マイクロソフトのサトヤ・ナデラCEO。
Sean Gallup/Getty Images
マイクロソフト(Microsoft)とグーグル(Google)が未来のネット検索を支配しようとしのぎを削る中、AIを使った検索によって生成されるトラフィックに大きく依存している広告主やパブリッシャーらは、それらが自社のビジネスにどう影響するのかを模索している。
「今回は、1990年代にウェブが誕生して以来のテック業界の最大の変革となる可能性があります」と話すのは、約4000のウェブサイトの広告ビジネスを管理するカフェメディア(CafeMedia)で最高戦略責任者を務めるポール・バニスター(Paul Bannister)だ。
複数の情報筋がInsiderに語ったところによると、マイクロソフトとグーグルはいずれもAIを使った検索をユーザーに提供しようと競い合っているが、これがトラフィックと広告収入にどのような影響を与えるかについて、パブリッシャーや広告主には何も語っていない。
IPG傘下のパフォーマンスマーケティングエージェンシー、リプライズ・デジタル(Reprise Digital)で分析部門のグローバルヘッドを務めるクリス・シムカット(Chris Schimkat)は、「とてもわくわくすると同時に恐ろしいことでもあります」 と述べる。同氏はChatGPTを使ってメールを書き、コーディングを高速化しているという。
「でも多くのマーケティング担当者にとって、AIがコンテンツのライティングと画像生成を代わりにやってくれるのであれば、私たちは何の価値を提供し続けることができるのでしょうか。これはかなり重要な問いかけになります」(シムカット)
検索広告のあり方が根底から覆される
SEOプラットフォームであるSEランキング(SE Ranking)のSEOチームリードであるアナスタシア・コツビンスカ(Anastasia Kotsiubynska)は、「ChatGPTやBardなどの新しいAIアルゴリズムによって、検索広告に変化が起きるのは間違いありませんが、それが広告コストに及ぼす影響まで予測するのは難しい」 と言う。
新しいAI検索ツールをめぐりメディアが騒いでいるにもかかわらず、今のところ広告業界の状況に大きな変化はないようだ。
デジタルマーケティングエージェンシー、Croudで製品戦略担当取締役を務めるマゼン・フセイン(Mazen Hussain)は、「私たちはMicrosoft Adsのトラフィックを注意深くモニタリングし、今回のニュースによってクエリ数が大きく変化するかをチェックしていますが、まだ何も変わっていません」 と語る。
AI検索の影響を精査するパブリッシャー
最大の懸念の1つは、AIを使った検索エンジンにより、人々がウェブサイトをクリックしなくても必要なすべての情報を得られるようになり、トラフィックとパブリッシャーの広告収益が減少することだ。バニスターはAIを使った検索が短期的に広告を大きく変えるとは考えていないが、小さな変化でもビジネスに影響を与える可能性がある。
「検索クリックスルーが3%減少すれば、多くのサイトのページビューが3%減少することになります。ですから心配になるのは当然だと思います。でも、事実を把握し、これがどう機能するのか、新たなチャンスは何なのかを理解したいとも思っています」(バニスター)
多くのパブリッシャーは、検索エンジンの進化とともに、いかに自分たちのトラフィックが割を食ってきたかをよく知っている。
USA Todayやローカルニュースサイトを所有する出版社、ガネット(Gannett)のSEOおよび製品担当取締役を務めるカイル・サットン(Kyle Sutton)はこう述べる。
「グーグルなどが検索結果の中で(ユーザーの)質問に直接答えを出すようになってきています。我々は、この縮小する検索環境の中で長年にわたって対応してきました。以前はトラフィックが保証されていたスポーツ試合のスコアですら、これが顕著になっています」
サットンが指摘するように、今では人々がスコアや似たような基本情報を検索すると、グーグルは検索ページの強調スニペットと呼ばれるモジュールに質問の答えを表示させるようになっている。
とはいえ、サットンは慎重でありながらも楽観的だ。Bingやグーグル検索の検索クエリにAIが追加されても、ガネットのようなニュースサイトをメインに運営するパブリッシャーには影響しないだろうと考えている。グーグルのサンダー・ピチャイCEOはブログの中で、Bard AIは「正しい答えが1つではない」問題を扱うのに役立つと述べている。
「これらのAIサービスが非常に複雑な問題ばかりを扱うのであれば、我々にはそれほど大きな影響があるとは思えません」(サットン)
広告業界の中には、AIを検索エンジンに追加することが広告主やサイト所有者にとってチャンスになり得ると考えている者もいる。広告代理店のTinuitiで新興技術のプラクティスリードを務めるニリッシュ・パルサド(Nirish Parsad)の意見はこうだ。
「広告主がさらに充実したコンテンツや、より説明を加えた製品ページをウェブサイトに追加することで、新しいBingがどのようなコンテンツを表示すべきか理解し、そのウェブサイトへのトラフィックを増やすことができるでしょう」
SEOコンサルタントのブロディ・クラーク(Brodie Clark)は、ChatGPTを利用したBingの検索エンジンのベータ版を入手した業界でも数少ない人物である。クラークは、コンテンツ所有者にもチャンスがあると考えている。Bingでは、すべての検索結果がAIによって決定されるのではなく、AIを使った検索結果を別の検索ボックスに掲載し、ユーザーが続けて質問できるようにしている、と同氏は指摘する。その他の種類の検索結果はページに残る。
「この分野の多くの人が、これを機に今までのアプローチを変え、それを営業ツールとして利用しているのだと思います。SEOへのアプローチを変える必要はありません。これは人々のためのコンテンツを作成するという通常の原則に該当するものだからです」(クラーク)
広告主は、自社のツールにAIが追加されると広告のパフォーマンスが向上することを目の当たりにしてきた。
D2Cの寝具およびホーム製品のブランドであるサンデーシチズン(Sunday Citizen)のCEO兼共同創業者のマイク・アバディ(Mike Abadi)は、グーグルのP-Maxキャンペーン(Performance Max:パフォーマンス最大化キャンペーン)やメタのAdvantage+を使ったAI広告キャンペーンの方が、AIを使わないキャンペーンよりも広告効果が高いという。これらのキャンペーンでは、広告、オーディエンス、メッセージングが完全に自動化されて決定されるからだ。
「彼らはキャンペーンを本当によくやってくれていて、最高の結果をすぐに出してくれるようになりました」(アバディ)