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なぜ住民と行政の対話は進まないの? Z世代起業家と考える「DX×民主主義」の可能性

栗本さんと武井さん

BEYOND MILLENNIALS 2023受賞者、リキタス代表取締役CEOの栗本拓幸さん(左)と、ゲストの社会活動家/社会システムデザイナーの武井浩三さん(右)。

撮影:伊藤圭

1月26日、27日に行われたBusiness Insider Japan主催のアワードイベント「BEYOND MILLENNIALS (ビヨンド・ミレニアルズ)2023」。

「Z世代起業家と考える、これからの民主主義とDX」と題したセッションでは、自治体のDXに取り組む「Liquitous(リキタス)」代表取締役CEOの栗本拓幸さんと、自律分散型組織(DAO)の日本における第一人者であり、新しい民主主義を追求する社会活動家/社会システムデザイナーの武井浩三さんが登壇。

リキタスの事業の意義や民主主義の可能性を考えました。

行政と住民をつなぐプラットフォーム「Liqlid」

──リキタスでは、「じっくり話して、しっかり決める」がコンセプトの、対話・熟議に基づく行政と住民の合意形成プラットフォーム「Liqlid(リクリッド)」を手がけられています。事業の背景を教えてください。

栗本拓幸さん(以下、栗本):日本ではコロナ禍も相まって、行政のデジタル化が進んでいます。

単に既存の制度や仕組みをデジタルに移行するのではなく、既存の仕組みを補完する、デジタルを使った新しい民主主義の仕組みをつくりたいと考えているのが、私たちの根本的な発想です。

例えば、これまでの政策形成のプロセスは政策化・予算化された後に、パブリックコメントとして市民から意見を集めるというものでしたが、うまく機能してきませんでした。

高齢化や人口減少といった日本全体の課題、そしてさまざまな地域課題がある中で、一部の自治体を除いてはなかなか次の新しい一歩を踏み出せていない自治体が多いことも事実です。

その原因は、住民と行政の間のコミュニケーションにあると考えています。 そこでリキタスでは、より早い段階から行政と市民が一緒に政策をつくる仕組みとして、オンラインの市民参加型合意形成プラットフォーム「Liqlid」を開発しています。

栗本拓幸さん

リキタス代表取締役CEOの栗本拓幸さん。

撮影:伊藤圭

—— 実際にはどのように使われているのですか?

栗本:「Liqlid」では、市民が設定したテーマに対して自由にアイデアを出し、ブレインストーミングができます。また、行政の出したアイデアを元にプロジェクトを立ち上げ、施策のたたき台を設定できます。

また、アイデアをマップ上にプロットしたり、分析できる機能などもあります。 現在は、「Liqlid」を使ってさまざまな自治体と新しい取り組みを始めているところです。

例えば、高知県の日高村。高齢化率40%以上の村ですが、ここでは、高齢者が使う健康アプリを開発する際、「Liqlid」のクアドラティック投票(自分の関心に応じて重み付けした票を複数の選択肢に入れることが可能な仕組み)を使いました。

——高齢者の方が、実際に「Liqlid」を使いこなしているということですよね。

栗本:はい。自身のスマホから投票し、自分たちが使うアプリの要件定義に参加しました。チャレンジングな取り組みだったと思います。

ほかに、神奈川県鎌倉市では「Liqlid」を使った意見集め(オンライン)と対面(オフライン)でのワークショップを組み合わせた取り組みを行ったり、民間企業が進めるプロジェクトに使っていただいたりした事例もあります。

「チーム用賀」を通して気づいた課題

社会活動家/社会システムデザイナーの武井浩三さん

撮影:伊藤圭

──武井さんは街づくりやコミュニティ活性化の活動もされています。どのような取り組みをしていますか?

武井浩三さん(以下、武井):街づくりは人間関係で成り立っています。街に対する満足度と、街における知り合いの数が正比例するというデータもあります。

しかし、現在はライフスタイルの変化、核家族化などで人間関係の形成が難しくなっています。

不動産開発も小規模でつくるほうが収益性が上がるため、人間関係を切ることでGDPを上げてきたというのが、これまでの市場経済でした。

僕はそこに課題を感じ、どうすれば老若男女が立場を問わず、人がつながることができるかを考え、やはりインターネットが最も効率的だと思いました。

僕が住んでいる東京・世田谷区の用賀で、オンラインコミュニティ「チーム用賀」を4年ほど前に立ち上げました。メンバーは、行政職員、区議会委員、教員、学生などさまざまで、今は1900人ほど。行政が何か新しいことを始めるとき、まず僕らに相談が来るようになりました。

