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メディアおよびエンターテインメント業界はここ数年、健全なストリーミング戦略を構築することで、従来のテレビ事業の衰退を克服することができると考えてきた。しかし、その考えが間違っていたとしたらどうなるのだろう?
米国の金融業界はストリーミングコンテンツに多額の資金を投じるハリウッド系のエンタメ企業を好意的に見てきたが、最近その気持ちが冷めつつあるようだ。
ネットフリックス(Netflix)は2022年に初めて加入者が減った(ただし同年下半期には回復)。ワーナー・ブラザース・ディスカバリー(Warner Bros. Discovery)、ディズニー(Disney)、パラマウント・グローバル(Paramount Global)など業界大手の株価は2022年に急落した。そしてストリーミングビジネスに関しては、こうであろうと考えられてきた仮定のいくつかに疑問符がつきつつある。
まず、従来のテレビ(リニアTV)の衰退が明白になってきている。長らく解約傾向が続いてきたが、そのスピードは今や加速している。2022年10月にハリスX(HarrisX)が実施したサンバTV(Samba TV)に関する調査によると、リニアTVを持っているのは回答者のわずか49%で、うち4人に1人が向こう6カ月以内に解約予定であることが分かった。
これは、テレビネットワークがこれまで高い収益を上げてきた広告ビジネスが崩壊することを意味する。スポーツの生中継は依然として多くの視聴者数を抱えているが、スポーツの放映権は釣り上がる一方で、地上波、ローカル、ケーブルとどのテレビ局でも利益の圧迫要因となっている。
S&Pは先ごろ、デフォルトリスクが高まり長年問題を抱えていたAMCネットワークス(AMC Networks)を格下げするとともに、他のメディアやエンターテインメント企業にも警告を発した。ストリーミングの収益性が不透明であること、リニアTVの状況が悪化していることを考えれば、AMC以外の企業も他人事ではない。
S&Pのナヴィーン・サルマ(Naveen Sarma)はInsiderの取材に応じ、「今はもっと難しい状況になっているように感じます。つまり、メディアビジネスはかつてほど好調ではないということです」と話す。
コンテンツにはどれほど価値があるのか?
コンテンツは今も最重要の要素ではあるだろう。しかし、メディア各社が肝に銘じなければならないのは、ストリーミングではかつて考えられていたほどの価値がコンテンツにはないかもしれない、ということだ。
ネットフリックスを見てみよう。同社のケースでは、ローカルヒットを世界中の加入者にストリーミング配信することで、世界的ヒットにつなげていた。しかしテック系ニュースサイトであるストラテチェリー(Stratechery)のベン・トンプソン(Ben Thompson)いわく、そのような世界的なヒット作はめったに出てこないため、ネットフリックスは期待していたほど世界のコンテンツから多くを得られていない。
ネットフリックスの共同CEOであるテッド・サランドス(Ted Sarandos)は同社の第4四半期決算で、「非常に面白いのは、世界的なヒット作、つまり世界中の誰もが見るような作品がそれほど多くないということ」だと述べ、次のように続けた。
「『イカゲーム(Squid Game)』は、そういう意味では非常に珍しいものでした。『ウェンズデー(Wednesday)』も。世界的なヒット作があっても、例えば日本やメキシコのように、ローカルのコンテンツを好む国もあるのです」
ネットフリックスにとっては、新規加入者を獲得・維持するうえでカギとなるのは必見の新番組であって、古いコンテンツは相対的に見て価値が低い。前出のトンプソンをはじめアナリストが、ネットフリックスの利益を見ているとミスリードだと指摘する所以である。
金融業界では伝統的に、メディアおよびエンターテインメント企業の財務分析にはキャッシュフローの代わりにEBITDAという指標を用いてきた。
