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アマゾン従業員が数千人、新たに立ち上げられたSlackチャンネルに参加し、同社の突然のオフィス復帰命令について意見交換をしている。一部は、この変更に反対する嘆願書を提出するために団結していることが、Insiderの取材で明らかになった。
2月17日の新方針発表から数時間と経たないうちに、5000人以上のアマゾン従業員が「リモートアドボカシー(Remote Advocacy)」と呼ばれるSlackチャンネルに参加したことが、Insiderが入手したスクリーンショットから判明した。
このチャンネルは「アマゾンでのリモートワークを守るために」つくられたもので、「リモートワークの利点に関するデータ、逸話、記事」を求めているという。2月21日の時点で1万4000人以上がこのチャンネルに参加している。
Slackチャンネルの説明文には「いい仕事をするのに対面である必要はないことを証明しよう!」と書かれている。
同チャンネルは、アマゾンのアンディ・ジャシー(Andy Jassy)CEOが社内メモで、5月から大半の従業員に「少なくとも週3日」のオフィス出勤を義務付けると発表した直後に作成された。ジャシーCEOは、対面での仕事の方が「コラボレーションや発明が容易かつ効果的になる」と述べている。
2月20日、ある従業員がジャシーCEOを「リモートアドボカシー」チャンネルに招待すると、他の者が、上級管理職を招待するとチャンネルを閉鎖される可能性があると警告している。
Insiderがアマゾンの広報担当者にコメントを求めたところ、次のような回答だった。
「当社は、オフィスに居合わせることが私たちの社内文化を強化し、コラボレーションと発明を促し、学習の機会を生み出し、チーム内のつながりを深めると考えております。
何十万人もの従業員を抱える企業として、当社が働き方、働く場所について決定を下せば、意見が分かれることもあります。当社では、従業員同士、そして従業員と上役とが意見を交わす権利を尊重しています。
このたびのガイダンスが人員削減を意図したものであるという指摘は事実誤認です」
社内は大混乱
問題のSlackチャンネルに参加したアマゾン従業員の多くは、フラストレーション、混乱、怒りをあらわにしている。発表が突然だったことと、上層部からの説明が不足していたことが、従業員の怒りに拍車をかけた。チャンネル内で行われた即席のアンケートでは、約8割の回答者が今回の変更を理由に転職を検討すると答えている。
ある人物はSlackチャンネルに次のように書き込んでいる。
「これでは社内が大混乱に陥り、従業員はおそらく四半期の間、いやもっと長期にわたって仕事に身が入らなくなるだろう。我々の日常がこれほど不確実なものになると、とてもじゃないが生産性を保てない」
今回の騒動に限らず、アマゾンの社内は今、大規模なコスト削減を迫られて混乱に陥っている。1月には同社史上最大となる1万8000人のレイオフを発表したほか、数多くのプロジェクトが縮小されたり凍結されたりした。アマゾンは深刻な成長鈍化に直面しており、株価はこの1年間で30%以上下落している。
問題のチャンネルでは、多くのチームが今や地理的に分散しているため、オフィスに戻る必要はないという意見が従業員らから出ている。また一部のチームでは、リモートワークの期間が長期化することを見越して過去数カ月の間にデスクの割り当てを廃止したため、混乱を招くと指摘する者もいた。
他にも、ジャシーCEOの発表が曖昧だったという声もあった。この状況に詳しい2人の人物によると、シニアマネジャーでさえ2月18日の発表を事前に知らされていなかったという。
また、アマゾンのオフィスがある都市圏に戻る従業員については通勤時間や家賃の負担が増えるとの不満も出た。ある従業員は、車での通勤が「週に最低12時間」増えることになり、「耐えられない」と書き込んでいる。
一方で、もっと皮肉な見方もあった。この変更も、自主退職者を増やしてコスト削減を図るための遠回しな方策ではないか、というのだ。会社がこの新方針を、全社会議ではなく長期休暇前の金曜日に発表したのは、上層部がポリシー変更について「えらくウケが悪いと分かっていたのだろう」と、ある従業員は言う。
新型コロナの健康被害や、勤務時間の自由度の低さのほうが問題だと言う従業員もいた。ある従業員は、5月1日には出社しないことにするかもしれないと言う。
「この変化に慣れるのは難しそうだ」と書く従業員もいた。
「働く場所を選ぶ権利」を求める請願書
言うまでもなく、オフィス復帰を命じたテック大手はアマゾンだけではない。アップル(Apple)、グーグル(Google)、セールスフォース(Salesforce)など、同業他社の多くが同様のことを義務づけている。
だが、アマゾンの従業員は反撃するつもりのようだ。問題のSlackチャンネルでは、従業員がオフィス復帰命令に反発するための嘆願書をまとめている。Insiderが入手したスクリーンショットでは、共有ドキュメントに具体的なデータや逸話を載せるように勧める書き込みが見られた。
請願書の草稿には、「以下に署名したわれわれアマゾン従業員は、オフィス復帰命令を受け、遠隔地を含め働く場所を選ぶ権利を請願し、命令に反対するデータケースを提示する」と書かれている。
嘆願書には、リモートワークに対する従業員の強い選好を示すデータも掲載されていた。2022年の社内アンケートでは、アマゾン社員の56%が「月に1回のオフィスでの打ち合わせ」を希望し、31%が「週に1〜2日はオフィスに行きたい」と回答したと、嘆願書には書かれている。また、在宅勤務時の集中力は93%が良好と回答しているのに対し、オフィスについて同じことを答えたのは68%にとどまった。
嘆願書では、復帰に反対する理由として、大きく6つの点を挙げている。
- リモートワークは労働者の生産性を向上させる
- 労働者は働く場所の選択を希望する
- リモートワークにより、優秀な人材を採用し、育成することができる
- リモートワークはアマゾンとアマゾン従業員にとってコスト削減になる
- リモートワークはワークライフバランスを向上させる
- オフィス勤務は、親、マイノリティ、障害者である従業員に悪影響を及ぼす
嘆願書は、オフィス復帰の新ポリシーが、リモートワークに関するアマゾンのこれまでの声明に反するものとしている。例えばジャシーCEOは2022年、従業員に対して「すべてのチームが最適に働く方法について、画一的なアプローチは存在しない」と述べている。
今回の動きについて嘆願書には他にも、アマゾンが表明しているアフォーダブル住宅や気候変動対策へのコミットメントとも矛盾しているとも述べている。嘆願書は次のように述べている。
「以下に署名する者は、アマゾンがオフィス復帰命令を直ちに撤回し、従業員がチームや職務の許す限り、リモート勤務、またはより柔軟な働き方を選択できるような新方針を発出することで、世界的な小売・ハイテク業界のリーダーとしての役割と地位を守るよう求める。
アマゾン上層部には、全従業員の公平性と包括性を高める労働方針を策定することで、『地球上で最高の雇用者』を目指すというアマゾンの使命を守ることを求める」