「覇権国家なき世界」には何が起こる? 2023年はこの3つの国を注視せよ【入山章栄・音声付】

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REUTERS/Dilara Senkaya

今週も、早稲田大学ビジネススクールの入山章栄先生が経営理論を思考の軸にしてイシューを語ります。参考にするのは先生の著書『世界標準の経営理論』。ただし、本連載はこの本がなくても平易に読み通せます。

地政学リスクを専門とするユーラシア・グループが毎年発表する「世界10大リスク」。2023年に選ばれた10項目を見て入山先生が特に注目したのは、トップ10のうち実に3つが権威主義国家に関するリスクだということでした。ここから読み取れる世界の変化の兆しとは?

【音声版はこちら】(再生時間:21分42秒)※クリックすると音声が流れます


世界はリスクであふれている

こんにちは、入山章栄です。

政治学者のイアン・ブレマー率いるユーラシア・グループが、今年も10大リスクを発表しました。去年はロシアによるウクライナ侵攻や中国のゼロコロナ失敗などを予言し、的中させましたが、今年はどうでしょうか。


BIJ編集部・常盤

BIJ編集部・常盤

今年の10大リスクは次の通りです。先生はこのリストをどうご覧になりますか?


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ユーラシア・グループ「2023年10大リスク」をもとに編集部作成。

ユーラシア・グループは政治リスクのコンサルティング会社ですから政治の話が多いのは当然ですが、僕が興味を覚えたのが、トップ10にロシア(No.1)、中国(No.2)、イラン(No.5)という3つの国が入っていることです。

ロシア・中国・イランの共通点は、すべて権威主義国家であること。これらが世界の10大リスクに3つも入っているということは、権威主義国家という政治体制のリスクが相当高まっているということですよね。

例えばいまイランでは、イスラム圏の女性が伝統的に頭部を覆う布「ヒジャブ」を発端として、社会が大混乱に陥っています。

もともとイランはイスラム圏ですが、パーレビ国王の時代は現代に合わせてイスラム教の厳しい戒律をゆるめていました。女性はヒジャブをかぶらなくてもいいし、飲酒も認めるなど、西欧に近い生活形態だった。

ちなみにイスラム教の戒律を守るかどうかは、同じイスラム圏でも国ごとに濃淡があります。いまのトルコはお酒も飲めるしヒジャブも不要ですが、サウジアラビアなどは厳格で絶対に飲酒を認めません。

かつてのイランは戒律がゆるかったけれど、1979年にイラン革命によってホメイニを頂点とするシーア派が政権を奪取して以来、厳格に戒律を守ることを国民に要求するようになりました。

いまイランの女性が外出するときはヒジャブの着用が義務づけられています。でもパーレビ時代を知っている人たちからすれば、それは押し付けに感じられる。そこでヒジャブの着用を拒否した女性がいた。

彼女は警察に連行されて暴行を受け、結果的に命を落としてしまいます。それ以来、イラン全土でヒジャブ撤廃運動が起きて、政府に対する抗議活動がさかんになっています。

それだけでなく、イランではシーア派に敵対するスンニ派というグループが、シーア派を攻撃しようと内戦の様相を呈し始めていて、国内情勢が不穏なんですね。

さらにイランと犬猿の仲であるイスラエルでは、2022年11月にネタニヤフが首相に返り咲きました。ネタニヤフは攻撃的なので、両国間ではいまにも火花が散りそうなムードが漂っている。

しかもイスラエルはいままであまり仲がよくなかったサウジアラビアを仲間に引き入れて、「一緒にイランを叩きのめそうぜ」とそそのかしている。

こんなふうに中東でも火種がくすぶっているわけですから、ロシアとウクライナはもちろんのこと、実は世界中どこにいても不穏な状態です。残念ながら2023年は政治リスクが非常に大きいと言わざるを得ません。

覇権国家が存在しない「Gゼロ」状態

この背景にあるのは「Gゼロ」という状態です。これは何かというと、いま世界には、かつてのアメリカのように非常に強い覇権国が存在しないということです。

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