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今回は、読者の方からのご相談にお答えします。
マネジャーとして「打たれ弱い部下」「失敗を恐れてチャレンジしない部下」にどう対応すればいいのか悩んでいるとのことです。
Aさん
私のチームの若手メンバーたち(20代後半〜30代前半)が打たれ弱くて困っています。私は常々「成功よりも失敗から学べるもののほうが大きいんだから、何でも躊躇せずトライしてごらん」と言っているのですが、世代の違いなのか妙に慎重な若者が多く、なかなか未知のことにトライしてくれません。
先日は部下の一人から、「今年度も残り半年になりましたが、このままでは僕の目標を達成できそうにないので、目標のバーを下げてもいいですか」と言われました。まだ半年も時間があるのに、なぜチャレンジもせず諦めるの!?と驚愕しました。
こんなとき森本さんだったらどう指導しますか?
(Aさん/40代前半/女性/企画職)
前提として、本人が「高い目標を追わない」「それにより給与が下がっても、あるいは上がらなくてもかまわない」ということであれば、それはそれで働き方の選択肢の一つだと思います。ダイバーシティ(多様性)が叫ばれる時代、そんな価値観が認められてもよいと思います。
ただ、私個人としては、Aさんのもどかしさに共感します。
チャレンジする経験によって人は大きく成長できますし、将来のキャリアの可能性も広がっていくのですから、チャレンジしないなんてもったいない。
それに若いうちは危機感を持っていなくても、年齢を重ねると後悔することになるかもしれません。
なにしろ会社からの指示に従って真面目にコツコツ仕事をこなすだけでは、給与アップも昇進も見込めない時代です。今でもすでに、キャリアに行き詰まって悩む40~50代の方をたくさん見ているからこそ、「失敗が許される」若手のうちにチャレンジしてほしいと思います。
では、どうすれば若手はチャレンジする気持ちになれるのでしょうか。マネジャーができる工夫についてお話しします。
チャレンジした経験そのものを「評価」「表彰」する
まず注目したいのは「評価」の指標です。
失敗することで人事評価を下げられる制度・風土であれば、「失敗したくない。失敗する可能性があるチャレンジは避けよう」と考えるのも無理はありません。
ですから、達成しなくても、失敗に終わったとしても、高い目標や新しい取り組みにチャレンジしたことそのものを評価する仕組みをつくるのが有効です。
今の若手は「褒められたい」「評価されたい」という承認欲求が強いと感じます。評価される仕組みがあるなら、チャレンジする意欲も持てるのではないでしょうか。端的に表現するなら「プロセス評価」です。
私が在籍していたリクルートグループにも、「プロセス」と「成果」を両軸で評価する仕組みがあり、若手ほどプロセス評価にウエイトが置かれていました。
マネジャーたちは、「このプロセスを踏めば成果にもつながる」というロードマップを描いたうえで、評価対象とするプロセスの設計をするのです。
会社の人事制度から変えることはなかなか難しいのですが、まずはご自身の部署・チーム内で「プロセス評価」を導入してみてはいかがでしょうか。
てっとり早く取り入れられる方法が「表彰」です。取り組んだ経験そのものを評価し、組織のメンバー全員で称賛する。これは承認欲求を満たすのに効果的です。
予算の範囲内でインセンティブを支給してもいいでしょう。例えば、営業部門などで架電のアポイント獲得件数をプロセス評価する場合、対象者別でポイント化し、総合点によってインセンティブ内容を変えるという企業もあります(例:社長は10点、役員は3点、担当者は1点など。社長へのアポイントを促すことになります)。
これを、月1回なり四半期・半期に1回なり続けていけば「チャレンジするのは価値があること」という意識が根付き、失敗を恐れない風土が醸成されていくでしょう。
目標を小刻みに設定し、成功体験を積ませる
「清水の舞台から飛び降りるつもりでチャレンジしてみろ」と言われても、やっぱり怖いですよね。
でも、「3段飛び」くらいなら一歩を踏み出しやすいでしょう。つまり、目標を小刻みに設定してあげてはいかがでしょうか。
何段階かのステップに分けて進んでいけば、結果的に数カ月後には本来チャレンジしてほしい目標に到達している……そんなイメージでプランを立ててもいいと思います。
小さくても「成功体験」を得ることで、チャレンジすることにやりがいや喜びを感じられるようになります。
昨今の若手は、成功体験を持っていない人が多いようです。なぜなら子どもの頃から「順位」を付けられずに育ってきたから。「競って勝敗・優劣を決める」ことを良しとせず、学校によっては運動会の徒競走で、みんなで手をつないでゴール……ということも。頑張って練習して1着になった子が「すごいね!」とみんなに褒められる経験をしていない世代です。
だからこそ、マネジャーは成功体験を得る機会を意識的に作ってあげることが重要だと思います。
「失敗してもいい。私が守る」と宣言する
「もし失敗しても、上司は叱らずフォローしてくれる」
そんな信頼感・安心感があれば、部下はチャレンジに向かえると思います。
Aさんはそんな覚悟を持っていますか? そして、その覚悟をメンバーたちに明確に伝えていますか?
「失敗しても私があなたを守る。だから、安心してチャレンジして!」
そんな一言をかけるだけでも、メンバーの気持ちがポジティブに変わるかもしれません。
実際、私がマネジャーを務めていた頃、このメッセージを添えてメンバーの背中を押していました。その結果、経験がない業務やリーダー職にチャレンジし、大きな成長を遂げたメンバーが何人もいます。
「私が守る」という言葉を信じてもらうためには、やはり普段からの関係構築が重要です。
この連載でも何度かお話ししてきましたが、チーム内に「心理的安全性が高い環境」を作ることを心がけてみてください。
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※本連載の第97回は、2月27日(月)を予定しています。
森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル〜仕事の流儀〜」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。