ユーグレナの2022年12月期の売上高。
画像:2022年12月期通期決算説明および今後の事業展望 資料より
「10年前に申し上げていたことを、10年後にちゃんと実現することで、これからの10年間も信用していただく。これが金融における信用・信頼のベースになると思っております」
永田暁彦CEOは、上場から10年経ち、かねて注力してきたバイオ燃料の商業プラントの建設計画を公表して初めての決算で、これまでの10年間をこう振り返った。
ユーグレナは、微細藻類のユーグレナ(和名:ミドリムシ)や廃食油などから持続可能な航空燃料(SAF)を開発している。
2月17日に発表した通期決算は、売上高が過去最高となる443億9300万円(前年同期比で46%増)、営業損失は34億5600万円で最終損失は26億7200万円だった。なお、調整後EBITDA※は26億4900万円(同77%増)。
※調整後EBITDA:ユーグレナが独自に指標としている、営業利益に助成金収入や株式関連報酬など複数の要素を加味した値。
ユーグレナの2022年12月期通期決算。
画像:2022年12月期通期決算説明および今後の事業展望 資料より
売上高の大幅な増加は、2021年に買収した青汁を中心とした食品加工大手・キューサイの売上高を初めて通期で計上した影響が大きい。つまり、既に始まっている2023年12月期は、この1年ほど大幅な売り上げ増は期待できないということだ。
そのため、2023年12月期の業績予想は、売り上げ予想が450億円と微増。調整後EBITDAも広告投資の拡大や助成金の減少、研究への投資拡大を背景に18億円(2022年12月期比で32%減)としている。
10億ドル規模の商業プラント「30%シェア目指す」
商業プラント建設候補地に隣接する、Pengerang Integrated Complexの様子。
画像:ペトロナス
決算会見では冒頭、永田CEOから「全体の説明の中の約50パーセントをこの点に関するご説明とさせていただきたい」と発言があった。今回のユーグレナ決算の最大の注目は、バイオ燃料事業で進めている商業プラント計画の進捗だ。
ユーグレナは2022年12月に、マレーシア・エネルギー大手Petroliam Nasional Berhad(以下、ペトロナス)、ヨーロッパを拠点とした次世代バイオディーゼル燃料製造メーカーとして知られているイタリアのエネルギー大手Eni(エニ)と共にバイオ燃料製造プラントを建設・運営する計画を発表。
計画では、ペトロナスが保有するマレーシア・ジョホール州にある石油プラントを改造することで、年間約72万5000キロリットル(原料処理能力は65万トン)というアジアで2、3番目の規模の製造能力を持つバイオ燃料プラントを建設する。2023年中に最終的な投資意思決定をした上で、2025年に完成、2026年に本格稼働を目指す。
この商業プラントのプロジェクトの事業規模は推定で10億ドル。ユーグレナはペトロナスらと設立するジョイントベンチャーの約30%のシェアを目指しており、実現すればヘルスケア事業も含めたユーグレナグループ全体の売上高が1000億円を突破する目処も見えてくる。
ミドリムシ由来の原料への期待
ユーグレナは、ミドリムシなどを原料にバイオジェット燃料やバイオディーゼル燃料を製造している。
撮影:今村拓馬
商業プラントで使用する原料は、当面は価格の安い使用済み廃食油や産業系の油を想定している。
永田CEOは、原料調達の目処についても
「プロジェクトにおいて、調達予測は徹底してやってきております。(プラントを)100%稼働させるだけの調達計画が立つことが、ひとつ意思決定の礎になると思います。
アジア圏で言うと、東南アジアは原料調達のメインフィールドに今後よりなっていくことが自明だと思っています。その中で、ペトロナスというマレーシアの国営企業が入ってるということは、我々の強みになってくると考えています」(永田CEO)
と語る。
ただ、世界的なバイオ燃料需要によって、廃食油の価格は上がっていくことが予想されており、将来的にはユーグレナが開発を続けてきたミドリムシ由来の原料(藻油)の投入が期待される。永田CEOは、ミドリムシ由来の原料の価格が廃食油などの原料価格を下回った(ゴールデンクロスした)タイミングで原料として供給していくことになると語る。
「ペトロナスとエニが我々に期待していることの1つがこれです。この規模感のプラント・パートナーに対して、ベンチャー1社が約3分の1(のシェア)というほぼ対等な条件を勝ち得ていることに、高いリスペクトを頂いていると思っています」(永田CEO)
また、永田CEOは、
