2022年11月、サッカーW杯では優勝4回を誇るドイツ代表に日本代表が歴史的逆転勝利。だが、実態経済では長年世界2位、3位を維持してきた日本を逆転する日が近づきつつある。
REUTERS/Fabrizio Bensch
国内総生産(GDP)の規模が日本と最も近いのはドイツだ。日本は世界3位、ドイツは4位。ともに第二次世界大戦の敗戦から復興を成し遂げ、今日まで製造業を基幹産業とする点も重なる。
2022年の両国のドル建て名目GDPの差はわずかに1700億ドルとなっている(日本経済新聞による試算、2月19日付)。
2022年の円安進行が大きな要因とはいえ、この20年間で日本の成長力が大きく減衰してきたのは多くの経済専門家が指摘するところだ。
日本とドイツの順位が逆転する日はそう遠くないのかもしれない。
ロシア・ウクライナ戦争を背景とするエネルギー危機に見舞われながらも、力強い成長を維持し、世界3位の大国へと躍進を遂げようとするドイツ経済の現状を把握する端緒として、Insider編集部は、同国の求人プラットフォーム「クヌヌ(Kununu)」が保有するデータを分析してみた。
「年収高いほど幸福度高い」との研究もある
ところで、本題に入る前に、報酬と幸福度の関係に少しだけ触れておきたい。
研究者たちは長い間、お金だけでは幸せになれない、あるいは一定の年収に達すると幸福度は頭打ちになるという意見で一致してきた。
例えば、ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンとアンガス・ディートンは2010年、幸福度が頭打ちとなる年収は約7万5000米ドル(約1000万円)という研究結果を発表した。それ以上年収が増えても、幸福度との相関は見られないと2人は結論した。
しかし、近年ではこの定説を揺るがす研究結果も出てきている。ペンシルバニア大学の心理学者マシュー・キリングスワースが主導した研究もその一つだ。
キリングスワースらは、世帯年収が高い人ほど(それがカーネマンらの主張する「幸福度の頭打ち」年収をはるかに超えても)人生の満足度と日々の感情的な幸福度は高いことを発見した。お金で幸せを手にすることも可能というわけだ。
ただし、この研究は世界で最も競争の激しいアメリカの労働市場における調査に基づくものであることに留意が必要だろう。
キリングスワースらによれば、お金が人を幸せにするのは、お金で自分の人生をコントロールできるという自信を与えることがその理由という。理論的には確かにそうかもしれない。
それにしても、そうした幸福感に浸れるほど高水準の収入とはどのくらいで、そこにたどり着ける職業とは一体どんなものだろうか。
平均年収は699万円、職歴10年以上で823万円
収入を話題にするのは多くの人にとってタブーであり、他の会社はおろか自分の会社でも誰がどれだけ給与をもらっているのかを知るのは難しい。
求人プラットフォームのクヌヌによると、ドイツでは10人中6人が、現在の雇用主に全従業員の給与の範囲(最低額と最高額)を開示してほしいと望んでいる。
仮に企業内で給与の透明性が確保されたとしても、外部と比較するのはやはり簡単ではない。自分の職種や業界では、どの程度の収入が相場なのか、あるいはどのポジションに就けば高い給与を期待できるのか。それを知りたいのが、多くの人の本音だろう。
こうした疑問に答えるのが、匿名ながら従業員当人による雇用主の評価や現在の給与額が蓄積されたクヌヌのデータだ。
Insiderはそのうち、合計56万件におよぶ給与データに基づいて、ドイツで高い収入を得ている職業トップ10を明らかにした。
ちなみに、分析結果からはじき出されたドイツの平均年収は4万8538ユーロ(約699万円、1ユーロ=144円換算)で、管理職になると年収は平均1万4392ユーロ(約207万円)上積みされる。また、専門職で10年以上の経験を持つ人の年収は約5万7565ユーロ(約829万円)となっている。
