SUN METALON CEO 西岡和彦さん(左)と、Shiftall 代表取締役 CEO 岩佐琢磨さん(右)。
撮影:伊藤圭
1月26日、27日に行われたBusiness Insider Japan主催のアワードイベント「BEYOND MILLENNIALS(ビヨンド・ミレニアルズ) 2023」。
2日目のセッションに、SUN METALON(サンメタロン) CEOの西岡和彦さんが登場。また、アドバイザリーボードで西岡さんを推した1人でもあるShiftall(シフトール)代表の岩佐琢磨さんも登壇し、火星の開拓もできる「日本発・金属3Dプリンター」SUN METALONの実力に迫った。
「早くて安い」3Dプリンター
西岡さんは、日本製鉄でエンジニアとして約11年勤務した後、新原理に基づく金属3Dプリント技術を着想。キャンプ場などでのプライベート検証実験を経て、2021年にSUN METALONを創業した。
革新的な3Dプリンター技術とその原料製造システムを提供し、世界・宇宙のどこにおいても、地場の鉱石さえあれば金属パーツ・製品を生み出せる環境づくりを目指している。
3Dプリントといえば、“2015、16年くらいに起こったメイカームーブメントで一世を風靡した技術”という印象を持つ人が多いだろう。ところが岩佐さんによると、3Dプリントで世界的に有名な企業は海外プレイヤーが中心で、日本企業の存在感はほとんどないという。
この難しい業界で、「革新的に速く、安い」(西岡さん)金属3Dプリンターに取り組み、注目を集めているのがSUN METALONだ。
20万円かかっていたことを、1万円に
撮影:伊藤圭
3Dプリンターの世界で、樹脂プリンターはそれなりに普及したが、金属プリンターは「なかなか普及しなかった」(西岡さん)。その最大の理由が高額だということ。
例えば、手の平に乗るくらいのパーツは、通常の製法で作れば5000円程度でつくれるところ、金属3Dプリントでは20万円ほどにもなるという。あまりに高額なため、金属3Dプリントは医療や軍事、航空などハイエンドの業界でしか使われてこなかった。
しかし、SUN METALONはコストを90%削減。20万円ほどかかるパーツを1万円ほどで作れるようにした。
「金属3Dプリントの裾野が一気に広がって、身近にある金属製品にも使えるようになる。金属3Dプリント業界がもう一度盛り上がる技術です」(西岡さん)
「開発効率が一気に上がる」
SUN METALONの技術で安く製造できる理由は、1つにプリントのスピードにある。一般的に、金属3Dプリンターは金属の粉を加熱して固める方法で造形する。
既存の金属3Dプリンターは点や線を重ねて固めていく一方、SUN METALONは面で一気に加熱するので速い。点で加熱するタイプと比べて約500倍速く造形できるという。
スピードはコストにも直結する。1日に作れる数が増えることで、高額な装置代のインパクトも薄まる。
通常、1つ20万円ほどの3Dプリントパーツのうち約8割は装置代だという。装置は2億円、しかも1日1個程度しかつくれない。 10年間毎日プリンターを動かしても数千個しかつくれないことになり、装置代を回収しようとすると1個あたり10万円以上の装置代が載ってきてしまうという構造だった。
撮影:伊藤圭
SUN METALONのプリンターは500倍速くつくることができ、金属3Dプリンター業界にとって、最大のネックであるコストをブレイクスルーする技術になっている。
「これまで装置代として数十万円かかっていたものが、500分の1の数百円になる。トータルコストが10分の1に下がり、20万円だったパーツが1万円で作れるようになります」(西岡さん)
「金属加工の領域で、新しい部品をどんどん作っていけるようになる。開発効率が一気に上がる」と岩佐さんもインパクトの大きさを表現する。
現在はプロトタイプ開発で使われている金属3Dプリントだが、製品として使われる可能性もあると期待を寄せる。それが実現すれば、例えば部品を取り寄せることができないクラシックカーやバイクの部品をつくり、必要な人に届けることもできる。
「3Dプリントであれば非常に複雑な形状も作れる。
交換用パーツだけではなくカスタムパーツなども含めて、金属3Dプリント品が商品として出ていく未来は見えています」(岩佐さん)
実製品としても稼働スタート。マーケットの反応は?
