バンクーバー在住のフリーランス・ライター、トニー・ドンはAIなどのツールを駆使して仕事をしている。
Courtesy of Tony Dong
バンクーバーに住む金融ライターのトニー・ドン(Tony Dong)は自分の時間を効率的に使っている。
Insiderが確認した書類によれば、27歳のフリーランス・ライターのドンは2022年に14万9000カナダドル(約1490万円、1カナダドル=100円換算)を稼いだ。ドンの計算によると、週当たりの労働時間はおよそ30時間だったという。
ドンは主に上場投資信託(ETF)分野を専門とするライターで、USニューズ&ワールド・レポート (U.S. News & World Report)やモトリーフール(The Motley Fool)などの媒体向けに記事を書いている。彼がフルタイムのフリーランスになったのは2022年4月のことだ。旅行に使える余剰資金を稼ぐために1年ほどライターの副業を試してみたところ、これで生計を立てられると気付いたという。
「いきなり仕事を辞められたわけではないんです。最初に辞めようとした時は、前の晩に怖くなって結局辞められませんでした」とドンは振り返る。当時彼は、メトロバンクーバーの公共交通機関を運営するトランスリンク(TransLink)でシニアリスクアドバイザーとして働いていた。
「この仕事を一生続けるか、それとも失敗してもいいから挑戦してみるか。どちらのほうが後悔が大きいかを考えたんです」
そして2022年3月、ついにフルタイムの仕事を辞めた。その翌月にはフリーランスの仕事だけで1万700カナダドル(約107万円)を稼いだという。5月も安定的にフリーランスの仕事を続け、約1万900カナダドル(約109万円)を得た。2022年で最も稼いだ月は9月で、1万7000カナダドル(約170万円)を稼いだという。
2022年のドンは、1週間のうち約24時間を執筆に費やし、さらに6時間を直接収入にはつながらない作業に時間を使っていたという。
「例えば、クライアントに請求書を発行するとか、自分の帳簿の管理といった仕事です。会計も確定申告も自分でやっていますから。クライアントとのやりとりもあります。執筆は人と関わる仕事なので、編集者ともやりとりをしなければなりません。彼らも生身の人間ですからね」
2023年、ドンはもっと多くのお金を稼ぐつもりだ。
「少なくとも20万カナダドル(約2000万円)、最高で26万カナダドル(約2600万円)といったところでしょう。この間に収まるぐらいの額を稼げればいいなと思います」と彼は言う。ドンは夏に旅行をする機会を増やしたいと思っているので、夏は仕事を減らしている。そのため、その間は月収も低めになるのだという。
執筆中はスマホの通知をオフにして、メールもチェックしないという作戦で生産性を上げられるという。さらに、仕事中の能率を最大化するためにも、睡眠を優先し、きちんとした食事を摂り、定期的に運動をするといった一見シンプルなことを実践している。
その一方で、ChatGPTなどのツールを用いることで仕事の効率化を図ってもいる。
どんな経歴の人であれ、副業としてフリーランス・ライターに挑戦してみることはできるとドンは言う。
彼の人生における執筆経験は主に「学校や仕事のために書いたたくさんのレポート」から得たもだった。彼は現在コロンビア大学の大学院生であり、企業のリスクマネジメントを研究して修士号を取得しようとしている。
「執筆は資格なければできない仕事ではありません。ただ書けばいいんです。自分が強い関心を持つトピックを選んでみてください。そうすればもっと自然に文章が湧き出てくるはずです」
フリーランスになりたてで、フリーのライターを必要とする出版社からなかなか仕事をもらえないのであれば、ミディアム(Medium)やサブスタック(Substack)など自分でコンテンツを発信できるプラットフォームを試すのがいいと、ドンは言う。
「自分がフリーのライターに向いているかどうかを知るにはそれが一番です。もし向いていなくても、それはそれでいいんです。こうしたプラットフォームを使えばいろいろな人からフィードバックをもらえます。人はオンラインで誰かに自分の意見を伝えたがっていますからね。
ただ、みんながみんな好意的な意見とは限りません。私も何度かとても意地悪なコメントをされたことがありますが、フリーランスとして自分を売り出すならそういうことも避けては通れません」
以下は、ドンがより良く、より効率的に仕事をするために使っている3つのツールだ。
ChatGPT
ドンはAIチャットボットであるChatGPTを「バーチャルアシスタント」として使っている。記事のタイトルを考え、アウトラインを作成するのに役立つのだという。
例えば、サイバーセキュリティ関連のETFについて記事を書いていた時、ドンはChatGPTに「魅力的で、説得力があり、面白いタイトル」を3つ考えるよう頼んだという。「指示はとても具体的にしなければなりません」
ChatGPTの回答の中で特にドンが気に入ったのが、「脅威の先を行け 未来のための3つのサイバーセキュリティ関連ETF」だったという。「私はタイトリングに苦労することが多いんですが、そのタイトルはとても気に入りました。そんなタイトルはとても思いつきません」とドンは言う。
