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サンフランシスコのツイッター(Twitter)本社で今も働いている一部のテスラ(Tesla)社員の間では、こんな言葉がたびたび飛び交っている——「2018年よりひどい」。
イーロン・マスク(Elon Musk)も、自身のキャリアにおいて2018年は「耐え難い」「最も困難でつらい」時期だったと何度も語っている。
当時、破産寸前だったテスラは生産数を増やそうと悪戦苦闘していた。マスクがテスラの非上場化についてツイートしたことで、証券取引委員会による調査と裁判が始まったのもこの年だ。裁判は2023年になってようやく結審した。
「これほどひどいマスクは見たことがない」
マスクが2022年10月末に440億ドル(当時のレートで約6兆4000億円)を支払って買収したツイッターだが、同社の現在の状況や雰囲気は難局にあった時期のテスラを彷彿とさせると、匿名を条件にInsiderの取材に応じたテスラの事情に詳しい関係者3人は語る。
そのうちの一人は、次のように話す。
「当時テスラでマスクと働いていた人たちも、これほどひどい状態の彼は見たことがないと言っています。彼は明らかにストレスを抱えています」
だがツイッター社内では、マスクの後任となる新CEOについての話は「まったく出ていない」という。マスクは2月15日、ドバイで開催された世界政府サミットにリモート参加したが、そこでは「今年末にかけてが、私に代わる経営者を探すいいタイミングになるはずだ」と述べていた。
2018年当時のテスラにおけるマスクと今のツイッターにおけるマスクには、いくつかの類似点がある。サンフランシスコのツイッターオフィスに寝泊まりすることが多いこと。破産の可能性をほのめかしたこと。そして、極めて長時間かつ不規則に働いているようであり、ツイッターに残りたい者は同じようにしろと要求していること。
関係者によると、同社のエンジニアの多くは常に週80時間働き、徹夜も頻繁にしているという。ツイッターの機能を維持し、マスクの要求に応えるためだ。マスクはすぐ怒り、すぐ社員を解雇する。こうしたことはすでによく知られたマスクの特性だ。彼はツイッターのオーナーとして、この3カ月間がいかに苦痛に満ちたものであったかをツイートしている。
一方、2018年当時とは違う点もある。忠誠に対する強迫観念だ。マスクは、仕事量が足りないとみなした社員や、彼の要求に疑問を呈した社員を「怒りを理由に解雇」することで知られている。
ツイッターでは、政治的、あるいは個人的な異論の気配をほんのわずかでも見せた社員は解雇されている(あくまで内部調査に基づいたものだが)。ニュースレターのプラットフォーマー(Platformer)が報じたところでは、最近もプリンシパルエンジニアがそのようなかたちで解雇されたという。
現在は社内Slackチャンネルでの活動が制限されているため、ツイッターやその他のソーシャルメディアでの社員の振る舞いがチェックされ、「不正行為」があれば非難され手当なしで解雇される口実になっていると、事情に詳しい関係者は話す。
受け答えをしくじると解雇される
マスクの掲げるツイッター社員のモットーは「批判的であれ、優秀であれ、忠実であれ」だと言われている。それに該当しない社員は不要、というわけだ。この基準を満たさないと社員として残れないことから、ツイッターでは2022年末の時点で約600人いたエンジニアは現在約500人にまで減った。なお、マスクが買収する以前は数千人規模だった。
プリンシパルエンジニア(通常は勤続年数の長い者がこのポジションに就く)の数は、少なくとも30名いたのがたった1名にまで減っている。現在の全社員数は約2000人とみられるが、オフィスの閉鎖や断続的なレイオフが続いているため、さらに減る可能性が高い。
ツイッターは、不具合が多く信頼できないサイトになってしまった。先日も大きな障害が発生し、ツイッターの主要機能が数時間にわたって使えなくなった。
マスクは、ツイッターのオフィスのフロアを歩きながら、社員に無作為に今何をしているか尋ねることがよくある。これも一種のテストだ。「解雇されないような答え方を考えなければならないんだ」と、ある関係者は言う。
ある社員などは間一髪だった。プロダクトの変更に関する最近の会議で、提案された変更の進捗をマスクに尋ねられた。プロジェクトマネジャーが答え始めたところ、怒ったマスクに「なぜ君が話している?」と遮られた。マスクはその後、プロジェクトマネジャー全員に対して会議での発言を禁止した。
「今日が最後かもしれないと思いながら毎日仕事に行かなければならないし、それでもいいんだと思わなければならない」と関係者の一人は話し、あるツイッター社員は「彼は完全にイカれてる」と言う。
振り回される社員たち
関係者2人によると、ツイッターでのマスクの精神状態は2022年末にかけて悪化し始めたようだという。プラットフォームに関する問題、投資家からの苦情、コストの問題などが積み重なっていた時期だ。
マスクは「経済状況の悪化について延々と気にする」ようになり、会議や会話の中で頻繁にそのことを持ち出すようになったと関係者の一人は言う。
数週間前の企画会議で、マスクはツイッターのコスト削減策をいくつか提案したが、それを聞いた参加者の中には「正気の沙汰でない」と思った人もいたと、別の関係者は語る。ツイッター全体をサブスク化する、ユーザー名を販売する、ツイッターが最も普及しているアメリカと日本のみにサービスを限定する、といった提案を行ったという。
こうした提案はいずれも実行に移されてはいないが、思い切った削減が行われたものも多数ある。いくつかの機能は廃止され、クリスマスに大きなデータセンターが突然閉鎖されたりもした。マスクのもとエンジニアリング業務全般を率いていたベーナム・レザイ(Behnam Rezaei)が1月初旬に辞職したのは、そのデータセンター閉鎖の一件がきっかけだったと、ある関係者は言う。
ツイッターに残っている社員は、急な変更がありうることも覚悟している。マスクは買収直後、ツイッターにクリエイターツールを増やし、動画に注力するよう要求した。社員は慌ててその設定を行い、実装のためのチームを立ち上げたが、今このツールは動いていないと関係者の一人は言う。
これに代わって最近のマスクは、表面上はツイッターの利益になるような変更を要求している。例えば、現在ツイッター上で見られるエンゲージメント指標やビューカウンターだ。この機能が実装されたのは、エンゲージメント増加を可視化することで広告料金を上げられるというのが理由の一つだと言われている。
マスクは常に自分自身のアカウントをテストケースとして使用しており、プラットフォーマーが伝えるところ、最近では自身のツイートの閲覧数を人為的に増やすようエンジニアに強要までしたという。
ただし、マスクの強迫観念はもっと単純なものなのかもしれない。ある社員はこう話す。
「彼はとにかく、話題の的になりたいんですよ」