CRVパートナーのアンナ・カーンによると、成功するピッチデックには5つのポイントがあるという。
CRV
アンナ・カーン(Anna Khan)は、VCはもっと背筋を伸ばすべきだと考えている。
CRVのゼネラル・パートナーである彼女は最近、ある起業家についてツイートした。その起業家は、スタートアップのピッチデックにカーンが積極的に参加してくれたことに感謝する一方、「ほとんどの人は30分間私を見つめるだけで、1週間後には忘れてしまう」と述べた。
このツイートには、ピッチ中にVCがメールをチェックする話から、完全に居眠りしてしまう話まで、ホラーストーリーのような反応を伝える声が殺到した。
「彼がそう話した時、私はとても残念な気分になり、『いいえ、ピッチに積極的に参加することは文字通り私の仕事ですから』と言ったんです」
カーンは、投資家はどんな会議にも真剣に向き合うべきだと考えているが、起業家のピッチがそんな新たなホラーストーリーを生み出さないようにするために、起業家にはいくつかできることがあると言う。
カーンが考える、成功するスタートアップのピッチにおける5つのポイントと、起業家が避けるべき点について以降で紹介する。
「温かみのある紹介文」が全てではない
温かみのある紹介文は信頼を築くのに役立つが、投資家の注力分野を理解していることを示す、よく内容が練られた飛び込みの営業メールは、知り合いのつてで回ってきた紹介文よりもインパクトがある、とカーンは語る。
「最近のVCは、あらゆる情報をインターネット上に公開しています。以前は、起業家は投資家が何に注目しているのか、よく分かりませんでした。でも今は、VCの会社概要を読めば、そのVCが何を重視しているのか一目瞭然です」
カーンは、特定の市場や業界に特化したソフトウェアに関心を持っている。製造業や政府機関、金融サービスなど、古くからあるが十分にサービスが行き届いていない分野のビジネスに取り組む起業家に注目しているのだ。
これらの分野におけるテクノロジーは、ビジネス運営の中核をなすものであることが多いため、不況の中でも強く、撤退につながりにくいのだという。
数字を頭に入れておく
起業家がスタートアップのピッチを行う際、主要な指標を知っておくことはとても重要だとカーンは言う。
売上高や経常利益といった数字を示せれば言うことはないが、まだ収益が出ていないアーリーステージでのスタートアップ企業にはそれは難しい。しかし、DAU(デイリーアクティブユーザー)や顧客エンゲージメントなど、進捗状況を示す説得力のある数字を提示することは可能だ。
カーンは、具体的な数字よりも、起業家が「事業の正しいKPIを追跡」しているか、「投資パートナーとなる10年の間、起業家がどのように事業に取り組み、測定するか」をアピールすることが重要だという。
競合他社を把握しておく
カーンは、競合他社の知識についても語っている。
「投資家が、起業家よりも、その起業家の競合相手について詳しくあってはならない」と彼女は言う。
最も優れたスタートアップとは、その市場における従来の競合企業と新進気鋭のスタートアップのいずれも把握しており、なぜ競合を気にするべきなのか、または気にするべきでないのかが分かっているという。
興味深いことに、既存の強力な競合がいることは、スタートアップにとっては必ずしも悪いことではない、とカーンは指摘する。彼女はブログで、潜在顧客はすでに予算を持っており、その一部を(業界の大手企業のプロダクトに)割り当てている可能性がある。スタートアップは、営業をかけてシンプルにその予算を取りにいけばいい、とカーンは説明する。
「分からない」と言ってもいい
時として、起業家は投資家から答えのない質問に直面することがある。このような場合、答えをごまかしたり、即興で答えたりするよりも、率直に話した方がいいという。
「変な言い方かもしれませんが、これは初デートのようなもので、相手の要注意点が分かってしまいます。厳しい状況に陥ったときに彼らがどうするか。それが優良企業であろうとなかろうと、投資家の私たちに電話をしてきてそれを伝えてくれるのか、それとも私たちに悪い知らせを隠しておくのかを判断するのです」
返答に困った時、「御社の投資先企業はどうされていますか?」または「御社の投資先はどのようにこれを測っていますか?」といった、投資家のポートフォリオへの関心を示す、別の良い返答例もあるとカーンは言う。
ピッチは双方向である
VCがピッチで起業家を評価するのと同じように、起業家も同じようにVCを評価すべきだ。
カーンは起業家に、投資家がなぜ自分のピッチを聞くことにしたのか、あるいはなぜ自分のマーケットに興味を持ったのかを尋ねることを勧めている。これによって、より親密な会話になるだけでなく、起業家にとっては、投資家のその分野に対する真の関心度を測る機会にもなりうるからだ。
財務データを出し惜しみしない
起業家がよく受けるアドバイスは、VCのポートフォリオに含まれている競合他社と共有される可能性のある財務情報を提供しないように、というものだ。カーンによれば、市況が好調だった2020〜2021年ごろは、スタートアップが投資家に対し、自分たちの収益の数字を1つも見せないままタームシート(投資条件などが記された概要書)を要求することもあったという。
しかし、VC業界においては評判がすべてであり、起業家に害をもたらすような投資家はいずれその評判が明るみに出る、とカーンは言う。
特に必要がないと言われない限り、起業家はVCの投資判断に資するために積極的に財務情報を提供すべきだ。もし起業家が財務情報を出し惜しみするようであれば、「この市場においては、VCは別の起業家に行くだけです」とカーンは言う。