和歌山県白浜町にある関西有数のテーマパーク・アドベンチャーワールド。
画像:アワーズ
2023年4月に45周年を迎える、ジャイアントパンダの飼育で知られる関西有数のテーマパーク「アドベンチャーワールド」。
和歌山県白浜町に位置する同パークは、ディズニーリゾートやUSJなどの超巨大テーマパークと比べてしまうと、どうしてもスケールが小さく見えてしまうかもしれないが、敷地面積はディズニーランドのおよそ1.5倍、コロナ前には年間来場者数が約120万人・売上高も約90億円にのぼるなど、国内の一般的なテーマパークの中ではかなりの規模になる。
そんなアドベンチャーワールドが、これから先の生き残りをかけて掲げているのが「循環型テーマパーク」という構想だ。
「循環型」と聞くと、二酸化炭素排出量の削減や脱プラスチックなどのいわゆる「エコっぽい」どこの企業でもやっている取り組みがイメージされる。
ただ、アドベンチャーワールドが掲げる「循環型」の構想を紐解いていくと、和歌山という地域のテーマパークが掲げる意味が見えてくる。
地球環境もビジネスも「循環型」に
アワーズ3代目社長の山本雅史さん。
撮影:三ツ村崇志
「今の役員である中尾建子副園長(当時は飼育部の部長)が、社員同士で『アワーズを舞台にした夢』を語る場で『循環型パークにするのが夢です』という話をしたことがあったんです。それが最初だったと思います。当時は、『地球に優しい』というニュアンスだったと思うのですが、すごくいいな…と私自身も感じたんです」(山本さん)
アドベンチャーワールドを運営するアワーズ社・3代目社長の山本雅史さんは、社長に就任した約1年後の2016年に社内で「世界一のエンタメを目指そう」という共通意識を醸成するために実施した、ラスベガス研修中での一コマをそう振り返る。
「この言葉が、それからずっと頭に引っかかっていたんです」(山本さん)
実は山本さんは、3代目として就任する以前から、社内の部署を転々としながら「自分なりの経営手法」に悩む日々を送っていたという。
「父から事業を引き継ぐにあたって、悩んでいたんです。父の真似をしてもうまくいかず、人も離れていった。30周年の社内誌では、『副社長(当時の山本さん)との日々は悪夢の日々でした』とも書かれてしまって(笑)」(山本さん)
そんな中で出会ったのが、今で言うパーパス経営の考え方だった。
「生きる目的や働く目的なんて、当時は考えたことがありませんでした。それまではただただ『勝ちたい』と思って生きていたんです。ただ、考えているうちに誰かを負かして承認されるような生き方は違うのではないか、と思うようになったんです」(山本さん)
三日三晩悩んで山本さんが見出したのが「私と私に関わる全ての人を幸せにしたい」という考え方だった。これが定まったことで「父親に、継がせてほしいと初めて本気で言えた気がします」(山本さん)という。
ラスベガスでの研修中に中尾さんがこぼした「循環型パーク」というキーワードは、まさにそういった山本さんの考えを具現化したものだった。
「アワーズでは『笑顔溢れる明るい豊かな社会の実現』という企業使命を掲げています。社会自体が持続可能でなければそういう社会にはならないと気がついていました。だったらもうそれを経営の軸に据えて、私たちもその方向に向かおうと」(山本さん)
こうしてアワーズでは2020年にSDGsを経営の軸に据えることを宣言。
当時、日本では今ほどSDGsという言葉は広がっていなかった。実際、社内で話をしても、「みんな頭にはてなマークが浮かんでいました」(山本さん)という。しかし、もともと動物好きの社員が多い企業風土もあり「目指していることと近いよね」と好意的に受け入れられたという。
「ただ、SDGsがビジネスにならないと意味がないと思っていて、そこは理解してもらうのが難しかったんです。『ボランティアでいいやん』みたいな話になることもありました。
でも、事業自体がビジネスとして成立しなければ、持続可能ではなくなってしまう。最終的には、そこまで含めて循環型モデルを掲げることになりました」(山本さん)
テーマパークが地域の循環の「ハブ」になる
アドベンチャーワールドのジャイアントパンダ。竹の幹の部分はあまり食べない。
画像:アワーズ
