“使えるAI”でコンタクトセンターが進化。可能にしたのは、SaaSに拡張性をプラスした「CXaaS」

世界的なAI(人工知能)ブーム到来と言われてから約10年。AIをめぐる研究開発は進んでいるが、実際の業務の中で使いこなし、効率化や価値創出まで実現している例はまだ少ない。

そうした中で着実に成果をあげているのが、BPO(業務プロセスの外部委託)事業を手掛けるマスターピース・グループだ。同社は委託を受けているコンタクトセンターのプロジェクトにAIを導入し、半年で10%の業務効率化を果たした。

実現のカギを握ったのは、「CXaaS」(Customer eXperience as a Service、シーザース)という新たなサービスモデルを展開するコムデザインとのタッグ。CXaaSで日本企業のDXはどのように変わるのか。マスターピース・グループのケースを例に紹介しよう。

コンタクトセンターの課題を低コストで解決

注文受付や問い合わせに電話対応するコールセンター。近年は、電話のほか、メールやSNS、チャットなど、さまざまな顧客対応を包括する意味で、「コンタクトセンター」とも呼ばれる。

マスターピース・グループは、それらを企業から委託を受けて運営するBPOサービスを展開。大分とタイ・バンコクに日本人オペレーターによるセンターを設置しているほか、中国やフィリピン、ミャンマーにもセンターを置き、多言語に対応したグローバルなコンタクトセンター網を構築している。

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顧客との貴重な接点でもあるコールセンター。業務効率化だけでなく、自社の強みを活かしながら低コストでシステムをアップデートしていく方法が求められている。

chainarong06/Shutterstock

BPO市場は年々拡大し、同社のコールセンター業務もその恩恵を受けて業績を伸ばしてきた。しかし、さらなる成長のためには課題があった。

一つは通信の品質だ。バンコクのセンターは日本と国際専用回線で結ばれているが、海外側インフラの問題で声が聞き取りづらいといった事象が起こることもあったからだ。

通話品質を安定させるには、国際専用回線だけに依存しない柔軟なCTI(Computer Telephony Integration)が必要になる。

そこで2021年、同社はコムデザインのクラウドCTIプラットフォーム「CT-e1/SaaS」を導入。「CT-e1/SaaS」は構成の自由度が高く、導入後は状況に応じて最適な経路を選んで通話ができるようになった。同時に、それまで使っていたオンプレミス(自社所有)のCTIシステムと比べてコストも下がったという。

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コムデザインのクラウド型CTIプラットフォーム「CT-e1/SaaS」の特徴。

提供:コムデザイン

AIの活用でコンタクトセンターはどう変わった?

当面の課題は解決したものの、マスターピース・グループにはもう一つ取り組むべきテーマがあった。AIの活用だ。

同社社長の中島樹里氏は次のように明かす。

「私たちのサービスはこの業界では珍しく、1席いくらの定額制ではなく、受電内容に応じて単価を設定し、件数に合わせて料金を頂戴する従量課金制です。AIを活用して自動対応できれば、お客さまにさらに安い料金でサービスのご提供が可能になります。

ただ、それまで使っていた従来のCTIシステムにAIを追加するのは技術的かつ費用的に難しく、動くに動けませんでした」(中島氏)

どうすれば技術や費用の壁を乗り越えられるのか――。そう悩んでいたところに、前述の理由で「CT-e1/SaaS」の導入が決定する。

それを機に、AI活用を本格的に検討し、2021年8月にはデジタルクローン、P.A.I.(パーソナル人工知能)を開発するオルツ、「CT-e1/SaaS」を提供するコムデザイン、そしてマスターピース・グループの3社で共同開発をスタート。2022年4月には音声CTI自動化ソリューション「AI-BPO Double BRAIN」の運用を開始した。

技術面のハードルについて、自ら先頭に立って開発の指揮を取ったコムデザイン代表取締役社長の寺尾憲二氏はこう解説する。

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コムデザイン代表取締役社長の寺尾憲二氏。「提供する道具をお客さまに使っていただくというよりは、道具のベンダー、つまり私たちがお客さまの運用に近づけていく。そのためのコストをお客さんに負担させないのが『CXaaS』なんです」。

「難しかったのは、AIと人のシームレスな連携でした。たとえば、電話をかけてきた顧客がAIの回答を聞いても問題を解決できなかったとします。この場合、一般的なCTIとAIの組み合わせだと、もう一度電話をかけ直してオペレーターにつなぎ直してもらわなくてはいけません。

そうした二度手間を省くため、『AI-BPO Double BRAIN』は、AIの対応内容を可視化したうえで通話をオペレーターにつなぐことに挑戦。簡単な開発ではありませんでしたが、顧客が電話をかけ直したり、かけた後に同じ内容を二度話したりする手間をなくすことができました」(寺尾氏)

中島氏はAI導入の効果を次のように語る。

「オペレーターも人間なので、うっかり間違えることがあります。一方、AIに任せられる業務に限れば、AIは非常に正確です。さらに大きいのはコスト削減効果。20人のオペレーターで受けていた仕事のうち、現在2人分をAIに任せられるようになりました。導入から半年で10%の生産性が向上したのです」(中島氏)

