新型HomePod2台(ステレオペアとして使用)、Apple TV 4K、大画面テレビ。AVアンプなど不要で、たったこれだけのシステムで簡易的にホームシアターと音楽環境をアップグレードしてみた体験は……。
撮影:Business Insider Japan
新型HomePodが手元に到着し、1週間ほど使っている。
発売されたばかりの新型は第2世代にあたり、価格は4万4800円(税込)。
第1世代が日本に登場したのは2019年。2年後の2021年3月に第1世代は一度生産終了になり、2年近いブランクを経て第2世代で「復活」したという経緯がある。
第1世代は実のところ、自宅の環境で使う機会がないまま生産終了になった。
アップルがしきりに訴求する「空間オーディオ」や2台組み合わせた際のドルビー・アトモスの立体音響の良さがどれほどなのか、そしてApple TVだけではなくテレビの音もすべてHomePodから鳴らす機能も合わせて、実機で試してみた。
このシステム、正直甘くみていました
結論から言うと、新型HomePodの音響システムは、自分でも珍しいくらいかなり気に入った。
色々な音源を聞き比べていくと、抜群によく聞こえるものと、そうでないものもあるのだが(後述)、トータル満足度は相当高いと感じる。
そういう評価になった理由を、この原稿では振り返りながらまとめていこうと思う。
新型HomePodのアメリカ価格は299ドル。第1世代は349ドルで登場後、値下がりして299ドルになった経緯がある。日本価格は為替を反映して第1世代3万5424円→4万4800円(いずれも税込)と値上がりした。
撮影:Business Insider Japan
パッケージは非常にシンプルだ。
開封して使い始めるまで、基本的には
- 本体を取り出す
- ケーブルをつなぐ
- 電源を投入する
これだけ。iPhoneを使って、各種接続設定などをしていく。
今回は最初からステレオペアを想定していたが、まず1台目をセットアップして、単体のスマートスピーカーとして動作するようにしてみる。
パッケージから取り出して使うのは基本、これだけ。ケーブルは第2世代の新型から取り外し可能になった。地味にうれしいところだろう。
撮影:Business Insider Japan
電源ケーブルは背面にスポッとつなぐだけ。反対側はコンセントプラグになっている。つまり、2台使う場合はコンセント2つを占有することになる。考えようによっては贅沢。
撮影:Business Insider Japan
電源を入れてしばらくすると、iPhoneの画面にHomePodを認識したことを知らせる通知が届く。ちょうど、AirPodsを始めてiPhoneに接続するときと同じような設定導線になっていて、迷うことなくすぐに設定できる。
続いて、もう1台も同じように電源を入れる。すると、ほぼ自動の形で「ステレオペア」として設定することができる。
ステレオペアとして設定すると、こういう風な画面になる。
ここまで、開封から30分経たず完了。
新しいオーディオ機器を自宅に置くことを考えると、あまりの簡単さに拍子抜けする。
HomePodには、周囲の環境の反射音などを認識して、最適なセッティングに自動的に調整する機能がある。この機能は徹頭徹尾「自動」なので、いつ動作しているか見た目ではわからない。
設置する際にも「いま調整しています」のような無粋な表示はなし。徹底している。
ホームシアター的なセットアップをしようと思うと、さらにテレビなどで映画やネットフリックスなどを見られるようにしなければならない。
それには今回「Apple TV 4K」を使った。
Apple TV 4Kのパッケージ。価格は1万9800円(税込)から。箱自体も手のひらに載るほど小さい。とはいえ、これがあるなしではHomePodの使い勝手が大きく変わる。
撮影:Business Insider Japan
こちらのセットアップもサクサクと進む。
Apple TV 4Kのサウンド出力をテレビ画面→HomePodに切り替える必要があるかと思ったが、そこはさすがというか、設定作業の流れのなかで、勝手に認識してくれるので「TVスピーカーとして使用」を選択するだけだ。
Apple TVのセットアップの流れのなかで、HomePodの存在を自動的に認識して切り替えるかどうかを選べる。
撮影:Business Insider Japan
まさに「垂直統合のモノづくり」のたまもので、このスムーズさにはさすがとしか言い様がない。
ステレオペアの新型HomePodでApple Musicの空間オーディオを聴いてみる