アドベンチャーワールドが進める「循環」の形はいくつかある。そこで鍵になっているのは、単に地球環境に対してポジティブな取り組みであることだけではなく、アドベンチャーワールドという場所が、人やもののつながり(関わり)を生む場になるということだった。
「私はアドベンチャーワールドが地域の『ハブ』になれば良いと思っているんです」(山本さん)
アドベンチャーワールドにいるジャイアントパンダたちも、「循環」の一端を担う。
パンダは竹を食べるが、竹の幹に相当する部分などの食べ残した部分は廃棄物として焼却処分されている。
「処分するために小さく切断して燃やしていたんです。竹は燃えにくいので、火力発電(ごみ発電)の燃料にすることもできなかった。産業廃棄物として手間とコストをかけて、なんとか処分していたんです」(山本さん)
そこでアドベンチャーワールドでは2019年から、熊本のCHIKAKENという竹あかりプロデュースチームの池田親生さんの力を借りて、パンダが食べ残した竹を加工し、内部にLEDを埋め込んだ「竹あかり」を使ったライトアップイベントを開催。
アドベンチャーワールド内に設置された竹あかり。
画像:アワーズ
「最初はパンダの施設の周りに飾りました。みんな面倒くさいと言っていたんですが、飾ってみると自分で作ったのでみんな見に来るんです。こういう取り組みを今では地域全体に広げています。白浜全体のホテルに竹あかりを置いていただいたり、竹のワークショップをやったり、竹でアオリイカの産卵床を作ったり…」(山本さん)
大阪府の岸和田市、白浜町とは広域包括連携協定を締結し、岸和田市の里山に生えすぎた竹をパンダの食事用として切り出すことで荒れた環境を保全するとともに、食べ残した竹を工芸品などとして加工することを検討。岸和田市・白浜町・アワーズはもちろん関係事業者が連携することで、地域への関係人口を増やしながらビジネスとしての循環を目指す取り組みも始めた。
「今、和歌山県や白浜町では、地域への関係人口を増やそうと積極的にアクションしています。昔は、私たち(アワーズ)はそういう動きから一歩引いて、自分たちだけで完結しようとする会社だったんです。
ただ、今はもういち企業では何もできない、共創の時代です。地域の方々といっしょにアクションすることが重要になっているんです 」(山本さん)
脱プラでも「関わり」を意識
アドベンチャーワールドで導入されているTBMのLIMEX製品。飲み物のコップや、パークガイドとして活用したあと、回収してトレイなどにリサイクルされている。
撮影:三ツ村崇志
いわゆる脱プラでも、いかに人との関わりを持てるかを意識している。
アドベンチャーワールドでは、石灰石を原料に作られる代替プラスチック「LIMEX(ライメックス)」を製造販売するTBMと協力し、2019年からLIMEX製のパークガイドを導入。2022年8月には、パーク内で使用するプラスチックカップもLIMEX製に全面変更した。これで、石油由来プラを年間で約930kg削減することができたという。
これらの製品は使用後に回収され、園内で使用するトレイなどとして生まれ変わる。いわゆる「アップサイクル」されることを前提とした取り組みだ。
「循環型パークとしてやっていきたいけど、何をやれば良いかわからなかったところ、ちょうどいいタイミングでTBM様から声をかけていただきました」
アドベンチャーワールドの出口には、LIMEX製のパークガイドを回収するボックスが設置されている。
アドベンチャーワールドの出口にはLIMEX製のパークガイドを回収するボックスが設置されている。
画像:アワーズ
「最後、リサイクルボックスに入れるときに、自分が循環に関わったことを考えるような仕組みにしています」(山本さん)
新たな施策には当然コストもかかる。ただ、山本さんは、「コストが上がろうがやりますし。それはお客様にも考えていただく必要があるんだろうと思います」と話す。
「社会全体がそうならないと、結局SDGsは達成できない。その分、私たちはしっかりと付加価値を高めていく。2030年に何か社会課題を解決する企業、テーマパークになっていないと私たちの存在意義がなくなってしまうと考えています。
アドベンチャーワールドだけでなく、お客様や地域のみなさま、私たちの事業に関わるパートナー企業の皆さんといっしょになってやっていく。そうやって地域に仲間が増え、新しいアクションや私たちを応援してくれる人も増えてくる。良い『循環』にもなってきていると感じています」(山本さん)