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過去最大「単月3.5兆円」貿易赤字が示す日本経済の実態。このまま輸出減が続くと…

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1月は単月として過去最大の赤字幅を記録した。資源高や円安の影響はもちろんだが……。

REUTERS/Issei Kato

財務省が2月16日に発表した1月の貿易収支は3兆4966億円の赤字だった。単月として比較可能な1979年以降で最大の赤字幅となった。

2022年通年の貿易収支がやはり過去最大の赤字を記録して大きな話題を呼んだのが先月半ばのこと。それから1カ月も経たないうちに単月の最大赤字が発表され、筆者の元にも先行きを懸念する問い合わせが増えている。

例年、1月は中国の春節(旧正月)休暇などもあって(輸出が伸びず)赤字が膨らみやすい傾向にあるが、今回の発表詳細からは、中国以外の国・地域向けの輸出も相当に落ち込んでいることが分かる。

いずれにしても、3.5兆円という規模感は動向を常にウォッチしている専門家にとっては相応のショックで、円相場を語る上でも無視できない数字だ。

貿易赤字から読み取れるような「円を売りたい経済主体の方が多い」事実に変わりがない以上、アメリカの利上げペースなど金利をめぐる情勢がどう変わろうと、円安相場が大幅に修正されることはないだろう。

さて、通年の貿易収支発表後の寄稿(1月23日付)で、筆者は以下のように指摘した。

「日本では過去1年間、すでに触れた資源高や円安に伴う輸入額の増加に注目が集まったが、この先1年間は厳しい金融引き締めを経た欧米の景気後退入りが予想されており、今度は一転、輸出額の減少という事態に向き合う必要が出てくるかもしれない」

1月の貿易収支の内訳を見てみると、輸入は前年同月比17.8%増の10兆478億円、輸出が3.5%増の6兆5512億円。前月(2022年12月)からその兆候の見られた輸出・輸入の同時失速が顕著になり、結果として貿易赤字は期待されたほど減っていない【図表1】。

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【図表1】日本の貿易収支の推移(3カ月移動平均)。

出所:Macrobond資料より筆者作成

今後は資源価格下落の影響が顕著に織り込まれてくるので、貿易赤字ははっきりと減ってくる可能性が高く、その(需給変化による)為替相場への影響も想定されるが、少なくとも現時点では多くの市場関係者が期待するほど円高方向への修正は進んでいない。

日本の輸出は全世界に対して失速

貿易収支を品目別に見ると、「石炭」「液化天然ガス」「原油及び粗油」が輸入増をけん引する構図に変わりはないものの、「自動車の部分品」「半導体等製造装置」「プラスチック」「有機化合物」などの顕著な輸出減が、貿易収支改善の足かせになっていることが分かる。

下の【図表2】から一目瞭然のように、すでに一部の国・地域向けの輸出(伸び率)は前年を割り込むほど減速しており、欧米向けもここに来て下げ足を速めている。

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【図表2】日本の国・地域別輸出額伸び率(前年同月比)の推移。

出所:Macrobond資料より筆者作成

冒頭で触れたように1月は中国の春節休暇という特殊要因があるため、実態をある程度正確に把握するには、次回発表される2月の数字まで含めて見る必要がある。

それでも、欧米向けまで含めて輸出全般が失速傾向にあることは事実であり、直視せざるを得ない。

内閣府が2月14日に発表した2022年10~12月期の国内総生産(GDP)速報で、民間在庫変動(前期比寄与度マイナス0.5%)が成長率の押し下げ要因の一つとなった背景には、輸出失速に見られるような外需環境の悪化が影響していると思われる。

これから注目したいのは、国際通貨基金(IMF)が1月公表の世界経済見通しで示したような底打ちシナリオに沿って、日本がどれくらい輸出を回復できるかだ。

市場予想を大幅に上回る強さを(1月の雇用統計で)示した労働市場など、アメリカ経済の昨今の好調ぶりを見ていると、日本からの輸入増を期待できる面も確かにある。

一方で米連邦準備制度理事会(FRB)が続けてきた利上げの景況への影響が本格的に可視化されるのはこれからとの見方もあり、予断を許さない。

筆者が過去の寄稿で繰り返し強調してきたように、利上げは春で終わりとの見方は過度に楽観的であって、すでに金融専門家の間では6月以降も利上げが必要との声まで上がっている。

逆にそれほどに米経済が強いのだとすれば、少なくともそれが減速に転じるまでについては、日本からの輸入が増える可能性はあると言えるだろう。

もう「円安では輸出は増えない」

前節で見たような輸出の減速と併せて、その「円安との関係性」にも目を向けておきたい。

2022年は10月に152円付近まで円安が進んだ。その後円高方向の反発を経て、年明け以降のドル円相場は130円前後で推移している。

一方、輸出額の前年比変化率は過去3カ月(2022年11月~2023年1月)平均がマイナス7.4%、、過去6カ月(2022年8月~2023年1月)平均でマイナス3.3%、過去12カ月(2022年2月~2023年1月)平均だとマイナス2.5%と、失速の勢いが強まっている。

かつて円安は輸出拡大を焚き付け、それを起点に日本経済の好循環が生まれると見られてきたが、下の【図表3】を見ると分かるように、そのような流れはすでに存在しない。

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【図表3】ドル/円相場と輸出数量の推移(3カ月移動平均)。

出所:アイ・エヌ情報センターデータベース(INDB)資料より筆者作成

なお、このような事実は最近急に明らかになったことではなく、アベノミクス以降のおよそ10年間をかけて確認されてきた事実であって、そうであれば本来は金融政策を徐々に修正すべきだった。

しかし、その時期の円安相場は「悪い円安」が社会的に認知されるほどには至らず、結果として、金融政策を修正すべきという世論の高まりにもつながらなかった。

ただ、あまりに多くの時間を要したものの、2022年はついに円安のもたらす弊害が広く認知されるようになった。「悪い円安」は流行語大賞トップ10入りした。

異次元緩和という技術的挑戦を通じて、円安が「万能の処方箋ではない」ことを日本国民に知らしめたのは、黒田体制の功績の一つに数えられるだろう。

客観的に見れば、円安が実体経済にもたらす影響は、輸入物価の上昇を経て国内の物価全般を押し上げ、交易損失の拡大を通じて実質所得環境を悪化させ、消費・投資意欲を削ぐものになるはずだ。精彩を欠く日本経済の現状と照らし合わせると、つじつまが合うように思える。

あらためて、貿易赤字から読み取れる「円を売りたい経済主体の方が多い」実態、ひいては需給主導の円売り(円安方向の圧力)は、2023年も引き続き目の離せない重要な論点であり続けると筆者は考えている。

※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。

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