HomePodの「底面」。
撮影:Business Insider Japan
結局、全部新品開封しているのに、全設定が終わるまで1時間とかからなかった。そうやって即席でできあがった簡易ホームシアターが、冒頭の写真なわけだ。
まずは、アップルご自慢の、立体音響「ドルビー・アトモス」収録の空間オーディオ対応楽曲を聴いてみる。
最初にポップス曲を聴き始めた。
水曜日のカンパネラ「エジソン」やADO「新時代」、Official髭男dism「I LOVE…」などなど。
「空間オーディオ」カテゴリーのなかにはドルビー・アトモス収録の楽曲がカテゴリー別に分類されている。
撮影:Business Insider Japan
いずれも、かなり低音が増幅されていて、少し音を大きくするとドンドンという低音が床にひびく。戸建て環境なので騒音はそこまで気にする必要はないものの、マンション住まいだと階下や隣家への騒音が気になりそうだ。
実際、夜に聴くのはかなり音量を絞っても家族から苦情が出かねないレベルのパワーがある低音だ。
新型HomePodでは、「低音を減らす」という設定もできる。
あまり低音増幅型の音は好みではないので「Hey Siri、低音を下げて」で、低音を少ない設定にすると、ポップス曲にはちょうど良いくらいのバランスになった。
ジャズ曲で「えっ、なにこれ?」体験
新型HomePod。本体上部にはディスプレイがある。常時、ぼわーっとした曖昧な光り方をしていて、文字などの記号表示はしない。Siriに呼びかけたときは、ディスプレイの色が変化する。
撮影:Business Insider Japan
ただ正直言うと、この時点では音質に特筆するほどの美点は感じていなかった。
「音質の良いスマートスピーカーって、こういう感じなんだな」という程度だ。なにせ、価格は1台で4万4800円(税込)で、それを2台も使っているわけだから。
それが「えっ、なにこれ?」という発見に変わったのは、音質チェックがてらドルビー・アトモス収録のジャズ楽曲、ドナルド・バートの「Ghana」を再生したときだった。
本来はスピーカーがないはずの目線の高さから、トランペット、ドラムが聞こえてくる。ベースの締まった低音も好ましい。
アップルが言う、リアルタイム処理で音響を最適化する「コンピュテーショナルオーディオ」ってこういうことなの?という驚きがあった。
アップルのHomePod製品ページにある、コンピュテーショナルオーディオの動作イメージ。
出典:アップル
ドナルド・バートの「Ghana」の場合、「低音を減らす」にはしないほうが、さらに音のまとまりがよくなるように思う。
おもしろくなって、ドルビー・アトモス収録のクラシック曲をかけてみると、同じようにとても良い。音の空間が目の前の壁のさらに奥まで広がっているような印象で、オーディオ機器としては小さい部類に入るHomePodを2台だけで鳴らしているとはとても思えない。
さらにおもしろいのは、この体験の良さは「ドルビー・アトモスだけがすごい、というわけではない」ことだ。
一般的なステレオ収録された楽曲でも、楽曲次第では十分に立体感を持って聞こえてくるものがいくつもある。
アップルに確認すると、AirPods Proとは違って、ステレオ音源を擬似的に空間オーディオ化するようなことは「していない」そうだ。つまり単純に、HomePod×2台によるステレオ再生の表現力ということになる。
実はHomePodを置いた部屋には、ある音響メーカーのエントリークラスの2.1chスピーカー(小型の左右スピーカー+ウーファー)も設置している。切り替えてみると、音質があまりに違うので技術の進歩を感じざるを得なかった。
色々な楽曲を聞き比べてみると、やはり自分の印象では、最近のイヤホンに合わせたチューニングのようなポップス曲だと、低音が強く出過ぎる印象がある。
逆に、アカペラ曲や、ピアノにボーカルが合わせているような曲は、非常に気持ちよく聴ける。このフィーリングの違いは、低音増幅が強めというHomePodの特徴と関係がありそうだ。
一方、ステレオペアではなく、シングルで使うとどうだろう。
これは、残念ながら「普通の、音が良いスマートスピーカー」に近い。
もちろん、それなりに音のこだわりを感じるサウンドではあるのだけれど、ステレオペアで使ったときとの差はあまりに大きい、というのが正直な感想だ。
2023年2月14日追記:
HomePodと組み合わせる機器次第なのか、ドルビー・アトモスが効かないケースがあったため、念のため仕様についてアップルにも確認をしてみた。
