ChatGPTは金融の分野でも重要な役割を果たすことができるだろう。
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専門家はChatGPTがさまざまな業界に影響を与えると予測しているが、ウォール街も例外ではないようだ。
このところ、OpenAIのChatGPTが世間の注目の的になっている。マイクロソフト(Microsoft)は1月末の直近のラウンドでOpenAIに100億ドル(約1兆3000億円、1ドル=130円換算)を出資した。これによりOpenAIの評価額は290億ドル(約3兆7700億円)になったと報じられている。
ChatGPTは、人間の会話のパターンを認識して模倣するジェネレーティブAIを使用して、ユーザーの質問に会話形式の回答を生成したり、百科事典的な知識を出力したりするチャットボットだ。文法的には正しいが内容が薄い小論文の量産から、昇給交渉の仕方についての的確なアドバイスの提供まで、ChatGPTで遊ぶのは楽しいが、これが多くの業界に与える影響について考える声が聞かれ始めている。
ChatGPTは2022年11月末に公開されたばかりで、まだ初期段階にあるが、専門家はすでにChatGPTとその基盤となる技術がファイナンスにおける生産性向上ツールとして使われることになると予想している。
KPMGのパートナー兼プリンシパルのディラン・ロバーツ(Dylan Roberts)氏はInsiderに対し、次のように述べる。
「現在、ナレッジワーカーが従事している特定のタスクをChatGPTが自動化することで、彼らはより価値の高いタスクに集中できるようになるだろう」
ChatGPTは特定の役割において最終的に人間に取って代わる能力を持っているとの意見もあるが、それが実現するかどうかはユーザーの手にかかっている。
コンサルティング会社モビクイティ(Mobiquity)のグローバルデジタルバンキング担当バイスプレジデントであるピーター-ジャン・ヴァン・デヴェン(Peter-Jan Van de Venn)氏はInsiderに対し、「テクノロジーにはそれが可能だ。問題は顧客がそれを受け入れるかどうかだ」と語る。
しかしChatGPTには、ファイナンスへの応用に特有の問題が少なくとも一つある。それは、ChatGPTが「ブラックボックス化されている」ことだ。フィンテック企業アロイ(Alloy)のCTOであるチャールズ・ハーン(Charles Hearn)氏はそう指摘している。つまり、AIが回答にどうやってたどり着いたかを追跡できないということだ。そのようなプロセスの性質によって、ファイナンシャルサービスにおける一部の規制要件を満たすことが難しくなる可能性がある。
ChatGPTが各種業界で革命を起こすことができるという意見に懐疑的な声や、ホワイトカラー労働者にとって究極の解決策となる可能性を疑う声もある。マークアップ(The Markup)によると、プリンストン大学のある教授はChatGPTのことを「デタラメ製造機」とまで呼んだという。
しかし、戦略・イノベーション企業ジャンプアソシエイツ(Jump Associates)のCEO、デヴ・パトナイク(Dev Patnaik)氏は、ChatGPTのようなツールを性急に切り捨てることは間違いだと言う。
「そういう人たちは脳みそをフル回転させて、ChatGPTが革命を起こす未来が実現しない理由を積み上げている。もし実現したら自分はどうするのかについて考え、判断することはしない」(パトナイク氏)
しかし、ウォール街においてChatGPTを警戒すべきかを思案する人がいる一方で、すでにChatGPTを仕事に使っているところもある。スウェーデンのプライベートエクイティ大手EQTでは、同社が7年前に開発したAIプラットフォームの強化にChatGPTを使用している。同社のAI駆動プラットフォームMotherbrainを統括するアレクサンドラ・ルッツ(Alexandra Lutz)氏は次のように語る。
「今や、ChatGPTやその意味するところについての見方を伝えるだけでなく、最高幹部やポートフォリオ企業に対して活用例を示すことで、これが誇大広告ではなく本物だということが理解されつつある。これには使い道があり、明日からでも使い始めることができるということを」
Insiderは5人の業界専門家に、金融サービスのさまざまな分野においてChatGPTとその基盤技術をどう応用できるか、見解を語ってもらった。
インベストメントバンキングとディールメイキング
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KPMGのロバーツ氏は、ChatGPTはインベストメントバンキング(投資銀行)における強力な調査ツールになり得ると言う。AIは大量の顧客データを収集・分析したうえで、資金調達を必要としそうな企業や買収候補になりそうな企業を特定するなどの提案を行うことができるだろう。
プライベートエクイティ大手EQTのルッツ氏はInsiderに対し、同社ではベンチャーキャピタル投資から既存のポートフォリオ企業にとって有益な追加的買収まで、潜在的なディールの調達方法をChatGPTが変革しつつあると話す。
「我々は、アルゴリズムや機械が人間に取って代わることにはならないと強く信じている。単に、アルゴリズムを使う人間が使わない人間に勝つことになるのだと考えている」(ルッツ氏)
2016年に立ち上げられたEQTの社内AIプラットフォームMotherbrainは、投資や買収の候補を特定したり、同社の既存のディールのパイプラインをモニタリングしたりする際に使われている。
