米株式市場は年初来、絶好調と言える展開だが……。
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スイス金融大手UBSの富裕層向け資産運用部門グローバル・ウェルス・マネジメント(Global Wealth Management)のソリタ・マルチェリ北南米部門最高投資責任者(CIO)によれば、市場には好材料が揃っており、投資家たちがここ数週間活気づいているのも無理はない。
米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げペースを減速、中国はゼロコロナ政策を終了させ経済活動を再開し、インフレは順調にピークアウト、労働市場も(1月の雇用者数や失業率から判断されるように)力強く、国内総生産(GDP)の伸び率は2期連続でプラス成長と、目白押しだ。
株価はポジティブに反応し、S&P500種株価指数は年初来8.4%(2月7日終値)の上昇を記録している。
しかし、「過剰な期待は禁物」とマルチェリは投資家に警鐘を鳴らす。米ウォール街の他の金融大手、ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)、モルガン・スタンレー(Morgan Stanley)、バンク・オブ・アメリカ(Bank of America)もほぼ同じスタンスだ。
各社のストラテジストチームは直近の顧客向けレポートで、相場上昇はこれから数カ月かけて勢いが弱まっていくとの予測を伝えている。
以下では、米金融大手4社の見通しを比較してみたい。
UBS
UBSグローバル・ウェルス・マネジメントの2人のCIOはいずれも2月6日、足元の株価上昇は減速していくとの見方を示した。
北南米部門CIOのマルチェリ氏(前出)はその理由として、投資家がすでに景気後退入りを回避するシナリオを織り込み済みであることを挙げる。
「株式のリスクリワード比率は魅力的とは言えません。当社としては、引き続きディフェンシブなポジションを維持し、この先のボラティリティ(価格変動性)上昇に備えるよう投資家に助言しています。当社のS&P500種株価指数の年末目標は4000です(2月7日終値は4164)」
また、グローバルCIOのマーク・ヘイフェリ氏は年初来の相場上昇の理由として、2022年末まで大勢を占めた極めてネガティブな市場センチメントが改善し始めたことを挙げる。
「ここしばらくの勢いを感じる米国株の上昇は、(インフレ率や失業率、経済成長率などの)ファンダメンタルズよりむしろテクニカルなファクターによるところが大きいと当社は分析しています。
世界的な景気後退と欧州のエネルギー危機への懸念が強く、年初の時点では多くの投資家がリスク資産のポジションを絞り込んでいたので、そもそも(好材料の出現に対して)上昇に向きやすい状況だったのです。
しかし、米市場はより長く続くと思われる調整局面を2023年後半に控え、遠くない時期に下落に転じる可能性が高いと、当社は引き続き考えています」
ゴールドマン・サックス
ゴールドマンは必ずしも弱気相場を想定しているわけではないが、UBSのマルチェリ氏と同じく、投資家は景気後退を回避する最善シナリオを織り込み済みとの認識から、S&P500種指数はすでに2023年に期待される潜在リターンの水準に達していると考えている模様だ。
「アメリカおよびグローバルの各種マクロ経済指標が改善されたことで、S&P500種指数は年初来8%上昇し、その変化に応じて、当社も同指数の3カ月後目標を3600から4000に引き上げています。
それでも、年末目標は引き続き4000のまま、現在をやや下回る水準に据え置きました」
「ソフトランディング、つまりトレンドを上回る成長は、すでに米株価に織り込み済み。バリュエーションは歴史的に見るとまだ高い水準であり、この先に想定される高金利環境では(企業の資本コストが上昇するため)拡大の余地は限定的です。
したがって、仮に景気後退入りを回避できたとしても、2023年中に企業が業績を大きく伸ばす可能性は高くありません」
モルガン・スタンレー
モルガン・スタンレーのチーフ米国株ストラテジスト、マイク・ウィルソン氏はここしばらくS&P500種指数の下落に警鐘を鳴らしてきた。直近の2月6日も同じスタンスで投資家に警戒を促し、企業の業績下方修正がこれから相次ぐと指摘している。
「(FRBのインフレ鈍化示唆や市場予想を上回る米雇用統計、景況指数の公表など)2月第1週のイベントは、昨今続く弱気相場の一時的上昇を即座に反転させる内容ではありませんでしたが、かと言って、2022年10月に記録した52週安値を底にして強気相場に転じたことを示す決定的な証拠になったとも考えていません。
市場コンセンサスを大幅に下回る当社の業績予想と、企業業績の低下に対してFRBが金融政策を通じてできることは少ないという事実、その両方を市場が織り込むまでにはまだ時間がかかりそうですが、当社としては独自の予測に引き続き確信を持っています」
ウィルソン氏は加えて、企業業績の成長率見通しがマイナスに転じたことに注目。ここ数十年、市場が下振れしやすい状況を示すかなり確実な兆候とされてきた変化であることを指摘する。
「2000年以降の23年間、このような現象は4回しか確認されていません。2001年、08年、15年、20年がそれに該当し、いずれも企業がマイナス成長に転じたことに伴って株価急落を経験した年です。
当社の分析をさらに強力に裏付ける事実があり、それは、歴史的に株価下落の大半は、1株当たり利益(EPS)の予想成長率がマイナスに転じた後に起きていることです。
言い換えれば、迫り来るこの企業業績の後退はまだ株価に織り込まれていないのです」
不測の事態が次々と起きた2022年、S&P500種指数についてウォール街の主要アナリストの中で最も正確な目標株価を設定した(つまり相場予測を的中させた)のがウィルソン氏だった。彼は、3000〜3300を底とする調整局面を経て、3900で年越しを迎えるとしていた(なお、2020年12月30日の終値は3839)。
バンク・オブ・アメリカ
バンカメのチーフ株式ストラテジスト、マイケル・ハートネット氏は2月第1週の顧客向けレポートで、S&P500種指数が4100〜4200まで上昇した場合、売りのタイミングと認識すべきと述べている。
「株価上昇に引きずられて各種債券の利回りが上昇し始める頃合いが近づいており、(4100〜4200を境に)いずれにしても売ることになるからです」
1月の雇用統計は誰も予想しなかった数字を叩き出し、非農業部門雇用者数は市場予想(中央値)の18万8000人をはるかに上回る前月比51万7000人増、失業率は1969年以来53年ぶりの低水準となる3.4%を記録した。
労働市場がこれほどに圧倒的な力強さを見せたことで、FRBはタカ派姿勢を維持する判断をするだろうし、実際、雇用の伸びは賃金上昇圧力となってインフレを加速させることになるはずで、そうなればFRBはタカ派を維持せざるを得なくなる、というのがハートネット氏の見解だ。
ハートネット氏は「米経済はすでに新たなインフレレジームに突入した」とも指摘する。
なお、バンカメのエコノミストは2023年中の景気後退入りを予測している。