東京都の宮坂学副知事。IT企業トップ経験者が行政への「異例の転身」という、ユニークな経歴で知られている。
撮影:Business Insider Japan
東京都が主導するグローバル規模のスタートアップイベント「City-Tech.Tokyo」が2月27日、28日の2日間、東京国際フォーラムで初開催される。
注目のトークセッションでは、スタートアップの苦闘を描いたベストセラー・ビジネス書『ハードシングス』の著者で、アメリカを代表するベンチャーキャピタルの共同創業者ベン・ホロウィッツ氏の基調講演をはじめ、著名スピーカー90名以上が登壇する。
加えて、展示ブースは約400社、現時点で参加登録者は8000人超など、行政主導のイベントとしては異例の盛り上がりだ。
このイベントの旗振り役は、かつてヤフーの経営者でもあった、東京都の宮坂学副知事だ。
Business Insider Japanの取材に応じた宮坂氏が、孫正義氏にも言及しながら「なぜ今、日本にグローバルイベントが必要なのか」を語った。
「日本発のグローバルイベント」がなぜ今、必要なのか
「City-Tech.Tokyo」につながる発端は2022年。東京都のスタートアップ支援政策を取りまとめる「スタートアップ協働戦略」の策定のなかで動き始めた。
議論を進めるなかで、「そもそも日本のスタートアップがグローバルに行きやすい環境を」「逆に海外のスタートアップが日本に来やすい環境を」という議論を通じて、国内外のスタートアップ業界への情報発信をし、スタートアップ、行政、企業、投資家が一同に会する場として「行政が主導するグローバル水準のスタートアップイベント」の構想が本格化した。
当初は、海外の巨大スタートアップイベントを招致するなどの案も検討されたと言うが、
「グローバルブランドを持ってくるのもいいけど、(スタートアップ支援を打ち出すからには)やはり手弁当で自分たちでやった方が良い、という選択肢が出てきた」(宮坂氏)
そこでコンセプトを固め、2022年の春から急ピッチで動き始めてここまで来た。
ただ、世界で注目されるイベントを新たに作り出すことは、そう簡単な話ではない。
取材者の目線でみても日本は今、世界の中でスタートアップや新たなテクノロジー発信地とはみなされていない。
アジアや欧米圏のビジネスパーソンが、日本のイベントに訪日してまで何を得られるのか?
「それはいろんな人に言われるキークエスチョン」だと宮坂氏は言う。
「海外の人からすると、なぜ今、東京に行く必要があるんだろうって(理由を求められるのは)絶対にある。CES(米/1月)とか、サウスバイ(SXSW、米/3月)、VivaTech(仏/6月)とか、(ブランドと目的を)確立しているイベントは、皆さんの手帳(のスケジュール)に入ってる」
毎年1月に開催される巨大テクノロジーイベント「CES」。商談の場でもあり、全世界のメディアが取材する場として、関係者は例年、この日程を頭に入れて動いている。
撮影:Business Insider Japan
その中で、都が打ち出したのは「持続可能な都市の未来を語る」というコンセプトだ。
「都市のサービス品質という意味では、東京は世界で自信を持って良い。それ(都市を軸に語るの)が、東京(のイベント)に行く理由になると思う。他のジャンルでは、シンガポールやニューヨークでいいんじゃないとか言われてしまう」(宮坂氏)
高層ビル群がこれだけ建ち並ぶなかでも地震に強く、国際水準では驚くほど正確な公共交通、上下水道や高速インターネットを始めとする高度なインフラも備え、しかも治安も良いという都市は極めて珍しい…という主張だ。
とはいえ、初開催だけに「(登壇者や企業に)声はかけるけど、集まるのかなって、正直不安はあった」(宮坂氏)。ただ、開催から10日ほど前の取材日の時点で、「蓋を開けてみたら、3分の2(のブース出展者)が海外だった。そこはポジティブなサプライズでした」(同)
関係者によると、ブース出展は2月15日時点で399社が決定、そのうち328社がスタートアップ企業だ。
初回とはいえビジネス界で知られた人物たちが登壇を承諾したのは、少なくともイベントの企画段階では、ユニークさを認められた、ということかもしれない。
