アメリカのテレビドラマのキャラクター「テッド・ラッソ」は、究極の共感型の管理職だ。
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- 共感力のある管理職は、従業員の仕事への満足度を高め、忠誠心を培うという研究結果がある。
- しかし、最近の研究では、管理職自身が燃え尽き、疲弊していることが指摘されている。
- Insiderは、管理職が従業員と関わるためのアドバイスについて、専門家に聞いた。
アメリカでは「人は仕事を辞めるのではなく、上司から離れていくのだ」という言葉が人事部の決まり文句のようになっている。ひどい上司から逃れるように仕事を辞めたことのある人なら知っているように、これにはある種の真実が含まれている。
さまざまな調査によって、良い管理職と悪い管理職を分ける性格上の特性は「共感力」であることが分かっている。実際、Ernst & Young(EY)が1000人以上のアメリカ人労働者を対象に実施した2021年の調査によると、90%近くが共感できる管理職がいることで仕事の満足度や生産性が高まり、忠誠心が培われると回答した。また、職場や私生活での苦労に管理職が共感してくれなかったために仕事を辞めたことがあると回答したのは50%以上だった。
しかし、労働者にとっては残念なことに、共感してくれる管理職は稀な存在であるという調査結果がある。ガートナー(Gartner)が2022年初めに約3400人の労働者を対象に実施した調査によると、自分のリーダーが「ヒューマン・リーダー」、つまり信頼性、適応性、共感を示すリーダーであると答えたのはわずか29%だった。
それは、管理職自身が疲労とストレスを抱えているからかもしれない。従業員エンゲージメントソフトウェアを作っているTiny Pulseの産業組織心理学者、エローラ・ボイルズ(Elora Voyles)は「アメリカの管理職は、異常なほどの『燃え尽き』を感じている」とInsiderに語っている。
「重い仕事量に加え、管理職は感情的に困難な時期の従業員をサポートする重要な役割を担っており、大きな負担を抱えているのだ」
Future Forumが2022年に発表したレポートによると、中間管理職は他のどの役職よりもストレスを感じているという。
「静かな退職」であろうとなかろうと、前例のない速さで人々が仕事を辞め、従業員のストレスレベルが急上昇し、アメリカ人の仕事に対する考え方が変化している現在、これらの調査結果は、組織が従業員を維持するにあたって重要な意味を持つ。
「自分は大切にされていると感じられるか? 上司は私がしていることを理解してくれているのか? 会社への帰属意識や会社の目標への共感はあるか? と、みんなが自分自身に問いかけている」と、EYのコンサルティンググループのリーダーであるスティーブ・ペイン(Steve Payne)は言う。そして、これらの質問に対する答えがノーであった場合、「他の場所に生えている草が青々としているように見え始める」と彼は続けた。
マネジメントの断絶
「管理職は、従業員が評価され、理解されていると感じられる環境を作り、言行不一致を解消する必要がある 」とペインは言う。
EY
2020年に新型コロナのパンデミックが始まった際、雇用主は従業員が背負う多くの負担や課題に同情的だったとペインは言う。しかし、パンデミックが長引いたとはいえ、世界はある意味、正常に戻ってきた。そして、多くの雇用主は、従業員のストレスにほとんど慣れてしまった。
さらに、メンタルヘルスのための手当の充実、賃金の引き上げ、燃え尽き症候群を防ぐためのリモートワークの推進など、労働者を支援するための組織の動きは、不確かな経済状況の中で雇用者が出費を抑えるようになり、道半ばになってしまっている。
「個人レベルでは、上司が自分の状況のことを気にかけてくれているという実感が持てずにいるのだ」とペインは言う。
このことは、労働者が一斉に仕事を辞める状況が続いている理由を説明するのに役立つかもしれない。アメリカ労働統計局の最近のデータによると、退職率は2022年過去最高を記録した後、いくらか低下しているものの、依然としてパンデミック前の数値を上回っている。つまり 景気後退が懸念されているのに、アメリカ人はまだ職場に腰を落ち着けたわけではないのだ。
こうでなければいけないということはない。「管理職は、従業員が評価され、理解されていると感じられる環境を作り、言行不一致を解消する必要がある」とペインは述べている。しかし、管理職自身が疲弊している場合は、より大きな視点で解決する必要があるだろう。
共感できる考え方を身につける
カナダのクイーンズ大学スミス校でリーダーシップを専門とする、デイン・ジェンセン(Dane Jensen)によると、最高の管理職とは、従業員を単に仕事をさせる道具としてではなく、家族や責任を持ち、仕事以外でも充実した生活を営む人間として見ている人々だという。
では、なぜ多くの現場の管理職がいまだにそうできないのだろうか。それにはいくつかの理由があるが、多くの場合は「共感疲労」に集約されると、ニューヘイブン大学の産業・組織心理学教授であるモー・ケイヤー(Mo Cayer)は述べている。
ケイヤーの考えでは、この問題は組織的なものだ。幸いなことに、膨大な研究によって、共感的行動は学習可能であることが明らかになっており、組織はリーダーシップのトレーニングと開発に投資すべきだと考えられる。
大局的な取り組みをより身近なものにするために、問題を自分自身のこととして考え、自分が想定していた以上の共感力を育む方法を学ぶことが大切だとケイヤーはアドバイスしている。共感力を養うには、他人に対してだけでなく、自分自身に対しても優しさを示す必要がある。そのためにはほとんどの人が与えられた状況下でベストを尽くしているということを認識しなくてはならない。
燃え尽きようとしている管理職は、上司に助けが必要だと訴えるといい。それがチームのためにもなる。
共感力を育むためのトレーニングは「まず自分の経験を振り返り、思いやりのある扱いを受けなかった時のことを思い出すことから始まる」とケイヤーは言う。
「それには、心の奥深くまで入り込む必要がある」