無料のメールマガジンに登録

平日17時にBusiness Insider Japanのメルマガをお届け。利用規約を確認


「国家間の戦争はさらに増える」…憂鬱なシナリオを導き出す「恐怖」のメカニズム【入山章栄・音声付】

サムネイル

ウクライナのキーウから南へ約300kmのところにある戦略ロケット軍博物館のミサイル管制室。

REUTERS/Gleb Garanich

今週も、早稲田大学ビジネススクールの入山章栄先生が経営理論を思考の軸にしてイシューを語ります。参考にするのは先生の著書『世界標準の経営理論』。ただし、本連載はこの本がなくても平易に読み通せます。

ロシアによるウクライナ侵攻が始まって間もなく1年。この間にウクライナで起きた惨劇は、東西冷戦を経て脅威は遠のいたと思われていた「国家間の戦争」が再び起きる時代に戻ってしまった、という事実を私たちに突きつけました。この先、世界の均衡はどのように変化していくのでしょうか?

【音声版はこちら】(再生時間:22分56秒)※クリックすると音声が流れます


誰もが「もう国家間の戦争は起きない」と楽観していた

こんにちは、入山章栄です。

前回はイアン・ブレマー率いるユーラシア・グループが発表した2023年の10大リスクの話題から、権威主義国家が陰りを見せているという話をしました。今回も引き続き、これに関連した話題について話してみたいと思います。


BIJ編集部・常盤

BIJ編集部・常盤

前回はロシア、中国、イランという権威主義国家のリスクが高まっているというお話でした。今はネットの情報などもあるので、昔ほど内部統制が効かず、内部もガタがきている。独裁者が間違った意思決定をしてもガバナンスが効かない。そういう意味で、世界各地に戦争を起こす火種がくすぶっているというお話でしたね。


はい。脅かすようで申し訳ありませんが、ロシア・ウクライナの戦争が起きて以来、他の地域でも戦争が起きやすくなった可能性が高い、と僕は考えています。その理由をお話ししましょう。

先日、僕は今テレビで毎日のようにお見かけする、ロシアの軍事・安全保障の専門家である小泉悠さんの『ウクライナ戦争』という本を買ったんです。


BIJ編集部・常盤

BIJ編集部・常盤

お読みになったんですね。


実はまだ全部読んでないんですが(笑)。とはいえ前半の50ページくらいだけは、とりあえず読みました。

この本は小泉悠さんが、この紛争が起きる前に、ウクライナにあるソ連時代の国防省付属戦略ロケット軍博物館を訪問したときの話から始まります。

この博物館を建設した当時、ウクライナはまだソ連(ソビエト連邦)の一部でした。実はこの博物館は、当時、大陸間弾道ミサイルの発射場だったのです。アメリカとソ連が冷戦で睨み合っていた時代にもし核戦争が起きていたら、ここから核ミサイルが発射されていたかもしれないのです。でも冷戦が終わって、ウクライナが独立し、その基地が不要になったので博物館になった。

本書によると、小泉さんがそこを訪れたら、やる気がなさそうにしている元軍人のおじさんがいて、「お前、ボタン押してみるか?」と言うんだそうです。そのボタンとは、正真正銘、本物の核のボタン。それを観光客が押せるようになっている。記念写真も撮れる。「君も核のボタンを押してみよう」というくらいの気軽さ(笑)。

それが2019年6月のことなので、ついこの間まではそれくらいにのどかだったということです。それで小泉さんは、「そのころは、もう国と国の間の戦争は起きないだろうと思われていた」と述懐します。これからもサイバーテロや内戦はあるかもしれないけれど、それなりの大きさの国と国が武力をもってガチで戦う戦争はもう起きないはずだ、というのが国際政治の専門家の間の通念でした。

ところが今回のロシアとウクライナの戦争は、それを完全に打ち砕いてしまった。

Popular

あわせて読みたい

BUSINESS INSIDER JAPAN PRESS RELEASE - 取材の依頼などはこちらから送付して下さい

広告のお問い合わせ・媒体資料のお申し込み