マイクロソフトのサティア・ナデラCEO。
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検索エンジンの間で熾烈な戦いが繰り広げられている。
2023年2月初め、ChatGPTを搭載したマイクロソフト(Microsoft)のBingとグーグル(Google)のAIチャットボットBardは、注目を浴びようと競い合っていた。それぞれが行った派手なプレゼンテーションは、我々が慣れ親しんできた従来の検索エンジンがAIによって一変しようとしていることをアピールしていた。
Bingの狙いは、グーグル検索(Google Search)のユーザーだけではない。グーグルから広告主を奪取するというのも目的の一つだ。検索広告は、約5000億ドル(65兆円、1ドル=130円換算)規模のデジタル広告市場の中でも特に高い収益を見込める分野であり、たとえマイクロソフトがグーグルの独占市場にわずかな穴を開けたとしても、全体としてはさほど響かない。つまり、検索エンジン利用者のシェアをたった数ポイント伸ばすだけでも、数十億ドル(数千億円)の増収が見込まれるということだ。
2月7日に行われたアナリスト向け説明会で、マイクロソフトの財務チーフ・バイスプレジデント(CVP)、フィリップ・オッケンデン(Philippe Ockenden)は、次のように述べた。
「検索広告市場におけるシェアを1ポイント拡大するごとに、当社の広告事業は20億ドル(約2600億円)の増収が見込めるのです」
マイクロソフトの広告事業には他にもXbox、MSN、アドテク事業のXandrが含まれており、最近ではネットフリックス(Netflix)の広告付きプランとの連携もここに加わったが、Bingは同事業の中でもすでに最大のシェアを占めている。マイクロソフトは、広告部門は過去1年で180億ドル(約2兆3400億円)の売上を上げており、100億ドル(約1兆3000億円)だった前期と比べても増収となっている。
Bingと同社のブラウザのEdgeにAIベースの機能を追加すれば、検索機能の利便性が向上し、ユーザーが増え、結果的にさらなる広告主の獲得につながるとオッケンデンは言う。
また、新バージョンのBingではAI技術によって検索機能がよりパーソナライズされるため、これまでよりも高い広告料が得られるとマイクロソフトは踏んでいる。マーケティング会社ワードストリーム(Wordstream)の2021年のデータによると、グーグル広告はBing広告よりもクリック単価が平均33%高かった。
「ユーザーが目にする広告の数は減るかもしれないが、広告主にとってはより価値の高いものになるでしょう」(オッケンデン)
ChatGPTのインターフェイス上で、それらの広告ユニットがどのように表示されるかはまだ不明だ。現在、検索広告はキーワードに基づいた広告オークションを通して配信されている。具体的には、ユーザーが「住宅保険」「パリのホテル」「ジーンズ」などと入力すると、検索結果の上部にオークションを勝ち抜いた企業の広告が表示される。
マイクロソフトCTOのケビン・スコット(Kevin Scott)は、テック系ニュースサイト、ストラテチェリー(Stratechery)とのインタビューで、「広告ユニットがどのようなものになるかは、これから模索することになるだろう」と述べていることから、実際の広告フォーマットは未定のようだ。
また、ユーザーは検索クエリとしてキーワード検索よりも長く、より会話形式に近いものを入力することが推奨されている。そのため、広告主がそうしたユーザーを相手にどのようなターゲティング広告を展開するのかは現段階で定まっていないと、デジタル広告代理店ブレーンラボ(Brainlabs)イギリス法人の有料検索責任者を務めるアンディ・グッドウィン(Andy Goodwin)は言う。
「ショートテールキーワード( 1つあるいは2つの単語からなる検索キーワード )、トランザクショナルキーワード(購買に直結しやすい検索キーワード)が、検索広告主のドル箱です」(グッドウィン)
新しい広告ユニットのあり方はさておき、OpenAIが開発するChatGPT(2023年1月にユーザー数1億人に到達した)をめぐる騒ぎとBingのリニューアルによって、マイクロソフトの検索エンジンの利用者はいっそう増えるだろう。そして、人の目が集中するところには広告主が集まるのだ。
「そこにシェア変動のチャンスがあるのです」(グッドウィン)