追加費用ゼロで柔軟にカスタマイズ

そうした「すごいコンタクトセンター」誕生を支えたコムデザインの開発力。ただ、もう一つ忘れてはいけない要素がある。

コムデザインが提唱するサービスモデル「CXaaS」だ。CXaaSは、SaaSと同じくクラウドでソフトウェアを提供するが、カスタマイズ開発を前提にしている点がSaaSと大きく異なる。

寺尾氏は次のように解説する。

「従来のSaaS型のITツールは、カスタマイズに積極的ではありませんでした。そのため、ユーザーが独自に積み上げてきた業務ノウハウがあっても、それを捨てて導入したツールに寄せていくことが求められる場合もあります。

それに対して、CXaaSはツール側を業務に寄せていく。他社との差別化になる業務のやり方、いわば自社の強みを保ったまま、DXを進められるのです」(寺尾氏)

強みや独自性を活かすため、オンプレミスでシステムを開発するケースは珍しくない。ただ、追加で開発するとコストがかさんでしまうため、導入できる企業が限られてくる。

この点もCXaaSは心強い。CXaaSは、SaaSと同じくサブスクリプション型の定額料金体系だ。コムデザインでは、専門エンジニアが開発を含むテクニカルな作業を担当し、追加費用ゼロで個別開発を行う。つまり、CXaaSはオンプレミスの「自由度」とSaaSの「リーズナブルさ」の両方を備えたサービスモデルと言える。

マスターピース・グループがAIを導入できたのも、「CT-e1/SaaS」がCXaaSモデルで提供されていたからにほかならない。

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マスターピース・グループ社長の中島樹里氏。「CT-e1/SaaS」のユーザーとして、「AI-BPO Double BRAIN」の共同開発パートナーとして関わっているコムデザインの特徴を「とにかく安い。そして速い」と語る。

中島氏はCXaaSモデルをこう評価する。

「もともとオンプレミスでシステムを構築していたのは、1席いくらではなく、受電内容によって要件をきめ細かく分類して対応するという私たちの強みを活かすためでした。そこにAIを加えたかったのですが、要件ごとに発生する追加開発のコストを考えると踏み切れなかった。

追加費用なしですべて対応してもらえるCXaaSモデルだったからこそ、AIと人の協業を実現した、コンタクトセンターを効率化するサービス『AI-BPO Double BRAIN』を生み出すことができたのです」(中島氏)

CXaaSはあらゆる分野に適用できる

追加開発まで既定の定額料金内で、コムデザインは採算が取れるのか。ユーザーとしては気になるところだが、寺尾氏は「収益は中長期で考えている」と明かす。

「CXaaSは、お客さまと一緒にツールを進化させていくサービスモデルです。追加費用なしで新しい機能を次々開発していけるので、お客さまが他社のツールに乗り換えることなく、継続してご利用いただける可能性が高い」(寺尾氏)

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コムデザインが提唱する新しいサービスモデル「CXaaS」の特徴。

提供:コムデザイン

実際、マスターピース・グループも運用開始直後から継続して追加開発を行っている。

前述したように「AI-BPO Double BRAIN」では現在、AIが2人分に相当する仕事を担っているが、導入当初は0.5人分に過ぎなかった。半年でそこまで進化できたのも、追加開発をスピーディに進めたからだ。今後も定額料金でカスタマイズを続け、AIに任せる仕事の範囲をさらに広げていくという。

一般的に、サブスクリプションモデルはチャーンレート(解約率)が収益を左右する。追加費用ゼロでカスタマイズできるCXaaSはユーザーから見て継続のメリットが大きく、チャーンレートを抑えやすい。

また、ある顧客企業のリクエストで追加開発した技術は、ほかの顧客企業のシステムに合わせて実装することもできる。カスタマイズされた機能を顧客間で “シェア”できるため、顧客は新たな技術や機能をスピーディに享受することが可能になる。

それは、コムデザインのようにサービスを提供する側からすると、多様な技術・ノウハウを蓄積でき、それを次の開発につなげられるということでもある。

CXaaSは汎用性も高い。

コムデザインはCTIサービス「CT-e1/SaaS」をCXaaSモデルで提供しているが、このモデルが適用できるのはコールセンター分野にとどまらない。コンセプトは普遍的で、現在SaaSで提供されているものならすべての分野に適用できる可能性があるという。

つまり、CXaaSは、持続可能性の高いビジネスモデルでありサービスモデルであると言えるだろう。

CXaaSが広く普及すると、社会にどのようなインパクトを与えるのか。最後に寺尾氏が熱い思いを語ってくれた。

「日本でDXがなかなか進まないのは、トップダウンでITツールを持ってきて、現場に押し付けるからではないでしょうか。現場にはその事業に合わせたナレッジがあります。それを活かしてボトムアップによるDXを実現するのがCXaaSです。

日本企業にはやはりボトムアップ、つまり現場発想のアプローチが合うと考えています。CXaaSが浸透すれば、DXが加速して日本企業の生産性は必ず向上します。今後もぜひそのお手伝いをしていきたいと思っています」(寺尾氏)


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