結婚式や子供の進学など、明確な目標がある場合、「低リスク投資」が役に立つ。
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- たとえば、結婚式や子供の進学など、喫緊に達成したい財務目標がある場合、「低リスク投資」が役に立つ。
- 低リスク投資は、将来受け取るキャッシュ・フローが予測でき、価格変動が小さく、安心・安全だ。その代表は、預金や債券となる。
- だが、低リスク投資はリターンも低く、時間とともに価値が低下しかねないもあるため、要注意だ。
ライフステージや個々の財務目標によっては、「低リスクな投資」が重要な働きをするタイミングがある。
具体例を挙げると、定年退職や結婚式、子供の大学進学など、お金のかかるイベントが、今後5年以内に控えている場合だ。その資金を多少なりともリスクの高い投資に投入した場合、仮に暴落がおきたら、回復するまでの時間がないからである。
だが、何が「低リスクか」という決まった定義はない。とはいえ、金融の世界で「リスク」という場合には、「不確実性」を表す。つまり予想できないこと、不確かなことが「リスク」となるのだ。
リスク=不確実性だとしたら、「低リスク」とは将来受け取るキャッシュ・フローの不確実性が低い商品と定義できるだろう。
そのような低リスクな投資は価格変動が小さく、大きく値上がりすることもなければ、大きく値下がりすることもない。しかし、安心・安全は得ることができ、確実に喫緊の目標も完遂できるのだ。
では、どのような低リスク投資があるのか順番に見ていこう。
1. 預金
低リスク投資の代表は銀行預金だ。銀行預金は期間によって利率が異なるが、提示された金利はその間変わらない。一般的に期間は1カ月~10年までで、通常期間が長くなるほど、また金額が大きくなるほど利率が高くなる(ただし現在の日銀の長短金利操作の下では、全期間同じ金利を提示しているところも多い)。メガバンクの利率は0.002%だが、ネット銀行などの中には0.3%のキャンペーン金利を提示しているところもある。
低リスクの理由:金利が決まっているうえ、万が一金融機関が破綻したときは、預金保険機構が1000万円まで保証してくれる。つまり将来キャッシュ・フローの不確実性が極めて小さい。
2. 日本国債
日本国債は国が発行する債券で、一言で言えば日本政府の借金だ。国債は、日本政府が金利と元本返済を約束している証券である。個人向け国債は現在、3年債(固定債)、5年債(固定債)、10年債(変動債)の3種類が発行されており、1万円から購入可能で、0.05%の最低利率が保証されている。
低リスク理由:日本政府が元利金の支払いを保証しているうえ、最低金利も0.05%で保証されている。また、債券は通常、満期前に売却するとその時の金利によって売却価格が変わるが、個人向け国債の場合は元本割れすることがない。
3. マネーマーケットファンド(MMF)
マネーマーケットファンド(MMF)は主に短期の国債や社債に投資する投資信託だ。株式を組み込まないため公社債投資信託と呼ばれる。MMFは運用実績に応じて利回りが変わるため元本保証ではないが、元本の安全性を重視し、流動性の高い債券を中心に運用される。だが、円建てMMFについては、2016年に日銀がゼロ金利政策を導入し短期金利商品の利回りが低下したため、繰り上げ償還が相次いだ。今後日本がゼロ金利政策を解除すれば、再びMMFの運用が増える可能性がある。
低リスクの理由: MMFは元本保証ではないが、譲渡性預金(CD)、国債、高格付社債といった信用リスクの極めて低い証券を組み入れている。また、いつでも1円単位で購入・換金ができるという商品特性から、満期の短い証券中心で構成される。
4. AAA格の社債
社債は、企業が資金調達に使う負債証券だ。社債を買うということは、発行企業に実質的に資金を貸し付けることであり、発行企業から定期的に金利を受け取る。満期が来れば企業は元本を返済する。ムーディーズやS&Pといった格付機関が、企業の信用力に対して格付けを付与している。
低リスクの理由:AAA格を付与されている企業は、格付機関からその債務返済能力に対してお墨付きをもらっていることになり、こうした企業が元利払いの不履行を起こす可能性は極めて低い。ちなみに現在S&PからAAA格を付与されている企業は、ジョンソン・アンド・ジョンソンとマイクロソフトの2社だけだ。格付投資情報センター(R&I)がAAA格を付与している日本企業はトヨタ、トヨタファイナンス、デンソーの3社だけで、いずれもトヨタグループの企業だ(2022年12月31日現在)。