「商業プラントの2機目の計画や、バイオ燃料の原料を独自に調達・開発することを並行することで、この1機目にとどまらず、世界の中で非常に存在感のある燃料プレーヤーになっていくことを目指して参ります」(永田CEO)
と、バイオ燃料事業の展望を語った。
ユーグレナの永田暁彦CEO。
画像:ユーグレナ
ユーグレナでは、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の支援のもと、インドネシアでのミドリムシの大規模培養などの研究を進める計画があった。ただ、コロナ禍で計画はうまく進まず、現状は三重県多気町で研究を進めている。
大規模培養の研究は、ミドリムシ由来の燃料のコストに寄与する重要なものだ。ミドリムシ由来の原料調達のコストに関するBusiness Insider Japanの質問に対して、永田CEOは、
「国内での大量培養ではコストを実現できないことは分かっています」(永田CEO)
と回答。
加えて、研究開発の方向性について
「人件費、電気代などのユーティリティコストやCAPEX(資本的支出)を改善することで、とにかく投資コストの低いプラントを作っていく。このポイントを改善しつつ、藻類の品質改良、新規藻類の発見などを徹底的にやっていく必要があると考えています。培養技術は、世界のトップティアのパフォーマンスを出せるところまで習熟していると思っています。
また、『水を取り除く』だとか、エンジニアリングの領域でもコスト低減をしていく必要があると考えています」(永田CEO)
と語った。
屋台骨のヘルスケア事業は過去最高も…
ヘルスケア事業の売り上げの内訳。
画像:2022年12月期通期決算説明および今後の事業展望 資料より
ユーグレナがバイオ燃料事業を第2の主力事業にする上で必要不可欠になるのが、既存の主力事業であるヘルスケア事業の安定的な成長だ。
ヘルスケア事業だけを見ると、2022年は第3四半期まで減少基調が続いていたものの、広告投資を拡充できる状態になったことで状況が少し改善。主な売り上げであった直販のうち、キューサイ分は第3四半期までに底打ちし、キューサイ以外の既存のユーグレナブランドも第4四半期で下げ止まり。第4四半期には直販以外の部門での売り上げも伸び、売上高は112億8200万円と過去最高を記録した。
ただ、永田CEOは
「流通部門も含めた売り上げが増加をしている一方、期末におけるBtoBビジネスの在庫の移動による点もあります。これが今期の1Q以降も継続的に進むという状態ではないと思っています」(永田CEO)
と気を引き締める。
ユーグレナはこれまで、ヘルスケア事業の基本戦略として「ブランド群育成」「デジタル化」「マルチチャネル展開」を進めてきた。永田CEOは、今後もこの基本戦略で進めていくとしながらも、オフライン広告の方がパフォーマンスが良かったり、コロナ禍の影響などもあってか店舗販売が伸びていない実情があると話す。
ユーグレナとしてはこういった直近の事情を踏まえて、中長期的に「成長ブランドの創出」「顧客ロイヤリティの向上」「チャネル販売力の強化」「コストシナジーの創出」に注力していくとしている。
「スキンケア、そして食品等々の業界平均は3%から5%ほどです。そこを満たしながら、バイオ燃料の研究などを支えるEBITDAマージン10%半ばを実現することを中期的に果たして参りたいと考えています」(永田CEO)
ヘルスケア、バイオ燃料の次は「農業?」
ユーグレナの中長期イメージ。その他事業として、アグリテック領域への期待が高まっているという。
画像:2022年12月期通期決算説明および今後の事業展望 資料より
永田CEOは、バイオ燃料事業とヘルスケア事業に加えて、肥料事業(サステナブルアグリテック領域)がユーグレナの第三の事業の柱として広がり始めているとも発言。
バイオ燃料事業では、大量培養したミドリムシから油を抽出してバイオ燃料を製造している。実はこのとき、油を抽出したあとの脱脂粉末が未利用バイオマス資源として発生する。ユーグレナでは、この利用方法について長年研究開発を続けてきた。
2021年12月に、国内有数の肥料メーカーである大協肥糧がグループ入りしたことで、
「これまでの研究をかけ合わせて、新しい有機肥料の開発をしています。また、コンシューマー・流通のお客様たちからは、サスナビリティに注力しているユーグレナからの有機肥料という点への期待もあります」(永田CEO)
という状況だ。
ユーグレナでは現在、ミドリムシ由来の素材以外にもグループ内外から未利用バイオマス資源を集め、肥料や飼料としての転用可能性を探っているという。