2023年は自動車メーカー自らが充電施設を整える必要がある年になるだろう。そうしないとライバルに水を空けられるリスクがある。
EVgo
- 自動車メーカーはこれまで電気自動車(EV)のバッテリーの充電については他社に頼ることがほとんどだった。
- しかし、公共の場にあるEV用充電器の信頼性の低さは、多くのドライバーにとってマイナスになっている。
- EVがもっと普及するためには、この状況を変える必要がある。
自動車メーカーは、電気自動車(EV)の公共の場での充電を自分たちの手で行う重要性を認識する必要がある。
過去数年間、アメリカではEVの普及率が比較的低かったため、自動車メーカーはパワートレインや自動車の開発に注力し、充電設備に関しての責任は他に押し付けてしまっていた。
現状では、自動車メーカーはEVの購入者に充電場所を提供するため、チャージポイント(ChargePoint)、EVゴー(EVgo)、エレクトリファイ・アメリカ(Electrify America)といった第三者に依存してきた。多くの自動車メーカーはこれらの企業と提携し、EVユーザーに無料の充電ネットワークを提供している。
もちろんテスラ(Tesla)は例外で、全米に独自の急速充電ステーション「スーパーチャージャー(Supercharger)」のネットワークを構築し、瞬く間に最も差別化された点になった。テスラはすでに全世界で4万以上のステーションを運営している。
最近になって、ようやく他の自動車メーカーはこのテスラの優位性を考慮するようになり、充電競争にもっと力を入れることが重要だと認識したようだ。また、ミシガン州の市場調査及びコンサルティング会社JDパワー(JD Power)によると、2022年、ドライバーは5回に1回はEVの充電に失敗しているという。これは電動化に何十億ドル(何千億円)も費やしてきた自動車メーカーにとっては良い兆候ではない。
自動車メーカーが充電設備を第三者へ依存するのはもう限界かもしれない。特に今日の顧客やEVの購入を希望する人たちにとって、充電体験と自動車そのものの体験は一体化しているのだから。
「なぜアメリカの市場向けの充電ネットワークに資金を提供するために自動車メーカー各社が集結しないのか不思議だ」と、市場分析会社のEVアダプション(EVAdoption)のローレン・マクドナルド(Loren McDonald)CEOはInsiderに語っている。
「つまり、自動車メーカーは、単にエレクトリファイ・アメリカと提携して、新車のEV購入で充電を無料にすることで、同様の効果が得られると考えているのかもしれない」
「しかし、もしそうであるのなら、EVの販売と充電の利用状況・信頼性の両方でテスラが圧倒的な強さを示しているように、この判断と考え方には大きな欠陥があったと言えるだろう」とマクドナルドは付け加えた。
デロイトが最近行った消費者調査では、アメリカ人の回答者のほぼ半数が、電気自動車を導入する際のハードルとして充電場所の不足を挙げているという。
Francis Energy
消費者にとっては大きな問題
自動車メーカーは電気自動車を選択する顧客を求めているのに、長い間、ほとんどコントロールできない、しばしば機能しない、さもなければ信頼性の低いネットワークに顧客を送りこんできた。
無料の公共充電を提供するブランドに魅力を感じるEVの購入者にとって、その約束は常に期待に応えてくれるとは限らないようだ。信頼性が問題でない場合、ロケーションや支払いのの問題が立ちはだかることもある。
しかも、EV購入希望者の多くは集合住宅に住んでおり、ガレージにあるプラグを利用することができない。デロイト(Deloitte)が最近行った消費者調査では、アメリカ人の回答者の46%が、電気自動車に乗る際のハードルとして、自宅に充電設備がないことを挙げているという。
「『充電設備が見当たらないから、おそらく近くにはないのだろう。この車をどこで充電したらいいのか少し不安だ』とまだ思っているはずだ」とアーンスト・アンド・ヤング・アメリカ(Ernst & Young Americas)の自動車部門責任者のスティーブ・パットン(Steve Patton)はInsiderに語っている。
S&Pグローバル・モビリティ(S&P Global mobility)の試算によると、アメリカでは2030年までに公共の充電インフラを8倍以上に増やす必要があり、そのためには1時間の充電で走行距離を12マイルから30マイル(約19kmから48km)追加できる「レベル2」の充電器を213万台、「レベル3」の充電器(80%の充電に15分から20分かかる)は17万2000台必要だという。
メルセデスはテスラに追いつくために、独自の充電ネットワークを立ち上げると発表した。
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状況を打開するために競い合う自動車メーカー
ゼネラルモーターズ(GM)はアメリカとカナダに4万基の「アルティウム・チャージ360(Ultium Charge 360)」という充電器を設置するプログラムを開始した。フォード(Ford)もまた7万5000台の充電器を備える「ブルーオーバル(Blue Oval)」というネットワークを構築しているところだ。リビアン(Rivian)は、リビアンオーナー専用の急速充電施設「リビアン・アドベンチャー・ネットワーク(Rivian Adventure Network)」と、公共充電施設「リビアン・ウェイポインツ(Rivian Waypoints)」の両方を整備していくとしている。
テスラの戦略を参考にすることや、他国がやってきたことを模倣することも自動車メーカーにとって非常に重要だ。例えばヨーロッパでは、BMW、メルセデス(Mercedes)、フォード、フォルクスワーゲン(Volkswagen)は充電ステーションネットワークの合弁会社「イオニティ(Ionity)」を設立した。ヨーロッパでは2022年の新車販売台数に占めるEVの割合は約14%でアメリカの2倍以上になっている。
このように充電に関しては、やらなければいけないことはたくさんある。
「コスト、インフラの未整備、インフラの信頼性の低さ、時間的な負担が大きいことなどが、今後も大きな障壁となり続けるだろう」と、コンサルタント会社アンダーソン・エコノミック・グループの(Anderson Economic Group)パトリック・アンダーソン(Patrick Anderso)CEOは話している。