EBIDTAでは減価償却費が足し戻されるため、例えばある番組が5年にわたって価値を生み出し続けると見込まれる場合、その期間にコストを分散できる。しかしEBITDAは、設備投資の影響を取り除いたキャッシュベースの収益性を見る指標であるため、会社の財務状況を見誤る可能性がある。
では、コンテンツの価値が想定以上のスピードで失われたらどうなるのだろう? 投資家にとっては厄介な事態になるだろう。ストリーミングプラットフォームは常に新しいコンテンツを補充しなければならないため、多くのメディア企業がこうした事態に陥るのではないかと一部のアナリストは懸念している。
企業の業績を評価するもう1つの方法は、フリーキャッシュフロー(FCF)を調べることである。FCFは、営業キャッシュフローから投資キャッシュフローを差し引いた後に残るキャッシュフローを指す。FCFをごまかす余地はほとんどないが、これにはマイナス面もある。コンテンツへの新たな投資が企業にもたらす経済的打撃を強調しすぎるおそれがある点だ。
しかしコンテンツへの支出は、EBITDAよりもFCFを見たほうがキャッシュフローへの打撃のほどが分かりやすい。つまりFCFを確認すれば、どのエンターテインメント企業の財務状況が近年弱体化しているかがすぐに分かるのだ(ワーナー・ブラザーズ・ディスカバリー、ディズニー、パラマウントなどを参照)。
リサーチ企業モフェット・ネイサンソン(Moffett Nathanson)の上級アナリスト、マイケル・ネイサンソン(Michael Nathanson)は、ストラテチェリーのインタビューで次のように話している。
「これらの企業はすべて、負債に対してかなりレバレッジをかけたキャッシュフローになっています。負債に対するキャッシュフローをマネジメントする方法はただ一つ、コンテンツへの支出を減らすことです。ただしコンテンツへの支出を減らすと、フライホイール全体が崩壊してしまいます」
ストリーミングの収益性は神のみぞ知る
メディア各社は現在、コンテンツへの支出を見直しており、予算を削減するか、少なくとも増額ペースを緩めている。
ネットフリックスは現在、広告事業(現在進行中)や他社プラットフォームに対するコンテンツのライセンス供与(これについてはまだ動きはないが検討は可能)など、他の収益手段を進めることができる。しかし従来のメディア企業はどうか。これまでの収益源が縮小するなかでストリーミングへの移行を試みてはいるが、ストリーミングがいつ、どのくらいの利益をもたらすかは実際誰にも分からない。
シティ(Citi)のジェイソン・バジネット(Jason Bazinet)はInsiderの取材に対し、次のように話す。
「この(ストリーミング)ビジネスが長期的に見てどの程度の利益率になるのかは、まだ大いに議論の余地があります。古いビジネス(テレビ)の利益率は35%でしたが、ネットフリックスの利益率は20%ほどです。投資家の大半は、従来のビジネスよりも悪化すると言うでしょう。問題は、どのくらい悪化するかです」
取り急ぎ差し迫った問題としては、コンテンツへの支出が減り続けると、新規加入者を獲得しづらくなるということだ。消費者はこんなにたくさんのサービスは要らないと思うようになり、新規加入者も増加しない。そうなればストリーミングの収益性の損益分岐点はさらに上がる。
唯一の解決策は規模の拡大かもしれない。AMCネットワークはとりわけ厳しい立場に置かれている。同社はホラーコンテンツを扱うシャダー(Shudder)や犯罪ドキュメンタリーものを扱うサンダンス・ナウ(Sundance Now)など、ブティック系のストリーマーを傘下に持つことでこれまで買収を免れてきた。しかしAMCネットワークのような小規模なメディア企業は、テーマパーク事業など他の部門がリニアTVの収益減少を補完できておらず、状況は厳しい。
AMCネットワークは20%もの人員削減を実施したばかりだ。株価が下がればその分売却額に響くが、会社売却の可能性は高まっているようだ。
こうした課題はAMCネットワークに限った話ではない。メディア企業の多くがコムキャスト(Comcast)やアップル(Apple)あたりに買収されるのは必至だろう。そうなる日は思ったよりも早く来るかもしれない。