全米経済研究所の新たなレポートによると、大卒で高給取りの男性が、労働時間の短縮をリードしていることが明らかになった。
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- 大卒で年収10万ドル以上の男性は、労働時間の短縮に拍車をかけている。
- 彼らは、アメリカ全体の労働時間の短縮をリードしている層だ。
- 大卒でない男性は、社会的・経済的な将来性を見い出せずに退職している。
全米経済研究所(NBER)が公開した新たなレポートによると、アメリカでは大卒で年収10万ドル(約1300万円)以上の男性が、労働時間の短縮をリードしていることが分かった。
レポートを共同執筆した経済学者のヨンソク・シン(Yongseok Shin)は、通常、高給取りの男性は同世代の他の男性よりも労働時間が長いことが多いとInsiderに語っている。つまり、他の労働者をリードする状態を保ちながら、より多くの労働時間を短縮できたということだ。
「高学歴で勤勉な高給取りは、よりよいワークライフバランスのために労働時間を減らしているようだ。これこそが『静かな退職』の核心になっている」とシンは言う。
しかし、アメリカでは、何百万人もの男性が完全に離職して全体の労働時間が著しく減少している。それは労働市場が逼迫する一因にもなっており、労働力不足が恒常化している。
アメリカ人男性は仕事との関係性を見直すようになっている。これは所得階層、教育レベル、仕事の種類を問わず当てはまることが調査によって明らかになっているが、ボストン連邦準備銀行の調査では、この傾向は主に白人男性に当てはまると指摘している。
「労働参加率の低下は、グレート・リセッション以降に見られるようになった傾向だ」とNBERのレポートに記されている。
「労働時間の短縮は、パンデミックによって誘発された新たな現象だが、それが定着する可能性が高いことを示す証拠もある」
アメリカ人男性は収入レベルによって、仕事を減らすか、辞めるかしている
ボストン連銀が2022年12月に発表したレポートで25歳から54歳までの「プライムエイジ(働き盛り)」のアメリカ人男性の約9人に1人が、まったく働いていないことが明らかになった。これは70年前の50人に1人とは対照的だ。
この数字に拍車をかけているのは、大卒でない男性だという。その理由の1つは給与だ。彼らの相対収入(平均収入と比較した数値)は、インフレを考慮すると1980年以降、30%減少している。
さらに大卒でない男性は、他の労働者よりも収入が低下すると、退職したり、仕事を探すのをやめたりする傾向が強いという。仕事は社会的地位の反映であり、給与が上がらないということはその地位や結婚適性に悪い影響を与えると多くの男性が感じているとボストン連銀は結論付けている。
このことは、NBERの調査との対比をより鮮明なものにしている。大卒で高給取りの男性は経済的流動性が高く、社会的自己評価も高いようだ。そのため、彼らは仕事を辞めることはないが、仕事に費やす時間を減らす方法を探している。これは近年、多くの人、特に若い人が働き方を変えてきていることと一致する。多くの労働者が、人手不足の中で得た強い交渉力を駆使してより高い給与を求めて転職活動をしていることから、「大退職」は今も続いている。また、与えられた仕事だけを淡々とこなす「静かな退職」という言葉も定着してきた。NBERのレポートによると、高給取りの男性はこっそりと仕事の時間を減らしたり、転職活動をしたりするのではなく、雇用主に対してそれをオープンにしているという。
これらの現象は、パンデミック以来、労働運動が活発になっていることも含めて、すべて同じ要因に反応している可能性があると、バージニア大学経営学教授のジェームス・デタート(James Detert)が2022年10月に記している。
「20年以上にわたって労働者の行動を研究してきた経営学教授として、これらはすべて同じ問題に対する反応だと考えている。つまり労働者は現在の仕事に不満を持っているが、組織の問題や倫理に反する行為に対して声を上げられないと感じている。自分の知識や創造的アイデアを仕事に活かそうとするときでさえそうだ。そのため、彼らは退職したり、沈黙のうちに苦しみながら努力することをやめていく」
そして、高所得者が得ている給与や働き方の柔軟性が、仕事に対する感情に対処する方法を決める際に影響を与えている可能性が高い。
NBERのレポートには次のように記されている。
「パンデミックをきっかけに、人々は人生における優先事項を見直し、柔軟な働き方(在宅勤務など)に慣れた。そのため、労働時間を減らすようになった。それを選択できる余裕のある人にとってはなおさらのことだ」