国内最大のユニコーン企業・Preferred Networks(プリファードネットワークス)の子会社が、初の家庭用ロボットを発表した。開発にかけた期間は実に5年。AI技術を駆使し、「ロボットの民主化」と「名もなき家事」の解消に役立てたいというが……。
配膳や片付けをするAIロボット
Preferred Robotics(プリファードロボティクス)の礒部達CEO。2月1日の会見にて。
撮影:竹下郁子
AI関連サービスを多数手掛ける、企業価値3500億円超の日本国内で最大のユニコーン企業・プリファードネットワークス(日経新聞、ユーザベースINITIAL調べ)。
今回、家庭用のAIロボットを発表したのは、同社がロボット開発に専念すべく、2021年に会社分割の形で設立した子会社のPreferred Robotics(プリファードロボティクス)だ。
「カチャカ」と名付けられた重さ10キロの四角い固体(本体)と、キャスター付きの棚がセットになっており、「配膳して」「片付けて」など話しかけると、料理を食卓に運んだり、食べ終わった皿をキッチンに片付けたりと、一人では抱えられない量や手が離せない時の家事を手伝ってくれる。
下記の動画を見てもらうと、分かりやすいだろう。
撮影:竹下郁子
プリファードロボティクスの礒部達CEOは、
「一つひとつは大したことのない作業でも、毎日何千回何万回とやっていくと大きな負担になる。こうした名もなき家事は、実は家庭内にたくさんあります。カチャカは名もなき家事をサポートするのに一役買えるはず」(礒部さん)
と語る。
対象はバリアフリーの家
音声の指示に従って、料理皿が乗った棚に向かう「カチャカ」。棚とドッキングして食卓へ向かう。
撮影:竹下郁子
専用のスマホアプリから、あらかじめ指示をセットしておくことも可能だ。本、薬、ダンベルなどをラックに乗せておけば、「積読本」の消化や、服薬、筋トレなど、習慣化したいものが指定の曜日・時間に運ばれてくる。
プリファードロボティクスは、約5年間かけて家庭用ロボットを開発してきた。
「家具を運ぶというのはシンプルな機能ですが、家庭内で実現しようとすると非常に難しい。床材、家具や間取りなど、工場や店と違って家の中は環境が多様だからです。それでも家庭内での自律移動を実現できたのは、我々の強みであるソフトとハードウェア技術の高度な融合があったから」(礒部さん)
多様で常に人も物も変化し続ける居住空間でも、自分の位置を認識して障害物を回避し、目的の場所まで最適なルートを導き出すことを可能にするのは、本体についたカメラと複数のセンサーだ。
しかし、期待のしすぎは禁物のようだ。
「基本的にバリアフリーの家庭を対象としています。絨毯の部屋だと毛足や厚みにもよりますが、能力は落ちます。絨毯かどうかを判別して、ラグに侵入しないようソファの近くまで行くなどの機能を実装して対応しています」(礒部さん)
音声は女性のみ
GettyImages / maroke
気になったのは、「食器をダイニングにお持ちしました」「食器を片付けます」など応答してくれる音声アシスタントが、女性の甲高い声のワンパターンしかないということだ。
AI音声アシスタントは若い女性の声で設定されていることが多く、「女性=サポート役」「従順」というジェンダーバイアスを助長しているという問題提起がなされて久しい。2019年にはユネスコも報告書で批判した。
「名もなき家事」の解消を謳う同商品の音声が女性の声のみなのは、ダイバーシティの点から再考すべきだろう。
同社は「意思を持って1パターンというわけではない。開発段階では数パターン検討していた。今後、拡張するはず」と話している。
本体価格22万超、勝算は?
Preferred Networks(プリファードネットワークス)の西川徹CEO。西川さんがパーソナルロボットを開発すると発表したのは2018年だ。
撮影:竹下郁子
カチャカの気になる価格は本体22万8000円。3段の棚が2万9800円。加えて月額利用料が980円かかる(全て税込)。販売台数の目標は非公開だ。
プリファードネットワークスの西川徹CEOは、今回のリリースはロボットの普及に向けて「大きな一歩だ」と意気込む。
「私たちはスーパーコンピュータの研究開発にも注力しており、今後も世界最速のスパコン構築を目指していく。コンピューターの力をフル活用して、ロボットのソフトウェアも進化させていきます」(西川さん)