無料のメールマガジンに登録

平日17時にBusiness Insider Japanのメルマガをお届け。利用規約を確認


【AMERI・黒石奈央子4】目指すは年商100億円。それでも、土日は一切働かないと決めた

AMERI・黒石奈央子

撮影:伊藤圭

エレベーターを降りると広々としたフィッティングルームとアーチ型のフォルムがあちこちに配置されたボタニカルな空間があった。居心地のいいプチホテルのようだ。

このオフィスで60人ほどのスタッフが働く。8年前に1LDKのマンションから始まり、2022年に広尾の現オフィスに移った。創業社長・黒石奈央子(36)も2022年、会社から徒歩5分ほどのマンションに引っ越してきた。なお、オフィスの引っ越しの様子と黒石の新居はYouTubeチャンネルで見ることができる。

だが、オフィスの近くに住みたかったわけではない。偶然、気に入った物件がオフィスに近かった。そもそもつい最近まで自宅にはパソコンもなかったという。

仕組みを作れば土日も休める

オフィスにいた小型犬

オフィス内では黒石の愛犬「COJICOJI」が自由に歩き回っていた。社員からは「副社長」と呼ばれている。

撮影:伊藤圭

「土日は一切働かないことにしています。友達とランチしたり、ふつうの、ごくふつうの休日を過ごしてます」

仕事とプライベートを分ける働き方はなぜ大事なのか。「自分がラクしたいだけなんです」と黒石は笑った。

「楽しいことや海外旅行に行ったりすることも好きだし、ちゃんと自分の時間もほしい。でも、それも仕組みを作ってしまえばできることだし、結果として下の子が育ちます」

それは前職時代の経験からも実感を持って言えるという。上司が不在の環境でVMDの仕事を覚えたあの頃、黒石は自分で考えて試行錯誤するやり方を身につけた。

「だから私はあまりがっつり教え込まないんです。これ、どうやってやるんだろう、から始まって自分で考える習慣を身につけることの方が社員にとって身になります。誰かに教えてもらうんじゃなくて、自分で探しに行く方が絶対にいい。だからけっこう丸投げするんです」

自分で考え、行動する人こそ会社の宝だということか。

社員は社長の振る舞いをちゃんと見てる

Ameri VINTAGE 公式YouTubeチャンネル「NO RULES FOR」では、職場の日常までもが配信されている。この動画では、コーデ組みの様子を見ることができる。

AMERI 公式YouTubeチャンネルより

YouTubeで見るスタッフとの会話からは黒石の圧倒的なリーダーシップが透けて見える。

黒石はどちらかといえば優しさや気遣いを全面に出すタイプではない。それよりも、自分はこう思う、とまず意見を伝えたうえで、スタッフにも「どう思う?」と考えを聞く。

そして最終決定責任者は自分であるということについて、ためらいがない。和やかというよりは、冗談を言い合いながら一緒に攻め進んでいく強い意志のある集団の空気が感じられる。

だが、30代以下のほとんど全員が女性で構成される組織で、舵取り次第ではチームが混乱することもあるだろう。黒石が組織をまとめるために大切にしていることは何だろう。

「スタッフと仲良くできることはもちろん大事ですが、それ以上に、この人について行きたい、と思ってもらえるようなリーダーでないとダメだと思います。私自身が社員に尊敬してもらえるような自分でいないといけないですね。みんな、見ていますから」

起業当時からの初期メンバーは率直な意見をぶつけてくる。

「私がたまに間違えたことを言ってしまうと、あのときのなおさんの言葉、すごい傷つきました、とか、あれはちょっと考えてほしかったです、とか、教えてくれる。そうやって言ってくれるのがありがたい」

8年で組織の構成メンバーも変化している。初期メンバーが若い社員との橋渡し役をしてくれて意思の疎通がいくこともあるらしい。

目標を示さないと突き上げられる

取材の終盤のことだった。実は、と黒石が言う。

AMERI・黒石奈央子

撮影:伊藤圭

「うちのスタッフ、いろんな子がいるんですけどモチベーションはめちゃくちゃ高いんです。それで、最近思ったことがあって」

聞けば、毎年何らかの年間プロジェクトを立ててそれを目標に団結してきたが、2023年はたまたま黒石がプロジェクトを提示しなかった。すると、スタッフの間から「何を目指したらいいか分からない」と不満が飛び出したのだという。

「うちに集まってる子たちは根っからアパレルで上を目指したい子たちなんですよね。その子たちに対して、私が、みんなで一緒に頑張ろうって共有する目標を示さないといけなかったんです。指標をちゃんと示さないとみんなのモチベーションが下がることが分かりました」

黒石のもとには黒石と同じく等身大のファッションを生み出すことにエネルギーをふつふつとさせた女性たちが集まってきているのだろう。2023年はちゃんと目標を作りみんなで足並みをそろえてやっていこうと、スタッフの方から黒石は直言されていた。

「うちのスタッフのモチベーションの高いことと言ったら、なんなら私より高いんですよ。そこを私がちゃんと分かって常に示していかないとダメなんだって思い知りました」

まるで社員から突き上げられるように、黒石は次の10年の目標を設定した。目標を高くすれば負荷がかかるというのに、それを社員の方から社長に要求したというのだ。

そしてAMERIの次なる目標が定まった。2023年、年商100億円を目指すことを決めた。

「100億円とはどういう数字ですか」とストレートに聞いてみた。

「エベレストみたいに高い山だと思います。この壁、どうやって登るんだろうと思います。でも一つひとつ小さな目標を作って、それを実現するための知恵をみんなで出し合って、一つひとつ達成していくだけです」

ファッションがないと人は生きられないわけではない。だが、ファッションは人生を豊かにする。

黒石は真剣な表情で言った。

「ファッションで人生は変わると思う。おしゃれでかわいくありたいという気持ちは誰しも持っているもの、冴えない服装で過ごす日よりもバチっと決めて出かけたときの方が幸福度は何倍も高い。

そんな毎日を数えていくと、人生の幸福度は変わってくると思う。私はそちら側を選んで生きている」

好きなファッションと覚悟をかけ合わせて、黒石は次にどんな果実を見せてくれるだろう。

三宅玲子:熊本県生まれ。「人物と世の中」をテーマに取材。2009〜14年北京在住。個人サイト

Popular

あわせて読みたい

BUSINESS INSIDER JAPAN PRESS RELEASE - 取材の依頼などはこちらから送付して下さい

広告のお問い合わせ・媒体資料のお申し込み