5. 定額年金保険
年金は保険商品であり、厳密に言えば保険会社との保険契約である。定額年金保険(一時払タイプ)では、払い込んだ保険料が契約時に決まった固定利率で運用され、一定期間後に保険会社が元本と金利を支払う。運用期間満了時の年金原資は、払い込んだ金額を上回ることが保証されている。さまざまな年金商品があるが、定額年金は利率が契約時に決まるため、将来受け取る金額が変動するリスクが低い。
低リスクの理由:キャンバス・アニュイティ(Canvas Annuity)のシニアバイスプレジデント兼セクレタリーのディアドロ・ウッドラフ氏は、保険会社が予測可能な金利と元本を保証している点を低リスクの理由に挙げる。つまり保険会社は一定の利率で支払う義務がある。契約者が保険を持ち続ける限り、契約期間満了時にいくらもらえるか確実に計算できるのだ。ただし、銀行預金のような預金保険機構による保証はなく、保険会社の破綻リスクは必ずあることに気をつけよう。
6. 高配当銘柄ファンド
S&P 500配当貴族指数は、S&P 500構成銘柄のうち、過去25年間連続して毎年増配している優良大型株で構成される指数だ。この指数をベンチマークとする投資信託は、将来の分配金支払の可能性が極めて高いと言えるだろう。また、過去25年間増配しているということは、健全な経営と強固なビジネスモデルを持っている証拠でもある。ただし、株価自体は相場変動とともに変わるし、為替リスクもあるため、投信の基準価格が変動しにくいわけではない。
為替リスクはできるだけ避けたいという場合は、日本版配当貴族という手もある。S&P/JPX配当貴族指数は、10年間増配しているか安定的な配当を続けている日本企業で構成される指数で、この指数に連動する投信もある。
低リスクの理由:配当は過去の利益の積み重ね(利益剰余金)から支払われるため、業績が悪化したからといってすぐに減配されることはない。まして、長年増配している企業ならなおさらだ。だが、繰り返しになるが、株式投資なので投信の基準価格は変動するし、元本は保証されていない。
低リスク投資の欠点
もちろん、低リスク投資には欠点もある。
低リターン
低リスク投資は下値不安が小さいが、上値も小さい。安全度が高いほどリターンは小さくなる。クレイトン大学ハイダー・カレッジ・オブ・ビジネス(Creighton University's Heider College of Business)でファイナンスを教えるロバートR.ジョンソン(Robert R. Johnson)教授によると、1926~2019年までの米国債のリターンがわずか3.3%である一方、大型株のリターンは10.2%だ(出所:「株式、債券、手形およびインフレ[SBBI]イヤーブック」)。
また、低リスク投資を選ぶことで失うものもある。よりリターンの高い商品への投資機会だ。
インフレに弱い
低リスク投資、特に固定金利の投資商品のもう1つの欠点は、インフレリスクだ。将来のキャッシュ・フローの確実性が高いということは、投資時点で将来いくらもらえるかがわかるということだ。逆に言えば、物価上昇時には元本や投資リターンに食い込んでしまう。期間が長くなるほど、固定金利の預金や債券の利率が高くなる理由の1つはこれだ。
だからこそ時間が重要なのだ。投資期間が短ければ利回りの低い低リスク投資で事足りる。だが、投資期間が長くなれば、インフレ率より利回りの低い投資商品は、結局価値が毀損してしまう。
まとめ
どんな投資にもリスクがつきものだ。だが、上記のような低リスク資産に投資する場合、ほぼ投資額以上が返ってくる(6.の株式商品はその限りではない)。
だが、低リスク投資は利回りも低いことに留意が必要だ。長期的にはインフレ率いついていけず、結局高くつくことになりかねない。自分の資産がこうした低リスク投資に偏っていないか、一度確認してみよう。
[参考:What are the safest investments? 7 low-risk places to put your money — and what makes them so]