以下にトップ10を紹介しよう。
【第10位】ソフトウェアアーキテクト
年収:8万2912ユーロ(約1194万円)
概要:ソフトウェアアーキテクトは、ITプロジェクトの全体設計と実装を担当する。顧客とエンジニアの調整を担うため、ビジネスコミュニケーション能力とソフトウェアの専門知識の両方が求められる。
【第9位】弁護士
年収:8万3752ユーロ(約1206万円)
概要:ドイツで弁護士になるには、法律を学んだ後、2回の国家試験に合格し、司法修習を受けなければならない。大学法学部の課程と司法修習を含めると、最低でも7年間はかかる。就職先は民間企業、公共セクター、法律事務所と幅広く、独立を目指す道もある。
【第8位】パイロット
年収:8万5585ユーロ(約1232万円)
概要:パイロットになるための適性試験に合格した者は、ドイツ連邦軍、パイロット養成学校または民間航空会社で2年間の訓練課程を修了後、晴れてパイロットとなる。操縦技術だけでなく、航空管理・操縦学、航空システム技術・管理学(ILST)などの学位を取得していると、航空業界で上級職に就く機会が広がる。
【第7位】セールスマネージャー
年収:8万6143ユーロ(約1240万円)
概要:営業・販売の管理職であるセールスマネージャーになるための道のりはさまざまだが、一般的に経済学や経営学の学位取得者が多い。早くマネージャー職に就きたいのであれば、中堅企業を選ぶ道もある。常に販売目標を課せられるので精神的なレジリエンス(強靭さ、回復力)や、チームで目標を達成するために部下への共感力が求められる。
【第6位】プログラムマネージャー
年収:8万7332ユーロ(約1258万円)
概要:複数の関連するプロジェクトを統括する責任者がプログラムマネージャーであり、単一のプロジェクトを管理するプロジェクトマネージャーとして実務経験を積んだ者が就く役職。プロジェクトマネージャーに比べて、より長期的なビジネス目標や利益の達成を要求される。
【第5位】コマーシャルマネージャー
年収:9万4263ユーロ(約1357万円)
概要:コマーシャルマネージャーは、収益管理の責任を負う役職であり、特定の事業、製品、あるいは地域を統括することが多い。中堅企業などでは、会社全体の財務に責任を持ち、経営トップ直属で動くこともある。
【第4位】シニアエンジニア
年収:9万6636ユーロ(約1392万円)
概要:シニアエンジニアとは、エンジニアチームのリーダーを意味する。企業によっては、技術開発プロジェクトを統括する立場であったり、新しい技術をビジネスプロセスに組み入れる責任者であったりする。工学と経営学の両方の修士号を持っていれば、シニアエンジニアになれる可能性が高まる。
【第3位】プラントマネージャー
年収:10万2568ユーロ(約1477万円)
概要:プラントマネージャーは、製造工場の運営をすべて監督し、ルールやプロセスの順守、品質、安全性、生産性に責任を負う。予算や経営資源の管理、戦略的計画の立案に関しても適切な知識を持ち、かつリーダーシップを発揮することが求められる。
【第2位】医長
年収:13万6861ユーロ(約1971万円)
概要:医長は優れた専門医であるだけでなく、他の医師や看護師などを指導し、治療計画を組織的に実行し、予算をコントロールしなければならない。戦略の立案と実行管理にも携わる。6年間の医学課程を修了後、4〜6年のトレーニングを経て専門医となった後、何年もの経験がないと就くことは難しいポジションだ。
【第1位】パートナー
年収:14万6818ユーロ(約2114万円)
概要:コンサルティング会社や法律事務所、監査法人などプロフェッショナルファーム(専門職組織)のパートナー(共同経営者)が、ドイツで最も高い収入を得ている職業だ。いくつものプロジェクトを成功させ、組織に多大な収益をもたらした者のうち、既存パートナーの合議によって認められたごく一部の者がその栄冠を手にする。