活動を通して感じたのは、僕らも行政に伝えたいことがありますが、その一方で行政も市民とつながりたくてもコミュニケーションチャネルがなく、声を聞くのが難しかった、ということでした。

使いやすいツールはないかと考えていたところで、栗本君が「Liqlid」を作り始めて、「これだ!」と思ったんですよ。

「どんどん仕組みが良くなっている」

栗本さんと武井さん

栗本さんが熱量を持って話す様子を、武井さんが期待の眼差しで見つめる。

撮影:伊藤圭

——各自治体で「Liqlid」を導入する際、大変だったことは?

栗本:自治体の皆さんにとっては、今までやらなくてよかったことをやるわけなので、Liqlidの導入自体が挑戦にもなり得ると思います。ただ、チャレンジングなことだとしても、この仕組みこそが自治体にとって重要だと判断していただいている印象はあります。

——導入後、自治体や住民の方に変化は見られましたか?

栗本:自治体でのワークショップに参加した方から「どんどん仕組みが良くなっている」「いろいろなことが見えるようになってきた」という言葉をよくいただきます。

高知県日高村のアプリもそうですが、さまざまな自治体で、「Liqlid」を使って決めたことが実際に形になるフェーズに入りつつあります。

市民が声を上げ、対話を通して決めたものが、今後はより一層形になって見えてくる機会が増えると思います。

人口が減ると、物事の決め方も変わる

撮影:伊藤圭

——企業の意思決定方法についても伺いたいと思います。行政に特化した「Liqlid」そのものを企業に導入する場面はないとしても、こういった意思決定の方法の変化は企業内でも起きると思いますか?

武井:加速度的に進むと考えています。「Liqlid」に限らず、「Discord」や「Slack」などのチャットツールの活用でも意思決定の仕方は大きく変わります。

従来の意思決定は、選挙であれば間接民主主義であり、企業では株主が取締役を決め、選ばれた人たちのガバナンス(統治)に従うという関係でした。つまり、“決める人を決めていた”んですよね。

しかし、インターネットを使えば「Liqlid」のように対話をしながら決められます。決める人を決めなくても良くなりました。

熟議民主主義(Deliberative democracy)と呼びますが、正解を導くことより、プロセスを一緒につくることが重要で、それができるのならツールは何であっても問われないと思います。

栗本:熟議民主主義は、コストがかかるからできないと言われてきましたが、デジタルツールがあればできる。今後はこれまでのような「できない」という風潮に変化が起きる可能性は十分にあると思います。

武井:そうですね。これはコミュニケーションツールを使えば使うほど、変化は起きていくと思っています。例えるなら、僕はLINEグループみたいだと考えます。

友達同士のLINEグループで、「今日の夜暇だな、誰かと飲みに行きたいな」となったとき、「今日空いてる?」「どこで飲む?」「今日20時なら行けるよ」などのやりとりがありますよね。これは、飲み会の開催そのものはもとから決まっていたことじゃない。参加したい人、共感した人が集まってきて、人数が集まったからじゃあ行こうぜ、みたいな感じで決まっていきます。

従来の、電話を始めとしたアナログのコミュニケーションツールでは、「1対1」「1対n」のコミュニケーションしかとれなかったためこれができず、先に決めておかないと情報を流せなかったんです。

コミュニケーションツールが進化し、シンギュラリティ(特異点)は超えたという感覚があり、その意味で物事の決め方は今後加速度的に変化すると考えています。

—— 今後取り組みたいことについて、最後にメッセージをお願いします。

栗本:今回の受賞は各自治体が新たなチャレンジに踏み出し、その結果各自治体職員の皆さんと一緒にいただけた賞だと思っています。これからもより多くの自治体とご一緒できればありがたいですし、より多くの市民を巻き込んで、力強く取り組みを進めたいと思います。

武井:僕が不動産事業にも長く関わってきて思うことは、人口動態は社会システムに大きく影響するということ。人口が減ると物事の決め方も変わります

従来の社会システムは人口増加が前提の仕組みでしたが、人口減少の中ではそれが機能しなくなるのは目に見えています。インターネットのような新しく、可能性があり、コストも安いものがあれば、それを使わない理由はありません。

民主主義のDX化が進み広がることを心から願いますし、栗本さんとリキタスの取り組みを応援しています。

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