LINEとヤフー、ZHDの合併に関して話したソフトバンクの宮川潤一社長。
撮影:小林優多郎
「我々の期待感と流石に違わないか」
2月3日のソフトバンク2022年度第3四半期決算会見で宮川潤一社長は、LINEとヤフーを傘下にもつZホールディングス(以下、ZHD)についてこう述べた。
ZHDは2月2日にLINE、ヤフーと合わせた3社合併方針を発表。LINEとヤフーの経営統合から2年が経過しており、経営体制を一新する。
ソフトバンクはZHDの大株主である中間持ち株会社・Aホールディングスに対し、韓国・NAVERと1:1で出資。宮川氏は、日本における実質的な親会社の立場からその思いを語った。
ソフトバンクはZHDの「スピード感」に不満
ZHDの新経営陣の写真と宮川氏。
撮影:小林優多郎
宮川氏は「我々(ソフトバンク)とZHDは、親子だが上場企業同士。我々が(経営に)口出しをするわけにはいかなかった」と、前置きしつつも、報道関係者からの質問や自身のキーノートで複数回ZHDについて触れた。
特に冒頭の発言にもあるように、ソフトバンクから見た統合から現在までに至るZHDの状況は、あまり芳しくなかったことが伺える。
宮川氏が特に注視していたのはサービスの開発から提供までのスピード感で、ZHDの共同CEO体制(川邊健太郎氏と出澤剛氏)に問題があったと感じていたようだ。
「どうもプロセスが複雑になりすぎていて、スピードが上がってないんじゃないかと思って色々提案した。
(実行するか)決めるのはZHDの経営陣だが、その中から今回の提案が上がった。
(4月1日からの経営体制変更で)相当変わるんじゃないかと期待をしている。自分の中のモヤモヤは吹っ切れた」(宮川氏)
「オフィスをリアルで合体して、同じ釜の飯を食べたらどうだ、などリクエストした」と話す宮川氏。
撮影:小林優多郎
共同CEO体制化で意思決定のスピード感が落ちていたことは、2月2日に実施されたZHDの統合方針会見と決算会見でも触れられていた。
さらに、宮川氏はその経緯について、Aホールディングスに共同出資するNAVERも同じ見解であったことを明かしている。
「なかなか新しいプロダクトが生まれてこない。この部分はもう少しスピード上げてくれないかと常々思っていた。
パートナーのAホールディングス、NAVERのCEOからも『このままじゃいけない』という議論が加速した」(宮川氏)
市場ニーズが大きく変化している「動画広告」「AI」に注力
4月1日からの新しいZHDの経営体制について「期待している」と話す宮川氏。
撮影:小林優多郎
では、宮川氏の言う「新しいプロダクト」とは何だったのか。
ZHDが事業的に苦戦を強いられているのはメディア事業、つまり広告収入であることは、2月2日のZHDの会見で出澤、川邊両氏の口から語られている。
出澤氏によると、昨今の不況から広告の出稿数が低下しているだけではなく、「ヤフーとLINEの動画ソリューションが少ない。広告の配信PFも改善が必要と考えている」と、市場のニーズに応えきれていない点を列挙していた。
これに加え、宮川氏は「(未発表の)あっと驚くようなサービス、LINEの中で好きなプロダクトがある」と言及。
「特に、最近光っているのはAIを使ったサービス。早く製品化して、商品として出してほしい」とし、川邊氏を会長、出澤氏を社長(CEO)、そして新たに代表取締役に就任するNAVER出身の慎ジュンホGCPO(Group Chief Product Officer)に期待感を寄せた。
韓国・NAVERのCLOVAに関するページ。
出典:NAVER
さらに、LINEのAIについては直近で動きがあった。 LINEは2月1日、一般向けに提供している「CLOVA Assistantサービス」を除くAI関連事業の権利を、ビジネスチャット「LINE WORKS」を展開するワークスモバイルに継承した。
LINEは、2022年10月にAIスピーカーのCLOVAデバイスの販売を終了。デバイスやアプリ上で動く音声アシスタントのCLOVA Assistantサービスも2023年3月30日に終了する。
今回のAI関連事業の譲渡で、LINEはワークスモバイルジャパンの株式を取得したが、ワークスモバイルは元々NAVERの子会社だ。
もともとCLOVAはNAVERが開発するAI技術ではあるが、法人向けに事業のターゲットを絞り、事業体としてもZHD傘下ではなく、自社の傘下に移すことで、プロダクトアウトまでのスピードを加速させる狙いがあると思われる。
なお、ワークスモバイルは年次イベント「LINE WORKS DAY 23」を2月9日に実施予定。このAI事業の継承について触れられる可能性がある。