2022年まではディールを担当するチームもポートフォリオ企業も、投資あるいは買収をしたい企業を探す際、規模、地域、セクターといった属性をもとにしていたとルッツ氏は言う。こうした情報を受け取ると、ルッツのチームはそれらの属性をMotherbrainに入力する。すると、企業や人およびその間のつながりについての数億のデータポイントから成るデータベースに適用される。Motherbrainが生成した候補企業のリストを見て、ビジネスサイドは各企業が適しているかどうかフィードバックする。ルッツ氏のチームはその情報をMotherbrainに再び入力する。このプロセスを続けるのだ。
だがChatGPTの導入により、EQTのディールチームとポートフォリオ企業は、ルッツ氏のチームを通すことなくAIと直接やりとりできるようになった。より自由な形で質問することができるし、特定の種類のテクノロジーを使用している企業を対象にするといった複雑なリクエストも可能になったという。
カスタマーサービス
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ロバーツ氏によると、ChatGPT導入による効果が最も期待できるのはカスタマーサービスだという。より共感的で人間に近いやりとりができるようになるからだ。
初期世代のチャットボットの場合、顧客は複数の選択肢の中から問題の状況に一番近い選択肢を選ぶことをひたすら繰り返させられた末に、結局は人間のオペレーターにつながれるという体験をしていた。だがChatGPTなら、効率良くトラブルシューティングを行いつつ、顧客を人間のオペレーターにつなぐ回数を減らせる可能性が高い。
ただ、ChatGPTが人間の仕事をなくしてしまうほどに良い働きをするかはまだ分からない。
カスタマーセンターの担当者は、顧客データの検索を高速化することで企業の運用コストを削減し、顧客の待ち時間を減らすというように、生産性向上ツールとしてもChatGPTを使えるかもしれない。
資産マネジメントとファイナンシャルプランニング
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InsiderはChatGPTに、ウォーレン・バフェット(Warren Buffett)氏の投資戦略はどのようなものか、また景気後退時にはどのように投資すべきか聞いてみた。その回答はかなりいい線を行っていた。それはつまり、ChatGPTが分析に基づいて投資戦略を指定し、提案する能力を持っていることを意味する。
ChatGPTは、BtoCのフィンテックが個人顧客向けに提供する、ハンディな資産管理マネジャーを動かすのにも使えるかもしれない。顧客の財務情報を分かりやすい形で示せるアプリはまだ少ないとアロイのハーン氏は言う。
「誰もが、ChatGPTなどのチャットボットで動く資産管理マネジャーを持ち、『いくらまで支出していい? 可処分所得はどれくらいある?』などと聞けるようになる。こういったものはまだ金融サービス業界には登場していないと思うが、相当強力なサービスになるだろう」
サイバーセキュリティ
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アイデンティティ・デシジョニング(顧客が申告した身元が正しいかどうかを判断するプロセス)はファイナンスの舞台裏の重要な機能であり、この分野でもChatGPTが役立つ可能性がある。
企業は、請求先住所などの記録を照合したり普段の取引の場所を比較したりすることで顧客の身元を認証している。アロイのハーン氏は次のように述べる。
「銀行の担当者に個人情報を渡せるなら、ChatGPTのような機械学習モデルに情報を渡すこともできるだろう」
しかし、マイクロソフトやアマゾン(Amazon)など一部の企業は社員に対し、ChatGPTに秘密情報(アイデンティティ・デシジョニングのカギとなる個人を特定できる情報など)を入力しないよう注意喚起している。そのデータがChatGPTの今後のモデルに使用されたり、他のユーザーに共有されたりする可能性への懸念からだ。
コンシューマーバンキング
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オンラインバンキングにおけるパーソナライゼーション向上のためにChatGPTを使用できる可能性もある。これにより顧客体験の改善につながるとともに、銀行のメリットにもなる。モビクイティのヴァン・デヴェン氏はこれを「ウィンウィン」シナリオだと言っている。
「銀行はすでにカスタマージャーニーをパーソナライズしているが、それは主にルールに基づいたもので、特定の部分に関してカスタマイズされている。ChatGPTを使うことで、顧客の過去の取引、投資ポートフォリオ、ソーシャルデータに基づいてカスタマイズされた商品提案を提供できるようになるだろう」(ヴァン・デヴェン氏)
既存顧客へのサービスだけではない。ChatGPTが提供するパーソナライゼーションはセールスのコンバージョンのための重要なツールとしても機能するという。ヴァン・デ・ヴェンは次のように語る。
「ChatGPTは顧客が銀行で口座開設や金融商品の組み換えを行う際に、銀行口座照会をリアルタイムでサポートすることができる。それにより、顧客体験の向上とともに商品コンバージョン率の向上にもつながるだろう」
トレーディング
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Insiderが取材した専門家の中には、トレーディングにおけるChatGPTの潜在的なユースケースについて指摘した人はいなかった。
しかしだからといって、トレーディングにおける活用の可能性が検討されていないわけではない。それどころか、JPモルガン(JPMorgan)の調査によると、トレーダーの53%はAIや機械学習が今後3年間で非常に大きな影響をトレーディングに与えることになると見ている。