市況の変化を受け、Zホールディングスの川邊健太郎氏(現CoCEO、4月1日以降は会長に就任する)は3社合併の判断に至った経緯を説明する。
出典:Zホールディングス
Zホールディングスと同完全子会社のLINE、ヤフーの3社は2月2日、2023年度中の合併に向けて合意したことを発表した。
同日に開催されたZホールディングスの2022年度第3四半期決算説明会では、2022年中に集約や廃止、売却が発表されたサービスに加え、現在10程度のサービスが整理または縮小されることが示唆された。
ユーザーにとっても自身が利用するサービス群にどのような影響があるのか気になるところだろう。今回はそのあたりの情報を少し整理したい。
GYAO!、LINE BLOG、PayPayモールは整理済み
コスト最適化や事業整理によって収益を改善させる。
出典:Zホールディングス
2021年に韓国NAVER傘下のLINEを取り込む形で現在の経営統合スタイルに落ち着いた3社だが、広告市況の悪化や競合サービスに対する商品力の低下などを受け、よりいっそう迅速な経営上の意思決定が求められるようになるとみられる。
なお、経営統合から2年弱が経過した現在においても、LINEとヤフーの間で同種のサービスが併存する状態で統合が進んでおらず、こうした状況の変化に合わせて統廃合が加速することが予想されている。
LINE BLOGは6月29日にサービスを終了する。3月30日には編集もできなくなる。
出典:LINE
2022年に実行された事業整理では、まずは「LINE BLOG」を終了、「ライブドアブログ」を含むlivedoor関連のメディア事業を「MINKABU」などを運営するミンカブ・ジ・インフォノイドに売却した。
どちらも経営統合前のLINEが抱えていた事業だが、利用状況などを鑑みて切り離しの判断に至ったとみられる。
このほか、「Yahoo!チケット」と「Yahoo!副業」のサービスも同年内に終了しており、こちらも収益性や利用状況から今回の判断に至ったと考えられる。
ショート動画の「LINE VOOM」。
画像:編集部によるスクリーンショット
サービス統合では、「Yahoo!占い」が「LINE占い」に集約されたほか、動画配信サービスの「GYAO!」と「LINE LIVE」を廃止して、「LINE VOOM」に一本化するとしている。
LINE VOOMはいわゆるショートムービーを主体とした配信サイトで、TikTokやInstagram、YouTube Shortsといったサービスが競合となる。
Zホールディングスでは動画分野で競合に対して出遅れていることを認めており、複数のサービスを併存させるよりはあえて一本化することで訴求力を高めることを狙っている。
Zホールディングスは1月31日にTVerとの連携を発表している。
出典:Zホールディングス
ただ、GYAO!は日本でも古参の動画コンテンツ配信サービスであり、性格的には「ネットTV」と形容するのが正しく、LINE VOOMで代替できるものではない。
今回の合併発表の直前にあたる1月末のタイミングでZホールディングスはGYAO!の直接のライバルにあたる「TVer」との業務提携を発表。今後はGYAO!を利用していたような層をそちらへと誘導する方向で考えているようだ。
収益性の低い事業は優先的に縮小へ
統合する3社のロゴ。
撮影:小林優多郎
ECサイトについても、2022年10月に「PayPayモール」と「Yahoo!ショッピング」を統合した。
PayPayモールは、Yahoo!ショッピングよりも出店のレギュレーションを厳しくするなどプレミア性を重視したセレクトショップのような位置付けでスタートしていたが、ブランドを分割するよりも統合した方が訴求力が高まるとの判断が優先されたと考えられる。
統廃合の判断基準の一つは収益性にある。
人員採用抑制や販促費の最適化、主力のEC事業においてもコスト削減が実施されるなど、会社全体を横断したコスト抑制策が進められており、規模的に小さな事業はその対象になりやすい。
例えば、Zホールディングスの持分法の適用対象になるNAVER傘下の「WEBTOON Entertainment」だが、その子会社にあたる「LINE Digital Frontier」(LDF)では、従来まで扱っていたオリジナル作品の紙の出版やモノクロの横読み漫画が新規の取り扱いが順次中止となり、縦読みのWEBTOONに一本化されるという話が出ている。
LDFはもともと「LINEマンガ」を扱うLINEのメディア子会社で、LINEが同株式をWEBTOON Entertainmentに譲渡する形で現在の事業形態に落ち着いていた。
Zホールディングスの直接の子会社ではないものの、このような形で関連事業が少しずつコスト削減のあおりを受けつつある現状が見える。
LINE PayとPayPayの統合はもう少し先か
LINEの金融サービスの集まった「ウォレット」タブ。
撮影:小林優多郎
合併会見ならびに決算会見のいずれにおいても、具体的にどのサービスが今後統廃合されていくのかということは、スケジュールも言及されていない。
ただ、現状で判明している範囲の情報から判断して、いくつか分かることもある。
一つは「LINE Pay」と「PayPay」が将来的に統合されることはほぼ確実だと思われることだ。ただ一方で、優先度は低いと考えられる。
理由はいくつかあるが、まずはLINE PayとPayPayを真に統合するにはまず両者のID統合が必要だ。二つのサービスの統合が必ずしも直近でのコスト抑制に結びつかない点が挙げられる。
現状でLINE PayのQRコードでの決済はPayPayをベースとしたものへと切り替わっているが、アカウントで管理される残高情報は依然として分かれたままだ。
LINE Payはクレジット・プリペイドカードを展開している。
撮影:小林優多郎
LINE PayにはVisa LINE PayカードやLINEポケットマネーなど、同アカウントに紐付いた比較的利用率の高いサービスが存在しており、両者の統合にはこれら周辺サービスの移行も必要になる。
LINEポイントの扱いもあり、将来的にどのように二つのサービスのアカウントを統合するか考慮すべき事項は多い。
政治的な話でいえば、PayPayはグループ会社でこそあるものの、資本構成はソフトバンクとZホールディングスの2社で66%の株を均等に持ち合うという共同経営体制を敷いている。
ソフトバンク自身が金融事業を注力分野として近年フォーカスし始めているほか、PayPayが株式上場を控えていることもあり、あまりZホールディングスだけの事情で事業を進められないという理由もある。
同様に、おそらくLINEまたはLINE Payアカウントとの連携が予想される、準備中の銀行サービス「LINE Bank(仮称)」の存在もある。
LINE Bankはみずほ銀行との共同事業であり、LINEを利用するような若年層を含む広く新しい層を取り込むことを目指している。
4月1日から新しい役職に就任するZホールディングスの慎ジュンホ氏(新・代表取締役 GCPO)、出澤剛氏(新・代表取締役社長 CEO)、川邊健太郎氏(新・代表取締役会長)。
出典:Zホールディングス
合併後の新会社社長に就任する出澤剛氏は、今回の件で「LINE Bankが影響を受けることはない」と明言しているが、その理由の一つに、共同事業として計画の差し戻しが難しいという事情もあるのだろう。
まとめると、統合が難しい事業は後回しにしつつ、主力事業に影響の少ないサービスを中心に縮小または終了へと誘導し、少しずつコストを圧縮していく形を目指すことになる。
LINE PayとPayPayの統合がいつになるかだが、Zホールディングスの回答ではLINEとヤフーのID統合が「2023年以降」になることに言及しており、少なくとも1〜2年内の単位での統合はないと思われる。
当面はPayPayの上場を優先する可能性が高く、昨今の市況から判断する限り、両者の統合はさらに先に延びる可能性もある。