アップルのティム・クックCEOは、AIをビジネスの中核に据えると発言していたにもかかわらず、ChatGPTなどのいわゆる生成AIを巡る大論争では、不思議なほど沈黙を守っている。
Stephen Lam/Reuters
- マイクロソフトやグーグルといったライバルが競い合う中、アップルはそのAI戦略について沈黙を守っている。
- アップルは、今後のアップル製品にとってAIが大きな部分を占めるということを消費者に納得させない限り、ライバルにかなりの差をつけられてしまうと考えるアナリストもいる。
- アップルのティム・クックCEOは、AI開発と現在進行中のサプライチェーン問題のバランスを取る必要がある。
AIの新たな「軍拡競争」で、大手テック企業はその重大な局面を制しようと躍起になっている。
グーグル(Google)とマイクロソフト(Microsoft)は、それぞれ2023年2月6日と7日に、AIを搭載した競合製品について発表した。他の多くの企業も何らかのAIを搭載した製品やサービスの計画を発表し始めている。OpenAIのChatGPTが大きな話題となったことをきっかけに始まったこの競争は、AIを新たな戦場に変えた。
一方、アップル(Apple)はこの話題に加わっていないことで、かえって注目されている。アマゾン(Amazon)を含むあらゆる同業他社が、いわゆる生成AIの流行にいち早く乗ろうしているようだが、アップルはこの件に関して何も語っていない。
アップルは製品開発にAIを取り入れていることで知られている。iPhoneのカメラ、アップルウォッチの緊急SOS機能、仮想アシスタントの「Siri」などは、ある程度AIが活用されている。アップルのティム・クック(Tim Cook)CEO自身、AIは「我々が提供するすべての製品やサービスに影響を与えるだろう」と以前述べていた。
しかし、ChatGPTがAIでできることへの期待値を押し上げている状況で、アップルは競合他社に追いつけることを示すゆとりがなくなってきているのではないかと、業界アナリストは述べている。変化の激しい市場で、アップルが競争力を保つ能力は危機に瀕していると言うアナリストもいる。
「AIには今後10年で1兆ドルの資金投入が計画されており、大手テックにとって軍拡競争の様相を呈していることから、アップルに選択の余地はない」とWedbushのアナリスト、ダン・アイブス(Dan Ives)はInsiderに語っている。
「マイクロソフトとグーグルの発表によって、アップルのAI戦略の取り組みは加速されるだろう。時間は刻々と過ぎている」
アップルはAIに関して先行者として積極的な動きをしたことはほとんどない
アップルはAI関連の研究開発に約100億ドルを費やしているとアイブスは指摘しており、夏の新製品発表の場で、AI関連の大きな発表があると予想している。
アップルはこれまでAIに関して先行者として積極的な動きをしたことはほとんどなく、消費者が特定の技術を求め始めるまで待つ傾向にあった。
アップルはここ数年、AIに取り組んでいるが、AIを全面に出した製品を発表するのは同社のスタイルではないと、DA Davidsonのアナリスト、トム・フォルテ(Tom Forte)は予測しており、むしろ、バックグラウンドで利用される可能性の方が高いという。
「世界有数の巨大企業の1つであるアップルは、AIに関する何かに取り組んでいるが、ChatGPTのように大きな話題となるものではないだろう。アップルがAIを使うのは、むしろ自社のテクノロジーを強化するときだ」とフォルテは言う。
同時に、アップルにはAIに関して改善すべき点が多いとも彼は指摘する。アップルが先駆けとなって開発した音声アシスタントのSiriは、アマゾンのアレクサやグーグルアシスタントよりもかなり後れを取っていると考えられている。また、アップルウォッチの緊急SOS機能は、AIによって事故や着用者の心音の異常を検知すると緊急通報するようになっているが、誤った通報をすることも多いと言われている。
興味深いAI製品を提供することだけが、アップルが取り組むべき問題ではない。
2022年には中国の製造拠点がCovid-19の規制に対する抗議をきっかけに一時的に閉鎖されたため、アップルはサプライチェーンの問題に直面し、結果的にiPhone 14 Proの出荷が遅れることになった。同社はサプライチェーンの分散化を検討しているが、それには何十年もかかる可能性がある。
結局のところ、アップルは1つのことだけに焦点を絞っていられる状況ではない。AIをますます製品に組み込んでいくことを周知する必要がある一方で、サプライチェーンの問題を解決し、少なくとも1年間は出荷の遅延がないようにしなければならない。つまり、アップルは今、多くのことを抱えているのだ。
アップルには、そのデザインとエコシステムに魅了された消費者がいる。しかし、それだけでは投資家を納得させるには十分ではないかもしれない。アップルは無駄な手間を省いて効率的にAIの活用を検討している姿勢を見せる必要がある。
「投資家としては、むしろ、アップルが既存のテクノロジーを強化するためにAIをさまざまな用途で使用しているところに信頼を感じる。AIのために消費者がアップル製品を購入するというわけではないのだから」とフォルテは述べていた。