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2023年前半、株式市場は景気後退局面に入ると見られている。多くの投資家は、強固なファンダメンタルズと安定したキャッシュフローを持つ優良銘柄に逃避している。
240億ドル(約3兆2400億円、1ドル=135円換算)の資産を運用するフォントベル・クオリティ・グロース(Vontobel Quality Growth)の国際株式ポートフォリオ・マネジャー、デビッド・ソーカー(David Souccar)とダニエル・クランソン(Daniel Kranson)も、同じ投資哲学に従っている。しかし彼らは、このタイミングにあってもイノベーティブで成長志向の優良株は見つかると考えている。
「質の高い成長とは競争力のある企業に投資することを意味し、利益率の高さ、利益、高い収益予測に表れます」と、Insiderの取材に応じたソーカーは説明する。
「市場をアウトパフォームし、当社が抱える投資家たちに価値を提供するには、市場を大きく上回るスピードで成長できる企業に投資することです」(ソーカー)
地味な企業ほど不況に強いことも
ソーカーとクランソンの投資戦略は、ボトムアップの分析に重点を置きつつマクロ経済の動向も考慮するというものだ。低成長・低金利の環境下での調整局面においては、優良な成長企業にこそ、過去何年も市場を席巻していた破壊的なハイテク株をも凌駕する機会があると彼らは考えているのだ。
投資家たちがファンダメンタルズを重視するなか、最近のグロース株はバリュー株に対して苦戦しているため、これは直感に反するように思えるかもしれない。しかしクランソンは、将来の成長見込みを過大評価しながら投資家に売り込む高飛車な成長株と、派手さはないがその約束を裏づける確かな収益実績を持つ優良な成長株とを区別している。ソーカーも次のように話す。
「私たちは『希望』に投資するわけではありません。私たちが投資する頃には、おそらく株価はもう少し高くなっているでしょう。しかし、それでもいいのです。私たちは、手っ取り早く金持ちになるためのポートフォリオを作っているのではありません。ゆっくりと複利を効かせながら、市場よりも良い結果を出すことが目的です」
ソーカーとクランソンは基本的にセクターにはこだわらないが、エネルギーセクターは石油価格の予測に依存するため避ける傾向にある。地域別に見ると機会のほとんどは現在、先進国市場にあるが、最近では新興国市場、特に中国の経済再開によるエクスポージャーの増加を図っている。
ソーカーとクランソンはシクリカルな動きが少ない企業を中心にポートフォリオを組んでいるため、世界的な景気後退の影響を受けにくく、不況期にもアウトパフォームすることができると彼らは考えている。
これは一方で、2021年のような「バブル市場」においては、彼らのファンドはより積極的な成長グロース銘柄のポートフォリオほどのパフォーマンスを示さないことを意味する。
ソーカーとクランソンが運用するポートフォリオに組み込まれている銘柄のうち、特に注目したい8銘柄を紹介する。
地味な銘柄ほどイノベーティブなことも
ソーカーとクランソンが投資しているような質の高いグロース株は、派手なCEOを擁して大きな投機を行う企業と比べると地味に映ることもある。しかし地味だからといって、おもしろいことをやっていないとは限らない、とソーカーは説明する。
例えば、現在彼らのポートフォリオに組み込まれている銘柄の一つが、イギリスの産業機器レンタル会社であるアシュティード(Ashtead)だ。同社のビジネスモデル自体はそれほどエキサイティングなものではないかもしれない。しかし同社は、さまざまな市場の機器の需要と供給、在庫を把握し、地元の建設会社からのレンタル価格を適切に設定する技術で革命を起こしている。
「その市場において競合他社を凌駕し、イノベーティブであることが重要なのです。その意味では、アシュティードは間違いなく最高です」(クランソン)
もう一つの例としてソーカーが挙げたのがウォルマート(Walmart)だ。同社はサプライチェーン技術を革新し、スーパーマーケットでより良い商品ミックスを提供することに成功したとソーカーは指摘する。
ソーカーとクランソンは、バイオテクノロジー分野に機器を提供するザルトリウス・ステディム・バイオテック(Sartorius Stedim Biotech)のオーナーでもある。
「新薬の需要は不況でも落ちません。顧客はまだ同社の製品を買う必要があるわけですから、同社の成長はこの先も続くでしょう」(ソーカー)
特定の国への投資にはそれなりのリスクが伴うが、ソーカーとクランソンはロレアル(L’Oreal)やディアジオ(Diageo)などの多国籍企業に投資して、そのリスクを軽減しようと考えている。
しかし中国においては、KFCやピザハットなどのブランドを持つファストフード複合企業、ヤム・チャイナ(Yum China)に強気を見せている。
「(コロナ禍の影響で)外食に行けなくなったため今は収益が落ち込んでいますが、経済活動が正常化すれば収益の伸びも加速するでしょう」(ソーカー)
日本企業のキーエンス(Keyence)も、急速に拡大するビジョンオートメーション業界のグローバルリーダーとして、また製造業の生産性向上とEコマースの配送プロセスにおける品質管理の両方を支援することにおいて際立った存在だ。
またソーカーとクランソンは、坑内掘削機の世界的リーダーであるエピロック(Epiroc)も注目銘柄として挙げている。
「地下採掘で鉱石を取り出すためにディーゼルトラックを使う場合、多くのディーゼル燃料を必要とし、汚染、CO2排出の問題が発生します。エピロックは、地下採掘作業をディーゼルから電化に変えているのです」とソーカーは説明し、ESG目標達成や、労働者にとってより安全で健康な環境を提供できる、といった利点があると指摘した。