回答を総合すると、「Apple TV 4Kでの接続以外は、基本的にHomePod側の設定に合わせて再生される」というのが公式回答だ。HomePod側の設定は、iPhoneの「ホーム」アプリの「ホーム設定」→「メンバー」→自分の名前→「Apple Music」から「ドルビー・アトモス」のオン/オフを選ぶ。ここをオンにしておけば、基本的にドルビー・アトモスで再生される。これはMac(M1/M2)、iPad Pro(最新世代)などでも共通だ。
Apple TV 4Kの場合は少々特殊で、HomePodの設定に関係なく、Apple TV 4Kの再生設定が適用される。
なお、手元ではiPhoneなどで接続した際にドルビー・アトモスがなぜか無効になるケースがあったが、何度か再接続すると直った。ドルビー・アトモスが有効かどうかは、iPhoneのミュージックアプリのアートワーク画面をみると、ドルビー・アトモスのロゴマークが表示されていることで確認できる。
ドルビー・アトモスで再生している時には、この部分にロゴが出る。ロゴがロスレスなど別のロゴになっている場合は、ドルビー・アトモスでは再生されていない。
撮影:Business Insider Japan
Apple TV 4K+ARCでホームシアターをつくるメリット
撮影用に55インチのテレビとほぼ同じ幅に設置しているが、実際にはこの2倍くらいの幅を開けて設置している。中央の黒い箱状の機器は「Xbox Series X」。
撮影:Business Insider Japan
ドルビー・アトモス収録の楽曲でかなり好印象だったことからもわかるように、ホームシアター的な使い方でも立体感のある音は説得力のある表現力として感じられる。
映画ソース特有の、ダイナミックレンジの広そうな音(例えば、映画『インターステラー』のロケット打ち上げの重低音など)も、臨場感ある映画館風の表現が楽しめる。
Apple TV 4Kのマイク内蔵リモコン。右側面には、Siriに呼びかけるためのボタンがある。
撮影:Business Insider Japan
ホームシアターはとても奥が深い世界だ。だから、この体験程度で、HomePodが最高だというつもりはない。
実際サウンドバー+αくらいのオーディオ機器で、このくらいの体験ができるものはいくつもあるかもしれない。
ただ、Apple TV 4KとHomePodでしかできないことは、とにかくセットアップが簡単だということ。家に届いて1時間も経たずに、セットアップ完了して、これだけの音響体験ができるというのは、なかなかないのではないか。
作業時間に対する満足度(これも一種の「タイパ」?)の高さという指標があるとしたら、間違いなくトップクラスだと思う。
もう1つ、Apple TV 4KとHomePodを組み合わせると良いことがある。
大画面テレビの「ARC(eARC)」機能を使って、テレビから鳴るすべての音を、HomePodで聴けるようにできるのだ。
※ARCとは:「オーディオ・リターン・チャンネル(Audio Return Channel)」の略。テレビのHDMI入力端子から、AVアンプ側のHDMI出力端子に音声信号を送ることができる機能。
この液晶テレビは少し古い機種だが、ARC機能に対応している。2010年以降のテレビで採用例が多いため「使ったことがないけど実は対応していた」ということも多い。上位規格のeARC対応は、2020年以降のモデルが多いようだ。
撮影:Business Insider Japan
今回は特に触れなかったが、スマートホームのハブとしての機能もある。HomePod内部に温湿度センサーを内蔵しているので部屋の温度・湿度を家の外から確認することもできる。
出典:Business Insider Japan
ARC機能は、Apple TV 4KがAVアンプかのように振る舞うことで実現している。現在ベータ版の機能となっているがごく普通に利用できる。
Apple TVのオーディオ出力の設定画面を開いたところ。ARC機能はベータ版機能として提供されている。
撮影:Business Insider Japan
HomePodを「音楽を聴くためだけ」だと思うと、2台で9万円のコストはちょっと厳しいと感じる人もいるだろう。
一方、リビングにHomePodとApple TV 4Kを置いて、音楽からテレビ、映画まで、すべてのサウンドをHomePodに集約できるとしたら、製品の評価はかなり変わってくる。
設置する機器が非常にシンプルなことも利点だ。AVアンプ、たくさんのスピーカーといったようなゴテゴテした一群をリビングに置きたくない人にとっても、こういうコンセプトはハマるのではないだろうか。