サントリー食品インターナショナルの齋藤和弘社長。
撮影:三ツ村崇志
水をペットボトルで購入する。いつの間にか当たり前のように浸透したこの消費スタイルに、新しい風を吹かせることはできないか——。
業界最大手として年間約1億3000万ケースもの「水」を販売しているサントリーが、「新たな水の消費」の切り口となる新商品を、2月9日に発表した。
専用ペットボトルのキャップに装着して、ペットボトルの中に入れた水道水に「ミネラル」を注入する「ミネラルinウォーターキャップ『minel(ミネル)』」だ。
新しい消費体験の創出は「業界最大手の役割」
minelの専用ボトルとキャップ。専用ボトルは3カ月ほどでの交換が推奨されている。
撮影:三ツ村崇志
minelは、ココヤシのヤシ殻活性炭から抽出した「植物ミネラルエキス」2ミリリットルが入っている「キャップ」だ。水道水を入れた専用のペットボトル(約1.5リットル)にキャップを装着してひねると、「プシュッ」と勢いよくミネラルエキスが噴射され、「一瞬でボトルの中の水が新たなおいしさに変わります」(サントリー)という。
筆者の自宅の水道水でサンプルを試してみたが、築50年を超える賃貸住宅の水道設備(設備リフォームの有無は不明)の影響もあってか、感じられた変化は「言われてみると、もしかしたら少し味が変わったかも?」と、気にしなければ分からないレベルだった。蛇口から出る水道水の質によって、ミネラルを加えた際の味わいの幅に影響が出る可能性は留意しておいた方が良さそうだ。
minelの開発背景にあるのは、水の消費量が増えていく中で、まだ取り切れていない市場が存在することだ。
ミネラルウォーターの消費量は年々増加の一途をたどっている。2021年には、国内生産量が30年前のおよそ16倍にあたる400万キロリットルを突破。過去最高となった。また、サントリーが2022年9月に実施した調査によると、この10年の間に1日に飲む水の量(ミネラルウォーター以外も含む)は約2倍にまで増えている。
10年間で水の消費量は約2倍に増えている。ミネラルウォーターを消費する割合も増えてはいるが、まだまだ取り切れていない市場が存在していることがわかる。
図:サントリーウォーターレポートより引用
これだけ聞くと、わざわざ「新しい消費体験」を作る必要性はないようにも思える。
ただ、飲み水として消費されている内訳を見ると、まだミネラルウォーター以外(おそらくは水道水)を消費している割合が大きいことがわかる。
こういった観点からも、新しい水の消費方法を提案することで、新たな「水商品」市場の開拓を狙っていると捉えることができる。
サントリー食品インターナショナルの齋藤和弘社長も、
「 今の主流の水のあり方(飲み方)ではないあり方があるなら、我々こそが今までとは異なる切り口を提案するべきだろうと考えています」
と、新しい飲み方の提案は業界最大手の役割だと語る。
飲み水の新しい市場を開拓できるか?
minelのキャップ。いたって普通のプラスチックのキャップだ。
撮影:三ツ村崇志
齋藤社長は、「家の中に水を置くスペースもない、持ち運ぶには重たい、そういう不便を感じている方にどんな提案ができるだろうと考えました」と開発経緯を語っている。
しかし、ペットボトルの水を日常的に飲んでいる消費者に対して、“日常のちょっとしたストレスを解消できる”ことが、どこまで購買行動に結びつくのかは正直なところ読めない。
水道水をそのまま飲んでいるような人にとっても、そもそも水道水で満足している状況からプラスアルファを求める段階に思考を変化させることはそう簡単ではないようにも思える。
「想定しているお客様層は割と広いと思っています。初期に販売する5000名の方は、あまり絞り込んだ形にしようとは考えていません。幅広く、いろいろな可能性を考えて、インタラクティブにやっていきたい」(齋藤社長)
と、齋藤社長は具体的なターゲットを絞っていないことを記者会見で明かしている。つまり、実験的な意味合いが強い施策、ということだろう。
これは販売方法からも見て取れる。
minelは、2月9日〜28日にかけて専用ECで抽選販売。初回は5000名限定となっている。
「実際に購入して使っていただくお客様と一緒になって、 フィードバックしていただきながら市場を作っていきたいと考えています」(齋藤社長)
まず市場の反応を確かめながら小規模にスタート。どこに新しい「鉱脈」があるのかを見出そう、という戦略というわけだ。
ただ、記者会見では今後のスケジュールについても言及があった。
「大体2年である程度のサイズ感を想定しています。まだ確定的なことは言えませんが、それに向けて準備をして、次のステージを考えています」(齋藤社長)
私たちの水の飲み方は、2年後、どう変わっているのだろうか。