A.L.I.Technologiesの片野大輔社長(左)と、PONO Capitalのダイレクターで投資家の千葉功太郎氏。2月初旬、A.L.I.Technologies本社にて撮影。
撮影:Business Insider Japan
通称・空飛ぶバイクこと一人乗りドローン「XTURISMO」などの開発・販売を手がける国内ベンチャーA.L.I.Technologies(以下A.L.I.)は、同社の親会社でアメリカ法人のAERWINS Technologies(エアウィンズテクノロジーズ、以下エアウィンズ)がSPACという手法を使い、同じくアメリカ法人のPONO CAPITAL社を相手に「合併上場」したと報告した。現地時間2月6日からは、米NASDAQ市場での株式売買が始まった。これによって、実質的にA.L.I.がNASDAQに「上場」した形だ。
ダウ・ジョーンズグループのMarketWatchは、合併上場初日の2月6日(現地時間)の取引で、株価が一時56%下落したと報じた。MarketWatchによると、2月6日の終値は5.15ドル、時価総額は約3億5000万ドル(約461億円)。2月7日の取引でも下落が続き、一時2.5ドル前後で取引された。
A.L.I.によると、日本のスタートアップ企業によるSPAC上場は国内初の事例だ。合併上場直前の2月初旬、SPAC上場を選んだ背景について、A.L.I.の片野大輔社長とPONO CAPITALのダイレクターで投資家の千葉功太郎氏が取材に応じた。
「日本のベンチャーをNASDAQへ」
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SPACとは、Special Purpose Acquisition Companyの略で、日本語では「特別買収目的会社」と呼ばれる。あらかじめ買収ビークル(箱)になる法人を上場させておき、一定期間のうちに有望な未上場事業会社を合併させることで、事業会社を実質的に「上場」させる。通常の株式上場(IPO)に比べて、短期間での上場が可能などのメリットがある。
SPACの仕組みと「なぜ今、SPACは終わったと言われるのか」については2022年8月の記事「国内IPO不調でも…日本ベンチャーの米NASDAQ『上場』を支援する動き」で詳しく取り上げたとおりだ。
A.L.I.の片野社長はBusiness Insider Japanの取材に対し、SPAC上場は、当初から狙っていたものではなかったと語った。
A.L.I.Technologiesの片野大輔社長。A.L.I.の「上場」前の評価額は、業界関係者によると合併前の時点で200億円強。資金調達額は40億円程度と見られる。
撮影:Business Insider Japan
細かな時系列は省くが、当初は東証での上場をにらんで上場プロセスを進めていたが、2022年3月にターゲットをNASDAQ上場に切り替え、さらに2022年夏にSPACを活用した合併上場(SPAC上場)に切り替えたという経緯がある。
東証に比べて、幅広い投資家からのアクセスが期待できる市場として、NASDAQ市場を選んだ。
しかし、当初は単体でのNADAQ上場を検討していたなかで、なぜ国内で前例のないSPAC上場を選んだのか。片野社長は、
「なるべくたくさん資金を集めたいのであれば、幅広い投資家にアクセスした方が良い。ただ、(A.L.I.のような)少しニッチで、技術理解が難しいところ(企業)を判断してもらうためには、(中略)SPACのような、我々の会社を深く理解して、価格(評価額)を決めていくことができるようなスキームの方が向いている」
と、SPAC上場に可能性を感じたと説明する。
実際にPONO CAPITALとの交渉のなかで、「ご提示いただいている条件が我々にとっても魅力的なものだった」(同)ことから、SPAC上場を選択することになった。
ここで言う「条件」にはさまざまな要素があるが、「2022年9月の時点での我々のプレバリュエーション(投資直前の評価額)を6億ドル(2月5日時点の為替レートで約787億円)と評価するという前提」(片野社長)での合併プロセスを進めるという、評価額の点が大きかったと言う。
投資家の「利益相反」をクリアーする方策をSECと相談
撮影:Business Insider Japan
A.L.I.(エアウィンズ)のSPAC上場にあたり興味深いのは、千葉氏とA.L.I.との関係性だ。
千葉氏はPONO CAPITALの経営メンバーであると同時に、独自にドローンファンドの立場でA.L.I.に投資してきた投資家でもある。
一人の投資家という側面で「利益相反の可能性を抱えていた」と千葉氏も認める。
実際の合併プロセスにあたり、利益相反が現実化しないためにどうすべきか。
米国証券取引委員会(SEC)とも相談を進め、平たく言うと「お膳立てをして(PONO社とエアウィンズを)引き合わせるけれども、交渉には絶対に立ち入らない」(千葉氏)という形ならクリアーできると判断されたと説明する。
メールやPONO社内の情報共有からも一切外れるなどファイアウォールを徹底する形で、合併プロセスを進めていった。
「PONOの経営はするけれども、合併実務には入らないことで、今回の合併が実現できている。これは(国内企業のSPAC上場を考える上で)画期的なことだと思っています」(千葉氏)
PONO側がA.L.I.を選んだ理由
空飛ぶバイク「XTURISMO」の模型。2022年末には第1号機を納車している。
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また、PONO側にも、A.L.I.(エアウィンズ)を選んだ理由がある。
千葉氏が関わる「PONO」と名の付く買収ビークル(法人)は実は複数ある。例えば2022年8月の先行記事の執筆時点では、「PONO CAPITAL」と「PONO CAPITAL TWO」があった。
ただ、前出の記事中にもあるように8月時点ではPONO CAPITALは創薬ベンチャーとの合併上場を検討していた。その後、合併話が白紙になり、早急に次の有望な合併相手を探す必要が出てきた。
SPACという仕組みには、「およそ18カ月から24カ月で合併相手を決められなければ、強制解散しなければならない」という期限があるからだ。
PONO側としては、合併相手の事業理解をし、さらにNASDAQで合併するために相手企業をアメリカの会計基準へ変更、監査も必要だ。つまり、合併上場にもっていくまでに、物理的に一定の時間はかかる。
この点で、NASDAQの上場プロセスを進めていたA.L.I.(エアウィンズ)は、PONO側にとっても良い条件が揃っていた。
また、PONOの経営陣とA.L.I.の経営陣とは、2021年の時点で顔合わせをしており、A.L.I.のビジネスについて一定以上の理解をしていたという事情もあった。
この「タイミングの良さ」も、今回のSPAC上場に至った背景に大きく作用している。