スーザン・ウォシッキー(Susan Wojcicki)は、ユーチューブの最高経営責任者(CEO)を10年近く務めてきたが、退任の意向を発表した。
Eric Gaillard/Reuters
- このところ、要職に就いていた女性の引退が続いている。最近話題になった、ユーチューブのスーザン・ウォシッキーもそのひとりだ。
- 要職を手放すという彼女の決断は、多くの女性が出くわす難問を示している。
- 女性は、偏見やステレオタイプ、家庭での重責などのハードルに直面している。
30代前半の野心に満ちた女性のひとりである私にとって、自分がロールモデルとしてきた女性たちが要職から退くのを目にするのはつらいものだ。
このところ、影響力のある女性たちがキャリアの縮小を決めたという話題が、ニュースの見出しをにぎわせている。ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン(Jacinda Ardern)首相、テニスのスター選手セリーナ・ウィリアムズ(Serena Williams)、メタのシェリル・サンドバーグ(Sheryl Sandberg)最高執行責任者(COO)。そして最近では、スコットランドのニコラ・スタージョン(Nicola Sturgeon)首相と、ユーチューブのスーザン・ウォシッキー(Susan Wojcicki)最高経営責任者(CEO)の名が挙げられる。
彼女たちを責めているのではない。彼女たちは多くのことを成し遂げたあと、おそらくは自分にとって最善の決断を下したのだろう。途切れることのない生産性と職業人としての成功を高く評価する世界では、自分を大切にすることが革新となる場合もある。
だが、私は心のどこかで、こう思わずにはいられない。彼女たちは長いあいだ、ガラスの天井を殴ったり蹴ったりしてきたせいで、疲れ果ててしまったのではないか。ガラスの破片でケガをしてしまったのではないか、と。
もしかしたら、こうした有名な女性たちは、キャリアから退くことで、ひとつの主張をしているのかもしれない。目もくらむほどの職業上の成功をめざし、かつ達成したあとに、そこから退くことも可能なのだと。つまり、ある分野の野心のダイヤルを上げ下げし、子育てや新しい挑戦などの別の分野に振り向けてもいいのだと、彼女たちは教えてくれている、と私は信じたい。だが、私は疑いを抱いている。
私の頭のなかでは、そうした女性リーダーたちの言葉が鳴り響いている。ウィリアムズは、引退をめぐるエッセイでこう書いている。「本当のところ、テニスか家族か、という選択を迫られたいなんて思ったことはありませんでした」。スタージョンは退任スピーチのなかで、要約すれば、自分のすべてをキャリアに捧げることはもうできないと語った。アーダーンは辞意を表明した際に、もう「余力がない」と述べた。ウォシッキーは「家族や健康、個人的な計画に重点を置いた新しい章を始めたい」と語った。
データに目を向けると、ウィリアムズが選択を迫られていると感じたのも、スタージョンとアーダーンがもうエネルギーがないと感じたのも、ウォシッキーが家族と健康に注力する時間が足りないと感じたのも、不思議ではないことがわかる。女性はリーダーになると、偏見にぶつかる。特有のステレオタイプに直面するし、家庭での責任も、男性より重い。そして職場でも、ボランティアイベントの計画や会議録のような、価値を認められない仕事を頼まれることが多い。
多くの女性、とりわけ有色人種の女性たちは、安価な保育や、有給の育児休暇、上司からのキャリア援助といった必要な支援を、雇用主や政府から受けられていない。多くの職場は、女性向けに設計されていない。それが、これほど多くの有能な女性が引退する大きな理由になっている可能性がある。
引退の決断は個人的なものではあるが、広範囲に影響を及ぼすこともある。私のような年下の女性たちに間接的に影響を与え、自分たちの居場所は上の方にはあるのだろうか、という疑いを抱かせないとも限らない。そうした懸念を払拭するために、リーダーたちは、女性の声に耳を傾け、女性を支援する政策を支持し、女性が職にとどまれるように、もっと意識して支える必要がある。
執筆や講演もおこなう弁護士アンディ・クレイマー(Andie Kramer)は、2019年のフォーブスの記事で、こう書いている。
「キャリアアップの追求に関して、女性と男性のふるまいが違うのだとしたら、それは、男女の生来的な違いのせいではなく、彼らが根本的に違うかたちで職場を体験しているからだ。男性は、受容と支援の場として職場を体験する。これに対して、女性は職場を、自分が『よそもの』である場所、キャリアアップの機会やリソース、ロールモデルを男性と同等に得られない場所として体験する」
女性リーダーの燃え尽き率は、男性よりも高い
リーダーを務めたことのある複数の女性がInsiderに語ったところによれば、彼女たちが経験した燃え尽き症候群は、頻繁に寝坊したり、医学的な治療を必要としたり、同僚に心配されたりするほどひどいものだったという。なかには、出世するために2人か3人ぶんの仕事を引き受けていたと語る人もいた。
そうした状況が改善する兆しは見えない。
マッキンゼー・アンド・カンパニーは先ごろ、「上級幹部レベルの女性リーダーは、男性と比べて、燃え尽き症候群、慢性的なストレス、極度の疲労を報告する率が高い」との調査結果を発表した。
こうした点を考えてみてほしい。2020年には、マッキンゼーの調査対象になった上級幹部レベルの女性のうち4分の1が、退職やキャリアのスローダウンを望んでいると回答した。2021年までに、その割合は3分の1に上昇した。
女性支援団体「リーン・イン(Lean In)」とマッキンゼーが2022年に発表した報告書によれば、女性リーダーが会社を離れる割合は、データ追跡を始めた2015年以来、最も高くなっているという。もっと待遇の良い会社で別の役職を見つける人もいれば、そうでない人もいる。
「対策を講じない企業は、現在いる女性リーダーだけでなく、次世代の女性リーダーをも失うリスクを冒すことになる」と報告書の著者らは述べ、こう続けた。
「上級幹部レベルの女性たちが、より良い機会を求めて離職するのを目にした若い女性たちは、同じことをする心構えができている」
2022年に公開されたギャラップの調査では、アメリカで働く女性は、世界の労働者のなかでもとりわけ大きなストレスを受けていることが明らかになった。
リーン・インの共同創設者でCEOのレイチェル・トーマス(Rachel Thomas)は、これを「悲惨な状況」と形容している。
「幹部職に昇進する女性の数が十分ではない上に、いまや幹部職を離れる女性の数が増えている」とトーマスは2022年10月、CNBCの「メイク・イット(Make It)」に語った。
トーマスは、さらにこう続けた。
「上級幹部職の女性が依然として圧倒的に少ない世界では、このふたつの問題が一体となり、女性リーダーを引きとめようとする企業にとって、極めて痛烈なワンツーパンチになっている」