クラウドインフラ市場シェア首位のアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)を筆頭に、大企業のコスト見直しがクラウド事業者の売上高成長率に大きな影響を及ぼし始めている。
REUTERS/Dado Ruvic/Illustration
売上高成長率の伸び悩みに苦しむ写真・動画共有アプリ「スナップチャット」運営の米スナップ(Snap)が、経費節減に向けた取り組みの一環としてクラウドサービスへの支出見直しを進めている。
同社のデレク・アンダーセン最高財務責任者(CFO)は2月16日に開催した投資家向け事業説明会の席で、人件費に次いで支出の大きな割合を占めるインフラコストの削減努力に言及。
利用中のクラウドサービスについて、「より安い価格で利用し、プロバイダーとの協力関係をより有効に活用するため、契約内容を見直して更新した」ことを明らかにした。
スナップは2017年にニューヨーク証券取引所(NYSE)に上場。当時提出した申請書類の開示情報から、グーグルクラウド(Google Cloud)およびアマゾン・ウェブ・サービス(Amazon Web Services、AWS)とクラウドサービス契約を締結していることが判明している。
先述の投資家向け事業説明会では、複数のスナップ経営幹部がこれらの契約に触れ、グーグルクラウドと5年総額20億ドルの長期契約を近ごろ締結したことや、AWSとの2021年12月末までの契約総額が10億ドル規模に及んだことを明らかにした。
CFOのアンダーセン氏は、同社が取り組むクラウドコスト削減策がどの程度の規模感になるのか明確には語らなかったものの、デイリーアクティブユーザー1人当たりのインフラコストの推移をプロットしたチャートを提示。2年前の2.78ドルが現在2.31ドルまで圧縮されたことが分かった。
同氏は以下のように説明した。
「効率を意識したプロダクト設計、クラウドサービスの乗り換え(による各種費用の削減)など、当社はユニットコスト(ユーザー1人当たりの獲得維持単価)の効率的なマネジメントに注力してきました」
グーグルとAWSにそれぞれ取材対応を求めたが、前者はコメントを拒否。後者はメールに対し応答がなかった。
クラウドサービスはここ数年、グーグルやアマゾン(Amazon)、マイクロソフト(MIcrosoft)のような巨大テック企業の大きな収入源に成長し、今後の業績拡大をけん引するコア事業として各社とも期待を寄せてきた。
ところが、2021年冬に始まる株式市場の低迷や差し迫るグローバル規模の景気後退を前に、ハイテク企業各社はコスト削減を柱とするディフェンシブな経営姿勢に転換。クラウドプロバイダーに毎年支払う巨額の利用料金はその槍玉に挙がっている。
例えば、AWSの売上高成長率は2022年に前年比で半減という大幅な落ち込みを記録(2021年は40%増、22年は20%増)。グーグルクラウドは2021年の44%増から22年に32%増へ、マイクロソフトのAzure(アジュール)も46%から31%へ、それぞれ伸び率が低下した。
クラウドインフラ市場シェアトップ3社について、以下に四半期ごとの売上高成長率(2021〜22年)の推移をチャートで示しておく。
アマゾンのクラウド部門(AWS)四半期売上高成長率の推移。
Chart: Ricki Lee/Insider Source: Amazon quarterly earnings report
マイクロソフトのクラウド部門(Microsoft Azure)四半期売上高成長率の推移。
Chart: Ricki Lee/Insider Source: Microsoft quarterly earnings reports
グーグルのクラウド部門(Google Cloud)四半期売上高成長率の推移。
Chart: Ricki Lee/Insider Source: Google quarterly earnings report
クラウドコストの削減を進めているのはスナップだけではない。テスラ最高経営責任者(CEO)のイーロン・マスク氏が買収して経営トップを兼務、大規模人員整理など大胆なコスト削減を進めるツイッター(Twitter)も同様だ。
ツイッターの内情に詳しい関係者2人の証言によれば、マスク氏の複数の側近が現在、同社にクラウドサービスを提供するグーグルクラウドとAWSを相手取り、契約条件の見直しを求めて交渉中という(メディアの取材に答える社内権限を持たないとの申し出から、証言者はいずれも匿名とした)。
なお、ツイッターが上場廃止(2022年11月)前に発行した最後の株主宛てレターで示した開示情報によれば、同社の売上原価5億1500万ドルのほとんどをクラウドサービス利用料金が占める。