セールスフォースの マーク・ベニオフCEO。
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Insiderが入手したセールスフォース(Salesforce)の社内Slackのメッセージによると、同社のマーク・ベニオフCEOは、職場復帰の義務化やスタックランキングという人事制度実施の方針を含む年間戦略計画を修正した。この変更は2023年2月中旬、計画の原案について従業員からフィードバックを募った後に行われたとメッセージには書かれている。
新しい原案のトーンが以前より和らいだとはいえ、セールスフォースの内部関係者によると、同社は依然として成果重視を厳格化させる方向へと向かっているという。
2月中旬にSlack経由で社員に共有された、セールスフォースの新年度の年間戦略計画「V2MOM」(ビジョン〈Vision〉、価値〈Values〉、方法〈Methods〉、障害〈Obstacles〉、基準〈Measures〉の頭文字)の初期の原案では、マネジャーが年間5%を目標に「成績下位者」を辞めさせることが求められていた。
しかし、2月20日夜、Slackの社内チャンネルに投稿されたセールスフォース社員へのメモの中で、ベニオフは、スタックランキングとして知られる評価制度の提案を軟化させるつもりだと書いている。
Insiderが入手した修正案によると、年間5%という目標は削除され、「マネジャーは社員を評価し、成績優秀者には報酬を与え、成績不振者は退場させて、私たちの豊かな新しい未来を確実にすること」と書かれている。ベニオフはSlackの投稿で、業績評価から 「ランキング」という概念を「完全に」削除するとも書いていた。
一部の従業員はこの言葉の変更について、一定数の人に成績が悪い人というレッテルを貼るよう強いるスタックランキングの考え方を実質的に変えるものではない、と警戒感を抱いている。
修正案を読んだセールスフォースの社員はInsiderにこう語る。
「彼は今でも業績重視のカルチャーを推進しています。ただ5%という目標を外しただけで、そうしないというわけではありません。別のマネジメント方法を探すだけでしょう」
新たに課せられたオフィス復帰の義務
ベニオフは、オフィス復帰の義務化についても言及している。こちらも社員の意見を聞いて修正したものだ。現在、社員には週3日、「顧客対応」の社員には週4日の出社を義務付けている。エンジニアは当初の原案にあった20日から日数を減らし、四半期ごとに10日間オフィスで仕事をすることが義務付けられる予定だ。
1年ほど前、ベニオフは厳格なオフィス復帰の義務を課している他社を批判していた。
しかし、ここ数カ月でその論調は大きく変わった。セールスフォースは、アクティビスト投資家集団からの圧力に晒されている。彼らは同社に対して経費を削減し、派手で高額な買収を抑制し、そして何より、エンタープライズ向けソフトウェアの需要が衰え、四半期成長率が鈍化する中で、半分近くになってしまった株価を上昇させることを望んでいるのだ。
V2MOMの改訂版には、「当社の利益率の向上は売上高の伸びよりも重要である」と書かれている。2022年9月に開催された2022年投資家向け説明会で、同社は経費と買収コストの削減を通じて、2026年度までに営業利益率を25%にすると約束した。
ベインに「リストラ」支援を依頼
戦略計画によると、セールスフォースは「堅実な営業利益率の改善と持続的な成長を推進する」ためのリストラ実施の支援を、ベイン(Bain)に依頼したという。
ベインがリストラ支援のために雇われたという発表は、同社がこれまで発表した以上のレイオフが進行中であることを示すものなのかもしれない。
2022年11月に数百人の営業担当者を削減して以来、セールスフォースは人員削減を続けている。同社は、2023年1月に従業員の10%にあたる約7000人を解雇し、オフィス不動産の一部を売却するリストラ計画を発表した。
それ以来、その10%削減計画に基づき数千人の従業員が解雇を通告されている。残された従業員は業績アップへの圧力が高まるのを感じており、解雇された者より少ない額の退職金とともに辞めるよう圧力を受けている人もいる。
セールスフォースは、正式なリストラ計画に含まれる10%の従業員全員に通達を行ったかどうかをまだ明らかにしていない。Insiderは以前、この件に詳しい人物が述べたこととして、同社が1月に、さらに10%の人員削減の必要性について精査していたと報じた。
パンデミック中、多くの人がリモートワークに移行するのに伴い、セールスフォースの企業向けクラウドソフトウェア製品の需要は高まった。2021年11月には、同社の株価は1株300ドル(約3万9000円、1ドル=130円換算)超の史上最高値を記録した。同社の通期決算書によると、2022年度の売上高は25%増の265億ドル(約3兆4450億円)に達した。
また2021年には、セールスフォースがこれまで行った買収の中で最も高額となる270億ドル(買収当時のレートで約2兆9000億円)でスラック・テクノロジーズ(Slack Technologies)を買収し、従業員数を5万7000人から7万3000人に増やした。
実はセールスフォースは、会社を家族のように思うことを従業員に奨励する「オハナ(Ohana)」文化があることで長く知られている。ベニオフは20日夜、Slackのメッセージでオハナに言及し、今後、それが業績評価の要素となることを指摘した。「評価には、単なる成果ではなく、どのように仕事が行われたかが考慮されます」と彼は書いている。
しかし、大量解雇や同社での生産性低下に関するベニオフの公の発言で動揺している従業員にとって、この言葉はもはや心に響くものではないようだ。
以前ある社員がSlackのチャンネルに投稿したように、こう書いた人もいた。
「幹部は二度とセールスフォースの社員を『家族』と呼ばないと約束できるのでしょうか? 自分のミスを補うために家族をクビにするということはありえないですから」