SNSなどでChatGPT等の活用例が日々投稿されているが、業務利用について企業側はどう考えているのだろうか。
撮影:小林優多郎
世界中の注目を集める、対話型・生成系AIの「ChatGPT」。
「プログラミングしてもらった」「長文ドキュメントを要約してもらった」「メールの返答例をつくってもらった」など、さまざまな活用例の投稿がSNSに溢れている。
ChatGPTが人類の生産性向上に大きな可能性を秘めたツールであることに異論はないが、一方でアマゾンやマイクロソフトのように従業員の使用に対し警鐘を鳴らす企業もある。
日本のIT企業は、どうだろうか? 国内のIT・デジタル企業14社にアンケートを実施した。
インターネットサービス業
- DMM.com
- GMOインターネットグループ
- LINE(事業会社、ホールディングスのZHDとは別)
- MIXI(ミクシィ)
- note
- メルカリ
- ヤフー(事業会社、ホールディングスのZHDとは別)
- 楽天
- リクルート(事業会社、ホールディングスのリクルートHDとは別)
携帯通信業
- NTTドコモ
- KDDI
- ソフトバンク
製造業
- パナソニック
- 日立製作所
各社に、下記3つの質問を送った。
- ChatGPTを業務で活用しているか。
- ChatGPTを業務で使用する場合、ガイドラインが存在するか(ある場合はその概要)。
- 業務で使用しているChatGPT以外の生成系AIはあるか。
業務で既に活用しているのは14社中1社のみ
2023年2月15日までの回答をまとめたもの。
作成:Business Insider Japan
まず、業務への活用の有無だが、noteは積極的だった。会社で主催するイベントや配信するメルマガのタイトル付け、企画構成、プレスリリースの作成などに活用しているという。
対照的に、ChatGPTの使用を「禁止」する企業もあった。NTTドコモだ。ChatGPTをはじめとした外部のAIサービスの利用を「認めていない」という。
「弊社では現時点で『ChatGPT』をはじめとして、第三者提供のAI系サービスの利用は認められておりません」(NTTドコモ 広報)
NTTドコモは記事公開後、改めて「ただし、今後社内で利用申請があった場合には活用を検討していく」とコメントした。
残りの企業は「活用例はない」「検討している」などとする。
「検討中」だったのが楽天とパナソニック、リクルートの3社だ。リクルートは「回答は差し控える」としつつも、以下のようにコメント。
「ChatGPTに限らず世の中で公開されているAIツール・ライブラリ等については常に注目しており、活用を検討している」(リクルート広報)
一方、ヤフー、LINE、ミクシィ、DMM.com、ソフトバンク、KDDI、メルカリ、GMOの8社は「活用していない」もしくは「正式には活用していない」とする。その理由として、ヤフーは以下のように回答している。
「積極的な議論を行っているが、情報管理や著作権等の観点でクリアしなければいけない点が多いため、現時点で業務におけるツールとしてChatGPTを含めた生成系AIの活用は行っていない」(ヤフー 広報)
なお、日立製作所は「業務上使用している個別のアプリケーション・サービスに関わるお問合せには回答を控えさせていただいております」(同社広報)と回答を差し控えた。
ガイドラインは外部クラウドの利用規定などを適用
shutterstock / CHUAN CHUAN
では、ChatGPTについて、各社はどのようなガイドラインを設け、何に気をつけているのだろうか。
今回アンケートを実施した14社の中では、ChatGPTなどの生成系AIに限定した明確なガイドラインを設けている会社はなかった。
ただし、ソフトバンク、LINE、ヤフー、リクルート、KDDIは、外部のクラウドサービスなどに関する利用規定の適用やセキュリティーチェックを実施するとしている。
「セキュリティー上の観点から、クラウドサービス全般の業務利用を規程するガイドラインを設けています。従来からこのガイドラインを運用し、サービスや業務に有効と考えられるサービスは、セキュリティーなどの観点を加味しながら、随時導入の検討を行っています」(ソフトバンク 広報)
「(生成系AIを含む)『クラウドサービスの利用に関するガイドライン』を設けています。また機密情報の扱いに関する厳格なルール等を定めているほか、社員の利用に問題行動がないかをセキュリティーシステムでチェックしています」(LINE 広報)
「生成系AIに限らず、パブリッククラウドを利用する際には、社外秘以上の情報を入力しないなどと言ったガイドラインを設け、全社員に周知を行っています。加えて、社員の利用状況をセキュリティシステムにて把握できるようにしています」(ヤフー 広報)
「ChatGPTに限らず、外部が提供するOSSやライブラリ、APIといったものをプロダクト等に導入する際は、一定のセキュリティレビューを通すようにしています」(リクルート広報)
「ChatGPTを含め外部サービスを業務で利用する際には社内規定に従って申請・承認等の対応が必要です」(KDDI 広報)
「情報セキュリティに関するガイドラインが適用されます」(GMO 広報)
shutterstock / shigemi okano
ただし、GMOは仮に実際の業務に活用する場合は「新しいテクノロジーでもあるので、従来のルールでカバー可能か確認すべきだと考えます」と意見を述べている。
なお、活用に積極的な姿勢を見せていたnoteは、ガイドラインはないものの「機密情報やプライバシー情報は入力しないよう注意喚起している」(深津貴之 note CXO)としている。
そのほか、「現在は(ガイドラインを)設けていない」と回答するに留めたのは、DMM.com、パナソニック、ミクシィの3社。
メルカリは「現時点で特段ガイドラインとして禁止しているわけではない」(同社広報)と回答。
日立製作所は前設問と同様の回答だった。
LINEとリクルートは業務に関わる独自技術の活用を進める
最後に、「ChatGPT以外の生成系AI」を業務に活用している企業はあるのか。
基本的には「特に現時点ではない」「公開できない」などと回答。
ミクシィとGMOは「キャラ画像の自動生成などで研究開発」(ミクシィ)、「最新の生成系AIは研究段階」(GMO)と研究段階として注目しているとした。
一方、LINE、リクルートは以下のように姿勢は違えど、他社と比べるとより具体的な形でAIや機械学習の活用に積極的な態度を示した。
LINE「NAVERと開発を進めている」
LINEとNAVERが共同で開発する「HyperCLOVA」。
出典:LINE
「当社はNAVER社と共同で、大規模汎用言語モデル(生成系AI)『HyperCLOVA』の開発を進めており、実務での活用も検討しています。
なお、提供実績はこれからという段階ですが、既に対話・要約・文章生成といった要素を中心にタスク実行することが可能です。 日本語に特化した生成系AIとして、日本におけるビジネスや生活に適した形での提供を目指しています」(LINE 広報)
リクルート「業務導入済の機械学習API群を一般公開中」
リクルートは独自の「A3RT」のAPIを一般公開している。
出典:リクルート
「生成系に限らず、AIについては弊社で独自に研究開発を進めており、例えば数年前より『A3RT』という機械学習APIの一般公開もしております。前述の通り、実際に弊社のプロダクトや業務に導入もしております」(リクルート 広報)