「3Dプリンター住宅」の時代は来るか?建設用3Dプリンター開発のPolyuseが約7億円調達

表紙

ポリウスの3Dプリンターを活用し建築した倉庫と、共同代表の大岡航さん(左)と岩本卓也さん(右)。

撮影:三ツ村崇志

建設用3Dプリンターを開発している2019年創業のスタートアップ・Polyuse(以下、ポリウス)が2月15日、ユニバーサルマテリアルズインキュベーターやSBIインベストメントなどを引受先とした第三者割当増資により、7.1億円の資金調達を実施したことを発表した。

ポリウスは、3Dプリンターのハードそのものはもちろん、“インク”に相当する「材料」の開発や、プリンターを制御するソフトウェアまで、3Dプリンターに関する全工程を自社で開発している。

2022年には国内で初めて行政から許可を得た(建築確認を取得した)建物を施工するなど、全国で30件強の3Dプリンター施工の実績を積んだ、国内随一の建設用3Dプリンターメーカーだ。

建設業界の人手不足や施工期間の短縮といった課題を解決する技術として注目される建設用3Dプリンターは、日本にどう根ざしていくのか。共同代表を務める岩本卓也さんと大岡航さんに話を聞いた。

2023年は「ビジネスモデルの確立」を

ポリウスの共同代表の二人。

ポリウスの共同代表を務める、大岡航さん(左)と岩本卓也さん(右)。

撮影:三ツ村崇志

「業界の方からはよく事業スピードが早いと言われるのですが、描いていたイメージからすると大分遅れている気はします。まだまだスピードを上げなきゃいけないというのが、正直な印象です」(岩本代表)

岩本代表は、施工実績を積み重ねてきた2022年度をこう振り返る。それを踏まえて、2023年のポイントは事業拡大に向けたPMF(プロダクト・マーケット・フィット)だと指摘する。

「マシン(ハードウェア)の販売は今後やろうと思っています。ただ、どういうサービスパッケージになるのかは、まだ落ち着いて(決まって)いません。ビジネスモデルを確立してスケールしていく。2023年はそれを検証する年になると思っています」(岩本代表)

ポリウスでは、パートナー企業を中心に順次3Dプリンターの納品を進めている。

ただ、建設業界のプレーヤーは幅広い。都市部や地方でも求められる要素は違うし、湾岸系の工事が得意な業者もいれば、国交省主体の事業を多く担うような事業者もいる。

こういったさまざまな事例をさらに積み重ねていきながら、岩本代表が語るビジネスモデルの確立を目指すことになる。

大岡代表も、

「今まで積み上げてきた30件強の施工実績は、省人化や工期短縮といった業界に刺さる内容を提供できた数字的根拠だと思っています。その上で、幅広いユースケースに対して3Dプリンターの利用イメージができるような状態をつくりたい

と、コンセプトの証明が終わった次のフェーズとして、可能性を広げていく必要性を指摘する。

「施工現場の新しい当たり前をつくりたい」

ポリウスが開発する、建設用3Dプリンター。

ポリウスが開発する、建設用3Dプリンター。

画像:ポリウス

今回調達した資金の使途ついて、大岡代表は問い合わせが急増している現状に対応するための人材確保や拠点整備のほか、「研究開発への投資」を進めていくと語る。既にさまざまな施工実績を積んできたポリウスではあるが、3Dプリンターの可能性を引き出し切れているわけではないのだ。

研究開発の考え方は2つ。

1つは、印刷速度や使い勝手といった基本スペックの向上。そしてもう1つが、環境配慮性能や印刷時のパターンニング手法を増やすことで、「付加価値」を生み出すための研究開発だ。

3Dプリンターによる施工では、これまでの型枠工事では難しかった「曲面」などの構造を比較的簡単につくれる。

「3Dプリンターはできることの多様性に幅があります。そこが価値を生み出す源泉だと思っているので、追い求めていきたい」(岩本代表)

「今まで、インフラは人間にとって都合良いものとしてつくられていました。3Dプリンターなら、人間以外の生物とも共生できるような(生態系に配慮した)世界観を意匠・構造で叶えられる可能性があるのではと思っています」(大岡代表)

創業してからこれまでは、3Dプリンターの基本能力を証明することに費やしてきたと岩本代表は語る。

その成果として施工実績を積み重ね、建築業界の人手不足などの課題解決に資する技術であることを示すことができた。ただそれだけでは、生み出される構造物は既存の構造物の置き換えにしか過ぎない。

3Dプリンターのポテンシャルを引き出して、これまでの技術では実現できないような構造物を生み出す。そうすれば、建設業界にさらなる付加価値生み出すことが可能になるというわけだ。

「僕たちがやろうとしているのは、ちょっと大袈裟なように聞こえるかもしれないですが、次の施工現場の当たり前をつくることなんです」(大岡代表)

ルールなき3Dプリンター、普及の課題

ポリウスが考える、3Dプリンタを使った部材の違い。

ポリウスが考える3Dプリンターの使い方に応じて部材の違い。いくつかの段階については、施工実績がない。

画像:ポリウス

3Dプリンターを普及させていく上では、技術面、仕組み面で共に課題もある。

3Dプリンターでは、インク代わりの素材(モルタルなど)を線状(フィラメント状)に積み重ねて1つの構造物をつくっていく。

このフィラメントの使い方次第で、建設用3Dプリンターを使って作る部材にはいくつかの「段階」があると考えることができると岩本代表は話す(上の図参照)。

実は、日本では3Dプリンターを想定した法整備がなされておらず、3Dプリンタの活用方法(前述した複数の段階)の中には「既存の法律上、難しいものもある」(岩本代表)という。

実際、2022年2月にポリウスの3Dプリンタを使って行政から建築確認を取得して建物を施工した際には、既存の法律に則った範囲での利用にとどまっている。

2022年2月に倉庫を施工している様子。

2022年2月にポリウスが3Dプリンターでつくった壁を組み合わせて建物をつくっている様子。壁は1ブロックあたり、約1トンもの重さがある。壁のパーツを鉄筋を組み合わせることで建築基準法に適合する設計となっている。

画像:ポリウス

この先、3Dプリンターの活用の幅をさらに広げていこうとするのなら、3Dプリンタを活用してつくられる部材の設計上の違いを整理した上で、満たすべき安全上の基準などを定義していく必要がある。

今は大臣認定を取るにも、安全性を確認するにしても、審査する側にも受ける側にも基準がありません。だから、まずはそこを考えてもらう必要があります」(岩本代表)

ただ、基準づくりは技術の成熟度と表裏一体だ。現状のポリウスの技術力で、岩本代表が提示している3Dプリンターの活用方法を全て実現できているわけではない。これは、今後も継続した研究開発が必要になる理由でもある。

「ただ、それを進めていけば、いわゆる『3Dプリンター住宅』が正式に認められる時代がくると思います」(岩本代表)

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