クリエイターに関わる専属チームをつくり、金融教育ツールをはじめとする取り組みの予算を増やすなど、クリエイター領域でどうすればもっと多くのことができるか、メンターや上司と話し合った。
後日、上層部から、そうした課題に対処するために経営幹部の役割を設けたと連絡があり、2022年12月から私は自社初のグローバルチーフクリエイターオフィサー(CCO)に就任することになった。まさか自分の提案がそこまでの昇進につながるとは思ってもいなかったので驚いた。
現在は30人のチームを率い、クリエイター主導のキャンペーンに関する交渉、契約、クリエイティブコンサルティングを含む、あらゆるグローバルなクリエイターの調達、発掘、実行を担当している。クリエイターのニーズに応えるには、その分処理能力も必要だ。
クリエイターとしての経験を生かす
チーフクリエイターオフィサーは、チーフクリエイティブオフィサーとはまったく異なるものだ。コンテンツクリエイターの考え方や、アフィリエイトマーケティングなどの仕組みをクリエイターの立場から理解する役割を担うのがチーフクリエイターオフィサーだ。ブランドとクリエイターの橋渡し役でもあり、そのような経験を積んできた人が最も得意とする仕事だ。
私はクリエイターとしての経験があったからこそホワラーに参画できたわけで、その経験がなければここにはいなかっただろう。
ここ数年、私は美容とライフスタイルのクリエイターとして、ファッショントレンドやモチベーションを高めるエピソードなどを、Instagramの3万8000人のフォロワーに伝えてきた。どうすれば自分のコミュニティともっと距離を縮められるか、どんなコンテンツが望まれているかを考え、その知識をフルタイムの仕事に活かしてきた。
クリエイター領域でチーフクリエイターオフィサーという役職を設けたのはおそらくホワラーが初だろうが、これをきっかけに他社でも、自社の経営幹部がクリエイター育成に十分なマンパワーを割いているかを見直してほしいと思っている。
私は今後、チーフクリエイターオフィサーが増えていくことを期待している。業界は変化しており、クリエイターやブランドがグローバル市場で果たす役割も大きくなっている。
ホワラーのように、クリエイター自身を経営幹部として採用するのも一案だろう。ホワラーは、コンテンツクリエイターをさまざまな企業のクリエイティブディレクターとして送り込むプログラムを立ち上げている。クリエイターエコノミーの次のリーダーシップのあり方について、ホワラーがその流れを作ることができればと思う。
クリエイターの世界に多様性と包括性を
私のチームや私自身は過渡期にあるが、すでに新しいプロセスを作り、責任を明確にして、ストレステストを行っている。
私の主な優先事項の一つは、クリエイターの領域をより多様で包括的なものにすること。ホワラーでは、ブランド施策やパートナーシップに参加するクリエイターの60%が多様な人材となるように心がけている。したがって、私たちのブランドはすでにかなり多様化が進んでいるが、この数字をさらに高めたい。
また私たちは、法務チームと組んで有色人種のクリエイターへの公平な報酬支払いを実現させたり、特定の条項によって契約内容をより包括的なものにする方法をブランド企業がきちんと理解できるようにサポートしたりしている。
例えば、多様なバックグラウンドを持つクリエイターたちを起用した施策で撮影をする際、美しく仕上がるようにブランド企業は異なる照明技術を使用する必要がある。私が知る限りこのような詳細を記した契約書はないため、こうした点を変えようと取り組んでいる。
私は世間の注目を浴びる立場になっているが、今でも常にアンテナを張っている。クリエイターたちには何かあればダイレクトメッセージを送ってきてと言っているので、彼らがいま何を必要としているかをそこから大いに学んでいる。その情報をもとに長期戦略を立て、クリエイターを新しいリーダーシップの時代に導くことができればと思っている。
最後に、これは何年も前からあちこちで言っていることだが、クリエイターをムードボードに並べておくのはやめて、役員室に招き入れよう。