Mavenは女性の健康の専門家とユーザーをつなぐ遠隔医療プラットフォームだ。
Courtesy of Maven Clinic
デジタルヘルス関連の資金調達額は、長年にわたって記録的な高水準だった。2021年には、デジタルヘルス分野に291億ドル(約3兆9300億円、1ドル=135円換算)が流れ込んだ。しかし、2023年は資金調達が厳しくなっており、この分野の最もホットなスタートアップ企業も苦しい状況に陥り始めている。
金利の上昇に伴い、投資家は資産を現金として持っておきたいと考えるようになっている。そのことで、企業が新たに資金調達を行うのが困難になっているのだ。資金調達を行うデジタルヘルス関連のスタートアップは減少しており、これまでより厳しく吟味されるようになるだろうとInsiderに複数の投資家が話している。
このような状況の中でも、いくつかの小規模スタートアップが注目を集めている。例えば、高収入に対して事業運営費を低く保つ計画、収益性を高めるための計画、そして長期的に見て顧客の節約につながるような計画を持つような企業だ。
デジタルヘルス分野を成長させているのは、経済学的トレンドだ。これまでは天文学的な成長に注力していたデジタルヘルス関連のスタートアップは、現在では支出を抑えて、会社の存続のために収益性を出すことを目標に掲げるようになっていると、自らもインクルーディッドヘルス(Included Health)というスタートアップのCEOを務めるオーウェン・トリップ(Owen Tripp)氏はInsiderに語る。
「おそらく、本来理想的なのは、この2つのやり方のどこか中間でバランスを見出すことだろう。それができれば、私たちの業界は成熟したということになる」
iStock; Rebecca Zisser/Insider
投資家は何を求めているのか
スタートアップを評価する際には次の3つの項目を考慮すると、複数の投資家がInsiderに話している。
- そのスタートアップが顧客に対してどれほどの金銭的価値を生み出しているか、つまり顧客から見た投資収益率はどれほどか。
- そのスタートアップのユニットエコノミクス、つまり各事業の支出と収入はどれほどか。
- そのスタートアップは、収益を出せる方向に進みつつあるか。
「ユニットエコノミクスの観点で状況がよく、収益を出せる方向にも進んでいるなら、資金調達できるだろう」
そう話すのは、シリコンバレーバンク(Silicon Valley Bank)でアメリカ中部ライフサイエンス・医療バンキング部門の責任者を務めるトム・ハーツバーグ(Tom Hertzberg)氏だ。
資金調達が難しくなる中でも、2022年11月、女性の健康に着目したスタートアップであるMavenは競合他社を抑えて、ゼネラルカタリスト(General Catalyst)が主導する9000万ドル(約121億5000万円)の資金調達に成功し、注目を集めた。
この資金調達により、Mavenの評価額は10億ドル(約1350億円)から13億5000万ドル(約1822億5000万円)へと上昇した。
MavenのCEOを務めるケイト・ライダー(Kate Ryder)氏は、この資金調達はクリーンな条件、つまり投資家を守るためのおびただしい規定がない条件で行われたものであることをほのめかした。ライダー氏がInsiderに語ったところによると、Mavenは資金繰りに窮する前に資金調達を試みたという。
NOCDのスティーブン・スミスCEO。
NOCD
強迫性障がいの人にセラピーを提供するアプリを開発するNOCDは2023年1月、シグナベンチャーズ(Cigna Ventures)と7ワイヤーベンチャーズ(7wireVentures)が共同で主導したラウンドで3400万ドル(約45億9000万円)の資金調達に成功した。NOCDのCEOを務めるスティーブン・スミス(Stephen Smith)氏は、このディールもクリーンな条件で行われたと語っている。
NOCDの取締役と7ワイヤーベンチャーズのパートナーを兼任するアリッサ・ジャフィー(Alyssa Jaffee)氏がInsiderに語ったところによると、NOCDは収益などの財務目標を達成しているとのことだ。
「この事業の成果を、とても感慨深い気持ちで見てきた。ロケットのように事業が進んでいる」
このように財務目標を達成できるデジタルヘルス関連のスタートアップは少なくなってきているという。
投資資金の節約
Medableの共同創業者兼CEOのミシェル・ロングマイヤー氏。
Medable
GSRベンチャーズ(GSR Ventures)にてパートナーを務めるサニー・クマール(Sunny Kumar)氏は、スタートアップが現時点での顧客に提供できるROI(投資収益率)を最重要視しているという。
クマール氏が例に挙げるのは、バーチャル臨床試験を手がけるMedableという企業だ。タフツ医薬品開発研究センターの調査によると、Medableのプラットフォームを利用することで、製薬会社は第3相臨床試験で必要な経費を最大13倍節約できるとのことだ。
クマール氏は、ROIの大きい事業に優先的に投資することに関して、こう語っている。
「ROIを明確かつ数値化可能な形で示すとともに、比較的短期間でリターンが得られる必要がある。
この条件を満たせなければ、その事業については忘れた方がいい」
他の企業は、厳しい時期に成長する方法として、リターンを提供する能力に着目している。
例えば、Virta Healthというスタートアップは、Validation Instituteの研究結果をもとに、糖尿病患者に対する投薬を減らすことで、出費を抑える手助けをしている。
患者が給付金の支給を受ける支援を行っている非公開会社のQuantum Healthのゼイン・バーク(Zane Burke)CEOは、1年目が終わるまでに、顧客から支払われた手数料の2倍を超える額の給付につなげられているとInsiderに対して語っている。
資金調達の先送り
一部のヘルスケア関連スタートアップは、業績が順調な時もさらなる資金調達を試みている。しかし、厳しい市場環境の中での資金調達を避けようと、財布の紐を締める方向に進んでいる評価額の高い企業もある。クマール氏は次のように述べている。
「2年分以上の資金があるなら、おそらく資金調達はしないだろう。
評価額が厳しくなってしまう環境、かつ、誰しも比較的保守的に投資計画を考えている中では、資金調達をしなければならない状況を避けたいと思うはずだ」
Quantum Healthはすでに、外部からの資金調達なく事業を進められるだけの収入を確保しているとバーク氏は言う。Virta Health、Medable、そして医療サービス事業者に対して医療費の請求を簡素化する事業を行っているスタートアップのCedarはいずれもInsiderに対して、投資家から追加の資金調達を行うことなく収益を出せるように計画していると語った。
デジタルヘルス関連のスタートアップは、あらゆる可能性を想定した計画を立て、選択肢を増やす必要があるとCedarのフロリアン・オットー(Florian Otto)CEOは語る。
「なぜなら、この状況があと3カ月続くのかあと3年続くのか、まったく見当がつかないのだから」