また、ドンは記事のアウトライン作成にもChatGPTを役立てている。ChatGPTを使って作ったアウトラインを編集者へと送り、記事のアイデアを売り込むこともしばしばだという。
記事の構成をどうしたらよいかが分からない時は、ChatGPTにこんなふうに尋ねるという。
「『最高のS&P 500連動ETFについての記事があります。タイトルと小見出し付きで、記事のアウトラインになりそうなものを3つ書いてくれませんか?』こんなふうに尋ねると、ChatGPTが望み通りのものを出してくれるのです」
とはいえ、すべての記事でChatGPTを使用しているわけではない。例えば、自分がよく知っているテーマについて記事を書く場合はChatGPTの助けは大して(あるいはまったく)必要ないという。しかし、あまり知らないテーマについて書く場合は、ChatGPTに助けを求めることにしている。
「企業としてのアップル(Apple)の記事を書かなければならなくなっても、私はアップルについて何も知りません。私は有望株を選ぶ専門家ではありませんから。そこで私はこう尋ねます。『ねえ、ChatGPT、投資先としてのアップルに関して、面白い事実を5つ教えてくれませんか』」
すると、ChatGPTはアップルがある製品を発表した時、収益がどれほど増加したのかに関する情報を提示してくれるかもしれないとドンは言う。
「ライターとして、その情報のファクトチェックは必ずしなければいけません。私ならアップルの財務諸表を見てみるでしょう。ただ、ChatGPTがどんな情報を探せばいいかを教えてくれるので、調べるとっかかりを見つけることができるのです」
とはいえ、ChatGPTは「記事を書くことはできない」という。ドンは自分がすでに書いた記事と同じ内容を書くような指示をChatGPTに出し、その執筆能力をテストした。
「記事のアウトラインを貼りつけ、ChatGPTが何を出してくるか試してみたこともあります。ですが、私の記事からは程遠い代物でした。曖昧すぎてありきたりな内容だったのです。誤解を生むような言及もたくさんありました」
仮にChatGPTの記事作成能力が優れていたとしても、記事作成目的で使用することはないだろうとドンは言う。「私には私が書いたものを読んでくれる読者がいるのです。読者はAIが書いたものを読みたいわけではありません」
だからこそ、「ツールとしてのChatGPTをライターが恐れる必要はないと思う」とドンは言う。
「いずれ、ChatGPTを恐れるのではなく、ChatGPTと協力するための方法を学ばなければいけない時が来ます。恐れていては理解できませんよ」
Grammarly(グラマリー)
ドンはオンラインで使える執筆補助ソフト、グラマリーを使い、トーンや文の構造を修正するのに役立てている。
「グラマリーは文法や句読点やスペルをチェックするだけだと思われていますが、他にもできることがあるんです。グラマリーはより読みやすい文の構造を提案してくれます」
グラマリーを使ったことで、より簡潔かつ(受動的ではなく)能動的なトーンの文章が書けるようになった。そのトーンのおかげで「読者に記事が響くようになる」のだと、ドンは言う。ドンいわく、グラマリーはいわば自分の口調を修正してくれる専用のスピーチライターのようなものなのだ。
グラマリーは登録さえすれば誰でも無料で利用できる。また、月12ドル(約1600円、1ドル=134円換算)のプレミアムプランもあり、ドンが使用しているのもこのプランだ。「このプランに入れば自分の書いたものにより説得力を持たせられます。料金を払う価値はありますよ」
ドラゴン・プロフェッショナル(Dragon Professional)
ドンが有料で利用しているもうひとつのツールが、音声認識ソフトのドラゴン・プロフェッショナルだ。記事をパソコンで打ち込んで執筆する代わりに、マイクに音声を吹き込み、ドラゴンに文字起こしをしたファイルを作成してもらうことができるのだ。
「私は早口なので、ドラゴンに向かって話すと自分の意識の流れがそのまま文章になるんです。ドラゴンの音声認識は優秀で、文の構造も理解してくれます。そうやって書き起こしたものを、グラマリーでチェックします」
ドンはドラゴンを買い切りで購入した(ドラゴン・プロフェッショナルの最低価格は500ドル〔約6万7200円〕)。無料の音声認識ソフトも出回っているが、その性能は価格分(すなわちゼロ)の期待値しか得られない。
例えば、マイクロソフト(Microsoft)のWordには音声認識機能が搭載されているが、「とても性能がいいとは言えない」とドンは言う。しかしドラゴンなら「Wordのような過ちを犯すことはなく」(ドン)、値段に見合うだけの価値はあるという。
また、フリーランスであるドンは、こうした出費を経費として所得から控除することができる。「コストを恐れてはいけません」と彼は言う。
「私はお金を出して買ったものを投資から得たリターンだと思っています。グラマリーのプランに課金したなら、その課金分は記事を1〜2本余分に執筆すれば相殺できます。そして、グラマリーを使えば使うほどその投資からのリターンを得られる。このように長期的な視野を持つことが大事なのです」