2020年、2022年と「上位1%の運用実績」を記録したジェームズ・アバーテ氏。2023年の推奨銘柄に加え、深刻なリスクの存在も語った。
Centre Asset Management
米投資信託評価機関モーニングスター(Morningstar)の調べによれば、ポートフォリオマネージャーのジェームズ・アバーテ氏が運用を担当する「センター・アメリカン・セレクト株式ファンド」は、2月3日までの3年間に平均19.2%のリターンを計上した。
ベンチマーク(運用実績を評価するための対抗基準)に用いたのはモーニングスターの米大中型株トータルリターン・インデックス。同期間のリターンは平均9.7%だったので、アバーテ氏のファンドはほぼ2倍の成績を上げたことになる。
米資産運用情報サイトのキプリンガー(Kiplinger)は、アバーテ氏の「センター・アメリカン・セレクト株式ファンド」を、2020〜22年の最優秀ファンド(米大型株カテゴリー)と評価する。
モーニングスターによれば、2022年のベンチマークはマイナス19.5%。対するアバーテ氏のファンドはマイナス3.3%と何とか踏みとどまり、同じ投資カテゴリーに属する競合ファンドの99%を上回り、パフォーマンス上位1%に入った。
競争優位性の高い銘柄を見極める
そのように驚くべきパフォーマンスを維持するアバーテ氏が最近、オンラインでのプレゼンテーションに登場し、2023年の株式市場の見通しを語った。株価に劇的な影響をもたらす複数のイベントに話の焦点が向けられた。
アバーテ氏によれば、2023年にリターンを確保するカギを握るのは、医療機器メーカーのジンマー・バイオメット(Zimmer Biomet)やメドトロニック(Medtronic)のように、特有の競争優位性を持つ銘柄を見極めることだという。
両社はいずれも、ポストコロナ期に想定される外科手術の需要急増を追い風に収益拡大が見込まれる。2022年後半、アバーテ氏は両銘柄とともに、バイオテクノロジー銘柄のバイオジェン(Biogen)とアムジェン(Amgen)を2〜3%買い増した。
また、サプライチェーン制約が徐々に解消されていくことで恩恵を受ける銘柄として、エネルギーセクター向けにポンプやバルブなど流量制御システムおよびサービスを提供するフローサーブ(Flowserve)、複合材料メーカーのヘクセル(Hexcel)、タグボート(石油・石油化学製品輸送用タンク船の曳押航)のオペレーションを手がけるカービー(Kirby)も買い増したという。
さらに、米石油サービス大手のSLB(2022年10月にシュルンベルジェから社名変更)、米たばこ大手アルトリア・グループ(Altria Group)、米産金大手ニューモント(Newmont)とカナダの産金大手アグニコ・イーグル・マインズ(Agnico Eagle Mines)も新たにポートフォリオに加えた。
米ウォール街予測の根本的な矛盾
アバーテ氏によれば、投資家は2022年中に各銘柄を「あらためて値踏み」し、40年ぶりの高水準でインフレ率が推移する中で、1株当たり利益に対してこれまでのような金額は払えないと判断したことから、企業のバリュエーション(ここでは株価収益率を指標としている)が収縮した。
ところが、2022年の企業業績は望外に堅調で、逆に2023年は専門家の大半が企業の利益圧縮を想定する展開になっている。この状況はもちろん株式市場にとって最高に楽観的な材料とは言えず、とりわけ、大きなリスクを避けようと考える投資家心理の冷え込みはマイナスに働くとアバーテ氏は指摘する。
アバーテ氏は加えて、米ウォール街がこれからやって来る事態に本当の意味で準備できていないことを問題視する。ほとんどの金融専門家が2023年にS&P500種株価指数は上昇すると予測しているにも関わらず、同じ専門家たちが景気後退入りを予想しているというチグハグさがその根拠だ。
「この1月は2001年以降で最大の株価上昇を記録しています。それ自体に若干の不気味さを感じて然るべきです」
そうした考えから、アバーテ氏は(年明け早々に相場暴落の起きた)2022年と真逆の展開とも言える足元の株価回復も、長くは続かないとみる。
「ブラックスワン」の深刻なリスク
アバーテ氏は先述のオンラインプレゼンテーションの中で、二つの「ブラックスワン」とその深刻極まりないリスク、実際に発生した場合の衝撃度について語っている。
ブラックスワンとは、株式市場の潜在リターンに甚大な影響をもたらす可能性のある地政学的イベントを指す。
アバーテ氏によれば、彼が想定するこのグローバルイベントほど大規模なものはここ数十年発生しておらず、ソビエト連邦崩壊後の1990年代半ば以降に投資を始めた人たちは、これほど大きな地政学的アルファ(超過リターン)が生まれる機会をおそらくまだ経験したことがない。
「したがって我々が取るべき戦略は、ポートフォリオに確実に組み込んでおくべき資産防衛のためのプットおよびヘッジ手段に何がふさわしいかを考え続けることです」
アバーテ氏は第一のブラックスワンとして、防空システムの強化、地上部隊の増強、装甲車や戦車、戦闘機など欧米諸国からの提供など最新の動きから、ロシア・ウクライナ戦争の激化を挙げる。
最悪シナリオをたどった場合、ロシア側の大規模な攻撃に対抗するため、北大西洋条約機構(NATO)の平和維持部隊がウクライナ西部に駐留する必要も出てくるとアバーテ氏は分析する。
現実にそうした事態に発展すれば、パラジウムなどの金属、窒素やカリなどの肥料をはじめ、ロシアとウクライナ両国が輸出する重要度の高いコモディティの供給が世界的に滞ることになる。
アバーテ氏はこのシナリオが「現実のものとなる可能性は極めて高い」とした上で、そうした事態のインパクトを緩和するため、チタンなど特殊金属メーカーのATI、パラジウム生産のシバンイェ・スティルウォーター(Sibanye-Stillwater)、他にも石油・石炭関連銘柄、肥料関連コモディティ銘柄のコールオプション(あらかじめ決められた行使価格で買う権利)をポートフォリオに加えたことを明らかにしている。
最後に、第二のブラックスワンとしてアバーテ氏が挙げたのは、日本政府が「前例のない」しかも「持続不可能な」円買い介入を通じて、米ドルはじめ他の通貨に対する円の価値を引き上げようと(円高誘導)していることのリスクだ。
もし仮に、円が暴落して1980年代の水準まで戻るようなことがあれば、世界市場に深刻な影響をもたらすイベント連鎖のきっかけになり得るとアバーテ氏は強調した。