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グーグル(Google)、メタ(Meta)、スナップ(Snap)など、広告ビジネスを手がけるテック企業が軒並み苦戦を強いられるなか、唯一プラス成長を保っている企業がある。アマゾン(Amazon)だ。
アマゾンの第4四半期の広告事業の売上高は前年同期比17%増の116億ドル(約2兆円、1ドル=130円換算)となり、2022年通期では売上高377億ドル(約4兆9000億円、前年比19%増)となった。
これに対し、グーグル、メタ、スナップの広告事業はいずれも減収か、よくて横ばいとなった。アマゾンの広告事業はグーグルやメタより後発のため、その分高い成長率が期待できるということはあるだろう。しかし、アマゾンの広告事業が相対的に強さを誇っているのはそれだけが理由ではない。
Insiderは複数の広告バイヤーや業界専門家を取材し、なぜアマゾンの広告事業は競合他社よりも成長しているのかを尋ねた。以降では4つの要因を詳しく見ていこう。
1. NFLによる底上げ
WPP傘下のメディアエージェンシーであるマインドシェア(Mindshare)で米国投資の責任者を務めるデニーズ・オカシオ(Denise Ocasio)は、アマゾンの広告事業の成長にも特に驚きはなかったという。アマゾンは今年「サーズデーナイトフットボール(レギュラーシーズンの木曜夜に行われるNFLの試合)」を配信しているからだ。
「『サーズデーナイトフットボール』はアマゾンの広告事業の中心的存在になりつつああります。NFLは、広告主の間では非常に関心が高い場なんです。視聴者を獲得できることが保証されている唯一の場ですから」(オカシオ)
アマゾン出身で、現在はデジタルエージェンシーであるバウンティアス(Bounteous)のシニアバイスプレジデントを務めるジョン・ライリー(Jon Riley)も、サーズデーナイトフットボールの存在がアマゾンの広告事業成功の原動力となっていると指摘する。
ライリーは、「参加したいブランドが行列を作り始めた」と表現する。通常ならアマゾンの広告主にならないであろう自動車メーカーのメルセデス・ベンツ(Mercedes)もその一社だという。「アマゾンは手っ取り早く大儲けしたということです」と彼は言う。
アマゾンのこのNFL配信をめぐっては、ちょっとしたつまずきもあった。視聴者数が予測を下回ったため、広告主への補償を余儀なくされたのだ。
それでも、アマゾンのNFL広告枠は企業にとっても十分に魅力的なものだった。視聴者の購買行動に関する独自データが含まれるからだ。そう指摘するのは、エージェンシーであるティヌイティ(Tinuiti)で市場チャネル担当グループバイスプレジデントを務めるジェフ・コールマン(Jeff Coleman)だ。
「アマゾンだけがアクセスできる消費者購買行動データを、クライアント企業はこれまで見ることができなかったんです」(コールマン)
2. アップルのポリシー変更もアマゾンには無害
アップルは2021年4月にiOSのプライバシーポリシーを変更した。これによりアプリ開発者は、モバイルウェブサイトやアプリを横断してユーザーの行動を追跡する場合には事前にユーザーの許可を得なければならなくなった。
この変更によって、デジタル広告業界の収益は大きく減じた。特に影響が深刻だったのはメタ、スナップ、ユーチューブ(YouTube)だ。メタは広告プラットフォームの立て直しを余儀なくされ、スナップは第4四半期の減収をアップルの変更のせいだとしている。
しかし、アマゾンの広告事業はアップルによる変更の影響を受けていない。というのもアマゾンの広告事業は、インターネット上を横断してユーザーの行動を追跡するのではなく、ユーザーがアマゾンで何を購入したかというデータを広告主に提供するという方法で成功しているからだ。
「アマゾンは実際の購買行動を見ることができるし、クローズドループアトリビューションや数字を広告主にフィードバックすることができます。一方、他社はアップルの変更に従ってやるしかありません」
そう指摘するのは、デジタル広告業界に特化した戦略アドバイザリー企業であるLUMAパートナーズ(LUMA Partners)のディレクター、コナー・マッケナ(Conor McKenna)だ。
広告エージェンシーであるノウン(Known)のCEOを務めるカーン・スカイアソン(Kern Schireson)も、それがアマゾンの広告事業が競合他社より好調である最大の理由と見る。
「昨年他のプラットフォームを使っていた人たちとは違って、今年アマゾンを使っている人たちは、収益化効率の目標を達成できるかどうか気に病む必要がありません」(スカイアソン)
3. アマゾンの広告はグーグルやメタより安い
アマゾンの広告がとりわけ魅力的なのは他のプラットフォームと比較して大幅に安いからだ、と広告バイヤーは言う。
例えばティヌイティのコールマンによると、「スポンサープロダクト」などアマゾンの人気の広告商品の価格は第4四半期に下がったという。
「グーグルやメタと比べるとびっくりするほど安いんです」と話すのは、広告エージェンシーであるジャニュアリーデジタル(January Digital)のCEO、ヴィック・ドラビッキー(Vic Drabicky)だ。ドラビッキーによれば、アマゾンのCPC(1クリックあたりの広告コスト)は他のプラットフォームの約半分だという。
「厳しい時期に費用対効果の高い広告を求める広告主はアマゾンを選びます」とドラビッキーは言う。広告主は大挙してアマゾンの検索広告を購入している。検索広告は投資利益率(ROI)が高い傾向にあるからだ。そのうえアマゾンはグーグルよりも購入に直結していると、ドラビッキーは指摘する。
「今はマーケターに経済的な圧力がかかっているので、安い広告やROIが高い広告を求める傾向があります。アマゾンならグーグルに払う費用の数分の1で済むことは自明ですから」(ドラビッキー)
4. アマゾンの広告ツールは向上している
アマゾンはこの1年間で広告事業に莫大な投資を行い、広告主はアマゾンの広告を買い込んでいる。コールマンの指摘では、広告バイヤーが予算を増やすよう仕向けるうえで「アマゾンマーケティングクラウド」というデータプロダクトが有効な手段となっているのだという。
広告バイヤーは、グーグルやメタから求められる広告支出が前年から大幅に増えていることを容認できなくなっている。
ある広告エージェンシー関係者は次のように明かす。
「アマゾンは従来から、フェイスブック(Facebook〔現メタ〕)やグーグルほどにはパートナーに対してアグレッシブな姿勢ではありません。メディア支出におけるシェアを増やすよう要求されると、後味悪く感じるエージェンシーや広告主もいます。小規模で始めた頃はよかったのでしょうが、広告主に対して際限なく50%増を要求し続けることなんてできませんよ」
メタやグーグルのユーザー増加率が頭打ちになるなか、広告主は他の高成長プラットフォームへの広告出稿を検討していると、この関係者は言う。
なお、本稿の内容についてアマゾン、グーグル、メタ、スナップからは現時点でコメントの求めに応じていないが、アマゾンはサーズデーナイトフットボールからの広告収入が広告収入ライン全体の一部であることを認めた。