撮影:伊藤圭
SUN METALONの3Dプリンターは、基本的に金属であれば何でも対応できることも特長の1つだ。
最も使われているのは鉄だが、顧客の要望に応じて鋼、銅、チタン、超硬合金など約10種類の金属にトライし、実績を積み上げてきた。2022年末には初めて製品を納入。実製品として稼働を始めた。
現在は、日本の自動車、電機、工具メーカーなど幅広いジャンルの企業から問い合わせをもらっているそうだ。
SUN METALONの特徴が生きるマーケットとして西岡さんが重視している領域は、補修部品の製造だ。
例えば、クラシックカーの部品などは、多少高額でもファンは購入する傾向がある。あるいは、アフリカで日本製の農機具の部品が壊れた場合でも、補修部品が日本から送られてくるのを長い期間待つよりも、現地の金属を使って金属3Dプリンターで部品をつくってしまえるなら、その方がいい。
通常、補修に大きなコストはかけられないが、「ここまで金属3Dプリントのコストが下がるなら考えたい」という声が出てきているという。
ちなみに、金属3Dプリンターでつくる「金型」についても期待が高まっているが、岩佐さんは「まだ先の話」との考え。
とはいえ、非常に手間暇がかかる特殊な形状の金型は、金属3Dプリンターに置き換わっていく可能性がある。また、3Dプリンターで大まかな形をつくり、最終的に切削で仕上げるという作り方はすでに行われている。さらに、金属3Dプリントだと、金型に必要な冷却配管が自在につくれるというメリットもある。
なお、当初立てた事業計画はほぼ達成の見込みとなったため、起業時から考えていた予定通り、西岡さんは今後米国に移住して事業を行っていくとのことだ。
「この技術はグローバル展開できる技術だと思っているので、2023年からはアメリカに移ってアメリカ本社での活動を立ち上げる予定です。
アメリカとヨーロッパは2大マーケットなので、日本のお客様ともしっかり関係を続けながら、 グローバルな拡販と価値の発揮にも注力していきます」(西岡さん)
アフリカでも火星でも。地場の鉱石さえあれば製品を生み出せる世界へ
撮影:伊藤圭
金属3Dプリントで画期的な技術を開発したSUN METALONだが、実はもう1つ、鉱石から金属を取り出せる技術も持っている。
現在は、金属を取り出す技術と金属3Dプリント技術は分離しているが、この2つがつながると「石ころを放り込んだら、その場でパーツができる世界」になる。それは「絵空事ではなく、本気で僕らは実現できると思っていますし、実現したい」(西岡さん)世界だ。
これが実現すると、金属3Dプリンターと電気を生み出すソーラーパネルがあれば、産業インフラがない場所でも、その日から産業を起こせるようになる。
そうなれば金属資源が乏しいアフリカなどでも「自活する道が一気に広がる」(西岡さん)。これは西岡さんが起業を思い立った「一番根っこの思い」だという。
さらには、人類が火星に行って街を作ることになった場合にも、ロケットで地球から資材が届くのを待つことなく、火星の鉄鉱石(火星は鉄鉱石の含有量が多いため赤く見える)から鉄を取り出し、建物を建てることができるようになる。
しかし、それも西岡さんの頭の中では、夢ではなく実現していくべき“目標”だ。
「まずは今、検討いただいている方々のニーズにしっかり応えて、アメリカでの事業を地に足をつけたものにしたい。目の前のことを着実に一歩ずつやりながら、アフリカや火星での導入も実現していきたい」(西岡さん)
2023年1月頭にラスベガスで開催されたテクノロジー見本市の「CES 2023」を視察した岩佐さんは、かつて3Dプリント関連企業が何十社とブースを構えていたエリアに、今回は4、5社しか出展していないのを見て寂しさを覚えたという。最後にこうエールを送った。
「ぜひSUN METALONの技術で、世界をあっと言わせてほしい。
1回ブームが落ち着いた3Dプリント業界に活を入れて、日本初の技術が世界の3Dプリントマーケットを上昇に転じさせるきっかけになってくれることを期待します」(岩佐さん)