REUTERS
ここ数カ月、アメリカの雇用環境は厳しい状況に置かれている。何万人もの人々がビッグテックでの職を追われ、それより見劣りする規模の小さな企業に再就職するという流れが起きている。
「ツイッター(Twitter)で受けた新人研修のことを思い出しますよ」
そう話すのは、イーロン・マスクが同社のCEO就任後早々に大なたを振るった人員削減の対象となった元従業員だ。
新しい職場での新人研修など、たいていは面白くもないかまったく記憶に残らないかのどちらかだが、ツイッターは違った。のんびりとした雰囲気のなか、会社を、同僚を、そして新しい仕事を知るいい機会だった——少なくとも、マスクが買収する前までは。
ツイッターの新人研修は「デスクにイエスを(Yes to Desk)」と呼ばれており、入社した従業員ができるだけスムーズに仕事を始められるよう設計されていた。
前出の元ツイッター社員は、数週間前から別のテック企業で働き始めた。再就職先も名前は知られておりバリュエーションも数十億ドルと評価されてはいるが、過去30年間上げ調子が続いていたテック業界の一角にいるのだという魔法は消え失せてしまった。
新しい会社では新人研修は大して練られておらず、なんだかズレているなと感じたとその元ツイッター社員は言う。会社が提供する軽食も給料も、ツイッターと比べると見劣りしてしまう。
あの日に戻りたい
ビッグテックで給料やストックオプションをたんまりともらい、豪華な福利厚生を提供されて何年も過ごしてきた人たちは今、より水準の低い仕事に適応することを強いられている。
マスクに解雇された別の元ツイッター社員で、最近別のスタートアップに職を得たある人物は言う。
「どこの企業も大してうまく行っていないんだな、と痛感しました」
ツイッターではマスクの指揮下でドラスティックなコスト削減がいまだ継続中であり、これによって元社員たちが恋しがっているものの多くが変わってしまったことは間違いないが、「ツイッター1.0は特別だった」とある者は話す。
現在求職中で面接をいくつか受けたというメタの元社員は、その過程でいちいちノスタルジックな気持ちになるという。メタに限らずビッグテックはどこも、従業員を幸福にするために費用を惜しまなかったからだ。
メタ、グーグル、マイクロソフト、そしてテック業界の大多数の企業が大量解雇を経てさらなる費用削減に動くなか、あの自由気ままな日々はもう戻らない。
ビッグテックに残っている社員たちは今も楽しい時を過ごしている。職の安定という意識はなくなっても、依然として給与は高く、軽食はタダだ。だがそこから追い出された人たちは、自分があのような待遇を手にすることはもうないかもしれないと認識している。
仕事内容は同じでも給料は50%ダウン
匿名を条件にInsiderの取材に応じてくれた6人の元ビッグテック社員のうち何人かは、テック業界並みの報酬を求めてデロイト(Deloitte)など大手のコンサルティング会社や会計事務所の求人を検討している。
「金銭面では非常に魅力的なんですが、仕事内容がイマイチなんです」とこぼすのは、2022年にビッグテックから解雇され、近ごろ四大会計事務所の1つで面接を受けたという人物だ。他にも新興のストリーミング企業やヘッジファンドなど数社の面接を受けているが、どれも年収ダウンになるという。
テック業界で最近職を失った者の中には、いくつも求人に応募し、面接もパスしていざ給与交渉という段になって採用担当から突然無視されるという苦痛を数カ月味わった後にようやく、以前は当たり前と思っていた給与水準はもう得られないのだと悟った人もいる。テック業界の求人市場には経験豊かな働き手があふれているため、企業は給与水準を大幅に下げている。
最近マイクロソフトを解雇され、現在休職中だという人物は、テック企業は単に、ようやく去年になって従業員に給与を高く払いすぎていたことに気づいただけなのだと言う。
「単純にテック業界の給与が膨らんで、他のあらゆる技術職が見劣りしていただけなんですよ。今は異常に競争が激しいので、元に戻るのは難しい。20〜30%、あるいはそれ以上の給与ダウンを飲まざるを得ないんじゃないでしょうか」
なおこの人物の友人は、解雇後に4カ月間の就職活動を経てようやく、ビッグテック以外で同職種、同水準のポジションで給与は半額という条件を飲んだという。
2022年の段階で既に悪化し始めていた求人市場に不満を抱き、退職金を使ってしばらく休暇を取ったというテック業界の元社員も少なくない。スナップ(Snap)から解雇された元社員もその一人だ。
求人市場はいまだ回復していない。その元スナップ社員は、何週間もかけて面接を受けたものの結局アマゾン(Amazon)に断られ、グーグルからの連絡も途絶えてしまった。今は、フィンテック企業からもらったオファーにするか、それともベンチャーキャピタルの出資を受けているスタートアップからのオファーにするか検討中だ。どちらにしても年収ダウンだ。その人物は言う。
「仕事は楽しくはないでしょうね。何百万ものユーザーに触れてワクワクするような類のものじゃないですから。ただの仕事ですよ」