90名のスピーカーのなかには、先述のアメリカを代表するVC、アンドリーセン・ホロウィッツ(通称 a16z)の共同創業者ベン・ホロウィッツ氏を筆頭に、国内外で活躍するビジネスパーソン、学者、起業家が多数いる。
「自分のキャリア、孫正義さんのことを考えた」
インタビューに応じる宮坂副知事。
撮影:Business Insider Japan
セッションは基本的に英語スピーチが前提で、基調講演には同時通訳を付ける形で開かれる。
グローバルイベントだから英語スピーチは当然である一方、現実問題として、英語がハードルとなって日本の登壇陣の選択肢が狭まる側面があるのも事実だ。
宮坂氏は、この課題について「自分もあまり英語ができないが」とした上で、自分のキャリア、孫(正義)さんのことを考えたと振り返った。
「孫さんは30代でZiff-Davis※(の買収を)をやってるんですよね。『グローバルにいくぞ』って言って、一気に。
Ziff-Davis(を買収し)に行って、アメリカのインターネットと出会って、ヤフーを始めて、今につながるわけじゃないですか。
僕が30歳のとき、何をやってたかというと当時大阪で働いてて、早く東京に行きたいなと思ってた。
この差だと思うんですよね」
※ソフトバンクは孫正義氏が社長を務めていた1995年11月に、米メディア企業のZiff-Davis Publishingを18億ドルで買収合意している。
「(もちろん)元々のスペックが僕と孫さんでは違い過ぎる」とは言いながらも、視座の高さと、それを得るための情報量、体験機会が課題ではないか、というのが宮坂氏の考えのようだ。
「自分のキャリアを振り返って後悔があるとすると、グローバル(でのビジネス)は自分でやってない。
Yahoo Incとか、グーグルとのディール(取引)とかいくつかはやってましたけど、通訳をつけていましたし。本当の意味で向こう(アメリカのマーケット)で働いたことはない。やっぱり、(海外で戦うという選択肢を若い頃に)『知らなかった』というのは大きい」
自分たちの世代は、地元で勝ち、周辺地域で勝ち、東京で全国制覇してアジア進出へ……と、予選を勝ち抜くような世界観だった。しかし、今はもう「みんな、早いタイミングで『ワールドカップに出る』みたいな感じでやってる」(宮坂氏)。
日本でグローバル規模で認知されるイベントを作り、その場に出て行くことを当たり前にすれば、「自分に何が足りないのかよくわかると思う」(同)。とにかく、世界の潮流を知るための機会をつくる —— IT企業経営での実体験を交えた宮坂氏の話を聞きながら、そんな風に考えていると想像した。
グローバル水準とは何か…登壇陣の多様性
City-Tech.Tokyo公式サイトのスピーカー一覧。学者、起業家、経営者、投資家などさまざまなバックグラウンドと国籍の登壇陣がセッションに立つ。
撮影:Business Insider Japan
国内外から登壇するスピーカーのリストを見て気づくのは、登壇者の国籍やバックグラウンドの多様性とともに、その男女比のあり方だ。
日本のビジネスイベントに見られがちな、「男性一色」になることはあり得ないという考えは、実行委員会側にもあったという。2月16日時点では、女性の登壇陣は小池百合子知事も含めて約30%。これでも、国内イベントでは「女性登壇者が多い方」だ。
ただ、海外の巨大イベントに目を移せば、テクノロジー系イベントであるCES2023でも、数百人の登壇者に対して、女性比率は40%程度だった。
グローバル水準を目指すなら、30%ではまだ十分ではないという指摘はしておかなければいけない。
City-Tech.Tokyoは、都市というテーマを軸に、日本のトップ企業の意思決定層とスタートアップ、そして海外の起業家・投資家が集まる場を目指し、2月27日、28日の2日間、東京国際フォーラムで開催される。
※Business Insider Japanは、「City-Tech.Tokyo」のメディアスポンサーをしています。こちらから登録できるBusiness Insider Japanのメールマガジンでは、BI読者向けに先着100名まで利用できる招待プロモコードを2月20日〜24日の5日間、配布予定です